医学界新聞

書評

2023.04.24 週刊医学界新聞(看護号):第3515号より

《評者》 医療法人社団悠翔会理事長・診療部長

在宅医療と看護師,重なるコンセプト

 久しぶりにアンダーラインをたくさん引きながら読んだ。看護師としてどんな働き方=生き方を選択するのか。医療機関経営者として,多くの看護師を採用し,そのキャリアアップに伴走してきた立場で考えさせられることが多かった。

 僕らがかかわる在宅医療は,もともと看護との親和性が高い。というよりも,在宅医療のコンセプトは看護のコンセプトとかなり重複する。ICUベッドで患者のバイタルを追い,指示通り医療処置をするのではない。暮らしの中で,その人が「患者」ではなく,一人の家族,一人の地域住民として最後まで生き切れるように,その人にとっての最善の選択を共に考え,そっと支援する。

 「ケアリング」という言葉が紹介されていた。対象者との関係性,対象者の尊厳を守り大切にしようとする倫理的態度,気遣いや配慮が具体的な援助行動として示され,それが対象者に作用する。そしてケアする人とされる人,双方の人間的な成長をもたらす。まさに在宅医療における医療者と患者とのかかわりのプロセスそのものだ。ケアリングのサイクルの中で共に仕事をする医師としてどうあるべきなのか,あらためて考えさせられた。

急速に変化する時代でどんなキャリアを描くか

 同じ医療者として,医師と看護師,キャリアの悩みも重複する。少子高齢化と疾病構造の変化に伴い求められる役割の変化は医師と同じ。DXや働き方改革などベテランが直面する社会環境の変化も医師と同じ。さまざまなものが急速に変化していく時代において,ジェネラリストの道を究めるのか,スペシャリストの道を進むのか,そしてその先にあるマネジメントのプロをめざすのか。

 在宅医療における看護は,その人の生きることの全体をケアできるジェネラリストであるとともに,在宅というフィールドで求められるスペシャリストとしての実践能力を持ち,そして時にチームをマネジメントする力も求められる。ジェネラリストも1つのスペシャリティという議論もあるが(ここでは詳細は割愛したい),在宅医療はその全ての要素を包含する,医療職にとって最適なキャリアを模索するための最適な領域でもあるのかもしれない。

 これまでの豊富な経験を生かしながら日々のケアにかかわるとともに,新しい考え方で再整理していく。本書を読み進めていくと,これから先も輝き続けるために,自分が望んでいる生き方はどんなものか,社会の中で活躍し続けるために新たに獲得すべきものは何か。具体的にイメージできる。

 社会からフェードアウトするのではなく,これまで獲得してきた強みを基軸に成長を続けていく。より良い人生の選択を重ねていく。女性の社会進出のトップランナーである看護職が,人生100年時代,定年にとらわれない働き方で,年齢に関係なく自己実現していく。そんな超高齢社会を豊かに生きることを体現するロールモデルとしても輝き続けてほしい。

 当法人にも少しずつプラチナナースが生まれつつある。彼女たちが力を発揮できる,成長を続けられる環境を作っていきたい。そして僕も負けずに頑張りたい(ちょっと心もとない生え際君にも,もう少し頑張ってほしい)。

「訪問看護と介護」28巻2号掲載)


《評者》 さら助産院院長

 この本には,“わくわく”が溢れています。マニュアルや難読な内容は一切書かれていません。

 著者の西上ありささんはデザイナーさん。デザイナーといっても,西上さんが得意とするのはコミュニティのデザインです。地域の課題を住民参加での解決に導くために,例えば衰退する商店街の活性化や,やりすぎた公共事業をやめることなどの地域の課題に切り込んでいる実績が多数ある方なのだとか。す,すごい。

 もしも,西上さんのコミュニティデザインのセンスが,医療や福祉,そして地域の助産師活動へと広がったなら,どんな化学反応が起こるのだろう……。

 そう考えるだけで,“わくわく”してきました。

 この,“わくわく”する気持ちって,全ての原動力につながるのではないでしょうか。まるで小学生時代の遠足前のように,理屈ではなく気持ちが高揚するあの感覚。

 日本中の助産師たちが,「あんなことをしてみたい」「こんなことができたら楽しそう」と“わくわく”しながら新たな試みや活動を始めたなら……なんだか面白いことが起こりそう!!

 しかし,“わくわく”には不安も伴います。特に新たな活動を始めるときには,「従来の枠組みから外れる怖さ」だったり,「うまくいかなかったらどうしよう」「仕事として成り立つのだろうか」といった不安がよぎり躊躇するのではないでしょうか。

 私自身もそうでした。14年前に保健指導型の助産院を開業しましたが,当時は保健指導型の助産院を構えている人はほとんどおらず,お手本のない活動を始めることに不安でいっぱいでした。

 そのような経験をしていることもあり,「この本を開業当初に読みたかった!」と思いました。本の中には,開業当初の不安を解消するヒントがたくさん詰まっていたからです。

 例えば,「自分自身の強みを知る」「相手を知る」ポイント,「企画のポイントやコツ」「ネーミングや広告媒体のセンス」「プレゼンのポイント」,さらには「予算がないから実施できない」「参加者が増えなくてつらい」といったよくあるお悩み相談……。不安な要素を“わくわく”に変えるヒントが満載です。

 この“わくわく”を,これから地域で活動したいと考えている助産師さん,病院やクリニックで新たな企画を立ち上げたい助産師さんと共有したい! そう思いました。「新たな活動がしてみたい」「こんなことがあったらおもしろそう」と思ったときに,イメージが具体化して不安解決の糸口が見つかることでしょう。

 この本に出会えた助産師は本当にラッキーです! ページをめくり,「ケアとデザインをつなぐ」西上マジックに触れてみませんか?

「助産雑誌」77巻1号掲載)


《評者》 国立保健医療科学院主任研究官

 「なぜ自分で考えることができないのか」「指示待ち人間が多い」などのお声を現場の看護師から聞くことが多い。これは若者世代に限ったことではない。評者が行った看護部長や看護師長,副看護師長を対象としたセミナーでは,「看護師長や副看護師長には,もっと自ら考える力をつけてほしい」といった困りごとを吐露する管理者が多くいる。本書は,新人から管理者まであらゆる層の看護師の「自分で考える力」をどう育てるか,という疑問に,「認知的徒弟制」という理論に基づいた具体的な方法をもって答えてくれる。

 本書では,「自分で考える力」を6つのステップの指導で育成できることを示している。この指導プロセスのベースになっているのが,状況的学習論をベースとする認知的徒弟制である。認知的徒弟制とは,患者のアセスメント,後輩や部下の指導,他職種との調整,チームマネジメントなどの「高度な認知能力を必要とする仕事の進め方を,経験者が非経験者に指導する方法」(p.6)である。認知的徒弟制による6つの指導プロセスとは,1)モデル提示,2)観察と助言,3)足場づくり,4)言語化サポート,5)内省サポート,6)挑戦サポート,である。これら6つのステップを,時には行き来しながらサポートすることで,私たちが難渋する「自分で考える力」を育てることが可能になるという。

 本書は,ただ方法論を提示しているだけではない。認知的徒弟制を測定し,看護師や医師を対象としてその効果や特徴を検証し,読者にわかりやすく提示していることが本書の特徴の1つである。評者が特に興味深いと感じたのは,「若手ほど認知的徒弟制による指導をしっかり受けている」(p.39)という結果である。評者は,「背中を見て育て」という時代から,「丁寧に指導して育てる」という時代に看護界全体がシフトしていったさなかに臨床現場にいた。自分は前者の育て方をされたのに,育てるほうになったら後者の育て方を求められて大変である,という思いを抱えるベテラン看護師や看護管理者は多いのではないだろうか。試行錯誤しながら,自分の被教育経験とは異なる方法を模索し続けた努力の結果が,このデータに表れているように感じ,とてもうれしくなった。

 本書のもう1つの特徴が,豊富な事例の提示と具体的な研修方法の提示であろう。認知的徒弟制を臨床現場の感覚で理解でき,定着のために明日からやってみようと思える方法まで丁寧に示されている。

 本書は,理論的基盤・実証データ・豊富な事例の提示が見事なバランスで展開されており,これからの看護師・医師の教育の基盤となり得るものだ。

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