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  • レジデントのための心不全マネジメント(10)かかりつけ医にとってわかりやすい診療情報提供書とは?(衣笠良治)

医学界新聞

レジデントのための心不全マネジメント

連載 衣笠良治

2023.04.10 週刊医学界新聞(レジデント号):第3513号より

心不全増悪で入院となった80歳男性。3年前に急性心筋梗塞で入院既往のある患者さんです。これまで心不全症状は認めなかったものの,数日前より労作時の息切れを認め,初回の心不全増悪で入院。治療経過は良好で自宅退院が決まり,長年通院する近所の診療所に外来フォローを依頼することになりました。

 上記のケースでは,外来フォローをお願いするかかりつけ医に,適切な診療情報提供書を共有する必要があります。レジデントの皆さんは,心不全の患者さんを紹介する時にどのような項目を記載するべきでしょうか?

 心不全増悪で入院した患者さんが再入院する時期は,退院から30日以内である場合が少なくないことが明らかになりました1)。原因の一つとして,病院から地域のかかりつけ医への情報提供が不十分なため,ケアのバトンタッチがうまくいっていない可能性が指摘されています。ある海外の研究では,心不全再入院のリスクに,診療情報提供書・退院サマリーが退院後の初回診察までに届かない,届いても情報が不十分なことが挙げられています2)

 翻って日本の心不全診療の現場では,適切な情報提供が行われているのでしょうか? 厚生労働科学研究「地域におけるかかりつけ医等を中心とした心不全の診療提供体制構築のための研究」(研究代表者=磯部光章氏)では,病院に勤務する循環器内科医には「診療情報提供書に普段記載する情報」,診療所に勤務するかかりつけ医には「診療情報提供書に希望する情報」についてアンケート調査を行いました3,4)。まとめられた内容がに示したものです。それぞれを比較すると,病院循環器医とかかりつけ医との間で情報の重要度の違いがわかります。

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 心不全患者の診療情報提供書において,病院に勤務する循環器内科医が記載する情報と,診療所に勤務するかかりつけ医が希望する情報の上位10項目(文献3,4をもとに作成)

 特筆すべきは,アドバンス・ケア・プランニング(ACP)に関する情報です。かかりつけ医の半数以上がACPに関する情報を希望しているのに対して,病院循環器医の場合は上位10項目にすらランクインしておらず,記載しているのはわずか18.9%であったことが明らかになっています。退院前の体重,教育内容についても,かかりつけ医のニーズが高いにもかかわらず,病院循環器医はあまり情報を提供できていません。概して病院循環器医は医学的な情報を重視するのに対し,かかりつけ医は生活に関する情報を重視する傾向があると言えるでしょう。

 表の結果を踏まえ,かかりつけ医の視点を意識した診療情報提供書を記載するポイントについて,冒頭に示した症例をもとに解説します()。

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 かかりつけ医の視点を意識した診療情報提供書の見本(丸数字は本文での解説箇所と対応)

医学的な情報(図の①②⑨⑩)

 医学的な情報として心不全の原因疾患と心機能に関する情報は必須です。一般的な血液検査データと,胸部レントゲン,心電図の情報は添付しましょう。

 最初に簡潔な入院経過を記載します。よくある間違いとして,病院に勤務する医師は医学的な情報を重視するあまり,専門的な内容をいっぱい書いてしまいがちです。しかし,紹介先のかかりつけ医が循環器を専門としない場合,専門的な情報はそれほど重要視されない可能性があります。優先度の高い医学的情報を厳選しコンパクトにまとめ,かかりつけ医が求めている患者への教育内容や生活に関する情報に紙面を割いたほうが,相手の求める診療情報提供書に近づきます。

モニタリング基準(図の③⑥)

 退院後の外来管理の基準となる指標として,退院前(安定期)の体重とBNP/NT-proBNPは重要です。特に体重は有用と言えます。なぜなら病院の外来ではBNP/NT-proBNPの検査結果が当日に判明するものの,診療所では外注検査となり,その日の外来で結果を確認できないことから,すぐに評価できる体重が重視されるためです。体重の情報を提供している病院循環器医の割合は67.6%(表)と少なく,漏れやすい情報ですので意識して伝えるようにしましょう。

教育内容(図の⑤)

 心不全増悪は,自己管理の問題に起因する場合が多く,継続した患者教育が求められます。入院中の患者さんへの説明と外来での説明が食い違うと患者さんが混乱してしまいますので,入院中に行った教育内容を共有し,ケアが途切れないようにしましょう。

身体機能・生活機能(図の④⑦)

 心不全の患者さんは高齢者が多数を占め,身体機能・生活機能の低下を来しやすく,必要時介護サービスを導入するなどの心不全管理と生活の支援が必要となります。生活の場に密接にかかわるかかりつけ医にとって重要な情報です。

ACP(図の⑧)

 「急性・慢性心不全診療ガイドライン」では,患者の意志決定能力が低下する前に,治療や療養について患者・家族と対話するプロセスであるACPの実施をClassⅠで推奨しています5)。ACPは一回で終らず繰り返し行っていく必要があり,考慮すべきタイミングの一つとして,心不全による入院時が挙げられます。入院中に行ったACPを地域でも共有し,バトンをつなげていきましょう。

 心不全の患者さんは高齢者が多く,医学的な情報に加え生活に関する情報も退院後のケアに重要です。かかりつけ医に適切な診療情報を提供し地域で切れ目のないケアを実践しましょう。


1)J Am Heart Assoc. 2020[PMID:32378443]
2)Circ Cardiovasc Qual Outcomes. 2015[PMID:25587091]
3)Circ J. 2021[PMID:34234052]
4)Int Heart J. 2022[PMID:35296618]
5)日本循環器学会,他.急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版).2022.

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