ケアする人のためのプロジェクトデザイン
地域で「何かしたい!」と思ったら読む本
ケアの地域活動、成功の秘密を教えます。
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地域で活躍するケアの専門家が増えています。その活動を「プロジェクト」と捉え、アイデアづくりから仲間集め、企画化、広報、実践と成果物の作成までの一連の流れを、「プロジェクトデザイン」として事例を用いて解説。地域保健活動や地域包括ケア、社会的処方など、さまざまなケアの専門家によるプロジェクトを支援してきたコミュニティデザイナーが、その経験から編み出したポイントをぎゅっと凝縮しました。
著 | 西上 ありさ |
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発行 | 2021年12月判型:A5頁:104 |
ISBN | 978-4-260-04900-9 |
定価 | 2,750円 (本体2,500円+税) |
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- 本書の特徴
- 序文
- 目次
- 書評
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序文
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はじめに
こんにちは、西上ありさです。職業はデザイナーです。モノのデザインもたまにしますが、ほとんどの仕事では、「コミュニティデザイン」という手法を使って、地域の課題を住民参加で楽しく解決するプロジェクトを運営しています。
私は、studio-Lというデザイン事務所に所属しています。一般的にデザイナーは、モノや空間、建築、サービスなどを美しく快適につくることに関わってきましたが、私たちコミュニティデザイナーは「モノをつくらないデザイナー」として、人々の感性に訴えかける「参加の場」や「参加の機会」を手がけてきました。
この16年間くらいは、行政と一緒にまちの計画を立てて実行すること、衰退する商店街を活性化すること、人口が減って高齢化率が高い集落を元気にすること、やりすぎた公共事業をやめることなど、多岐にわたる地域の課題に取り組んできました。特に近年は、医療・介護・福祉などケア分野から仕事の依頼をいただくことが増えており、グラフィックデザイン、プロダクトデザイン、サービスデザイン、コミュニティデザインなど、あらゆるデザインを使って現場をお手伝いしています。
とはいえ、最初から、デザイナーとしてケアの分野に関わることに自信があったわけではないのです。まちづくりの課題に向き合う中で、子どもや医療・介護・福祉などケアに関わることは、「それ、私の問題!」と思って頭から離れませんでした。それなのに「デザイナーの私に何ができるの?」と感じてしまう自分もいて、もやもやするばかりでした。
そんな私に転機が訪れたのは、2013年10月のことでした。東京ビッグサイトで開催された医療・福祉製品の大規模展示会「HOSPEX Japan」の片隅で、「メディカルタウンの作り方−これからの医療対応とまちづくり」というテーマのシンポジウムがありました。ゲストは、訪問看護師で「暮らしの保健室」を日本で最初につくった秋山正子さんと、ホームホスピス「かあさんの家」をつくった市原美穂さんと、コミュニティデザイナーの私。雨の降る寒い日だったせいか、観客は数名だけでした。そのおかげもあって、カフェでおしゃべりするようなリラックスした雰囲気のシンポジウムとなりました。
特に印象的だったことが2つあります。1つは秋山さんが使った「ケアリング」という言葉。私なりに要約すると「ケアの現場で働く、お互いによくなろうとする力」のことだそうです。この力が生まれるには、サービスとしてのケアだけでなく、その環境や建築、インテリアなども影響すると、看護師である秋山さんが語っていたのです。「ケアの現場にデザイナーが関わる余地があった!」と思って、とてもうれしくなったことを覚えています。もう1つは市原さんが、ご自身を「主婦のようなもの」、かあさんの家を「自宅のようなサービスを提供する場所」と紹介したことです。私自身、主婦でもありますから、市原さんの堂々とした姿と一貫した思想に深く共感しました。今までの経験と大好きなデザインを組み合わせて、ケアに関わる仕事ができるかもしれないと思えた瞬間でした。
本書は、医療・介護・福祉などケアの仕事に携わる専門家の皆さんに向けて、「プロジェクト(活動)のデザイン」をお伝えする本です。「今いる地域の課題を解決したい!」「医療機関や施設など従来の枠組みにとらわれずに、自分の得意分野や好きなことを活かしながらケアの専門性を発揮したい!」と考えるケアの専門家たちから相談を受け、支援してきた経験に基づいています。チェックリストやWORKも織り交ぜながら、これまで私が関わったプロジェクトや事例の写真をふんだんに使い、ケアの専門家が住民と一緒になって地域で楽しく活動する姿が具体的にイメージできるようにつくりました。WORKなどで用いるシートやカードは、本書のウェブサイトからダウンロードできます。
この本は、読んで、書いて、どんどん使ってください。ケアの専門家の皆さんが抱く「何かしたい!」という思いが、カタチになる日を心から楽しみにしています。また、たくさんのケアの専門家の皆さんが、地域に出て楽しくチャレンジする社会になるといいなと思っています。過不足は多々あるかもしれませんが、面白がって読んでいただければ幸いです。
目次
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はじめに
Chapter 1 医療・介護・福祉の専門家が地域で活動するために準備しておきたい2STEPS
共感による課題解決を目指そう
STEP 1 人と人として出会う準備
自分の「共感ポイント」を見つけよう/おおらかさを表す「ゆるい」
CHECK 1 あなたに備わっているゆるさとは?
肯定的に受け止めていることを表す「かわいい」
HECK 2 あなたに備わっているかわいさとは?
親しみやすくて肯定的なことを表す「ゆるカワ」
CHECK 3 あなたに備わっているゆるカワポイントとは?
ネガティブ要素をポジティブに変換する「ゆるキャラ」
CHECK 4 あなたに備わっているゆるキャラ的要素とは?
やってみよう! WORK 1 自分を知る
あなたのゆるいところ、かわいいところはどこでしょう?
私のイメージ(表情、しぐさ、口癖など)を分析してみよう
共感されるポイントを探そう
STEP 2 人と人として対話する準備
目指すのは、双方向のコミュニケーション
安全に発言できる環境をつくる対話の方法「Yes, andコミュニケーション」
Yes, yes, yesを重ねて最後にand
映画や動画のコミュニケーションに学ぼう
やってみよう! WORK 2 Yes, andでコミュニケーション
家庭や職場でやってみよう
1回目の練習 No, no, no!
2回目の練習 Yes, yes, yes!
3回目の練習 Yes, and…
Chapter 2 生活者として取り組むケアのプロジェクトデザイン8STEPS
「楽しい・好き」からプロジェクトをデザインする
「楽しい・好き」を追求するのは不謹慎⁉
自治体のフレイル予防事業を例に
事例 くちビルディング選手権
STEP 1 わくわくする事例を集める
クリエイティブな本やモノ、コトがたくさんある場所へ行く
興味のある事例とわくわくする事例から、理想の人生をビジョンマップにする
STEP 2 核となる仲間を集めアイデアを発想する
自分以外に2人の仲間を集める
リラックスできる雰囲気でブレーンストーミング
発想の前に楽しい気分をつくる
わくわくと興味を話し合い、アイデアを飛躍させる
STEP 3 アイデアから企画をつくる
キーワードについて具体的な活動を挙げていく
アイデアを組み合わせて理性と感性で検討する
事例収集と実験を繰り返して企画を磨き上げる
対話によって机上の空論から抜け出そう
STEP 4 どんな人に来てもらいたいかを具体的に想像する
ペルソナをつくり、インタビューで掘り下げる
独自ニーズ調査を実施する
STEP 5 参加者を募るためのビジュアルデザインとプレゼン
対象者像に合わせて情報を届ける方法を考え、効果的に広報する
手に取りたくなる広報媒体をデザイナーと一緒に考える
SNSを対象者像に合わせて投稿する
人の集まる場所で参加者を募集する
聞き手とつながるプレゼンをする
うまくいくプレゼンのポイント
聞き手とつながるためのヒント
STEP 6 活動期間を決め、今後の見通しを立てる
どの程度先の未来を描くのか
活動期間、回数、内容を決める
AAR サイクルを回そう
事例 テラマチ雑貨店
STEP 7 小さく実行し、場を運営する
1回あたりのワークショップ設計の基本を知る
場をあたためる準備をする
STEP 8 成果物の作成と効果検証
プロジェクトに合った成果物を作成する
参加者の声から効果を検証する
事例 O!MORO LIFE PROJECT
Chapter 3 悩んだら読んでほしいQ&A集
魚の獲り方、教えます
Q1 予算がなくてプロジェクトが実施できません。勤務先でも「お金にならないことはできない」と言われます。
Q2 訪問看護ステーションの非営利事業としてカフェをやっていますが、開催回数を重ねても参加者が増えず、つらくなってきました。
Q3 チラシのデザインやネーミングなどのセンスがありません。どうしたらいいですか。
Q4 空間がなぜかごちゃごちゃしてしまいます。かっこよくする方法はありますか?
Q5 ワークショップや会議がいつの間にかギスギスして、クリエイティブな話し合いになりません。どうしたらいいですか?
おわりに
引用・参考文献
書評
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ケアとデザインを“わくわく”でつなぐ
書評者:直井 亜紀(さら助産院)
この本には,“わくわく”があふれています。マニュアルや難読な内容は一切書かれていません。
著者の西上ありささんはデザイナーさん。デザイナーといっても,西上さんが得意とするのはコミュニティのデザインです。地域の課題を住民参加での解決に導くために,たとえば衰退する商店街の活性化や,やりすぎた公共事業をやめることなどの地域の課題に切り込んでいる実績が多数ある方なのだとか。す,すごい。
もしも,西上さんのコミュニティデザインのセンスが,医療や福祉,そして地域の助産師活動へと広がったなら,どんな化学反応が起こるのだろう……。
そう考えるだけで,“わくわく”してきました。
この,“わくわく”する気持ちって,すべての原動力につながるのではないでしょうか。まるで小学生時代の遠足前のように,理屈ではなく気持ちが高揚するあの感覚。
日本中の助産師たちが,「あんなことをしてみたい」「こんなことができたら楽しそう」と“わくわく”しながら新たな試みや活動を始めたなら……なんだかおもしろいことが起こりそう!!
しかし,“わくわく”には不安も伴います。とくに新たな活動を始める時には,「従来の枠組みから外れる怖さ」だったり,「うまくいかなかったらどうしよう」「仕事として成り立つのだろうか」といった不安がよぎり躊躇するのではないでしょうか。
私自身もそうでした。14年前に保健指導型の助産院を開業しましたが,当時は保健指導型の助産院を構えている人はほとんどおらず,お手本のない活動を始めることに不安でいっぱいでした。
そのような経験をしていることもあり,「この本を開業当初に読みたかった!」と思いました。本の中には,開業当初の不安を解消するヒントがたくさん詰まっていたからです。
たとえば,「自分自身の強みを知る」「相手を知る」ポイント,「企画のポイントやコツ」「ネーミングや広告媒体のセンス」「プレゼンのポイント」,さらには「予算がないから実施できない」「参加者が増えなくてつらい」といったよくあるお悩み相談……。不安な要素を“わくわく”に変えるヒントが満載です。
この“わくわく”を,これから地域で活動したいと考えている助産師さん,病院やクリニックで新たな企画を立ち上げたい助産師さんと共有したい! そう思いました。 「新たな活動がしてみたい」「こんなことがあったらおもしろそう」と思った時に,イメージが具体化して不安解決の糸口が見つかることでしょう。
この本に出会えた助産師は本当にラッキーです! ページをめくり,「ケアとデザインをつなぐ」西上マジックに触れてみませんか?
(「助産雑誌」77巻1号掲載)
専門職による「地域づくり」のイメージが動き出す
書評者:佐々木 淳(医療法人社団悠翔会理事長・診療部長)
在宅医は「生活を支える医療」を行っていると自任している。
しかし,実は全然生活を支えてなんていない。
在宅医にできるのは,せいぜい看護・介護職の人たちの仕事を邪魔しないことくらいだ。しかし,その看護や介護にしても生活の全てを支えられるわけではない。
「日々の暮らし」の中で,医療保険や介護保険の公的サービスで支えられる部分なんて,実はごくわずか。要介護高齢者の場合,そうでないように見えるのは,それ以外の暮らしを最初から諦めさせているから。そんなことに気が付いてしまった専門職の方々は少なくないはず。
高齢者福祉の目的は「生活・人生の継続」。どのような生活・人生を送るのか,それは本人が選択すべきだ。そして,その生活の支援に当たっては,本人の強みが発揮できることが重要である。これが1970年代にデンマークで提唱された高齢者福祉政策の三原則だ。
しかし,日本の公的サービスの多くは,その人の「弱み」を補完し,その人が事故を起こさないよう生活を管理し,支援者の都合によって人生の最終段階を過ごす場所や治療方針が選択される。
納得できる人生を最期まで生き切る。そのために必要なのは,その人の生命・生活・人生を医学モデルで支配することではない。その人の望む生き方を実現するための環境を整えることである。これがICF・生活モデルの考え方だ。
高齢者医療や介護には,衰弱していくその人の心身の機能を最適にケアすることが求められる。しかし,これだけでは,その人を「生かす」ことで終わってしまう。大切なのは,その人が「生きる」こと。そのために必要なのは,栄養やリハビリテーションや薬ではない。人と人とのつながり,つながりの中に自然発生的に生まれる居場所や役割,そしてそこに心の支えや生きがいを見出せること。そして,そこまでできて初めて,その人のニーズを満たすことができるのではないかと思う。
しかし,専門職が専門性を磨けば磨くほど,生活モデルを実装するのは難しくなっていく。まじめに仕事をしようとすればするほど,その人を,その人の生活空間の中に閉じ込め,地域とのつながりをおろそかにしてしまう。
その人の「病気・障害」の専門家から,「その人」そのものへ,そして「その人の生活」へ,さらに「その人の暮らす地域」へ。少しずつ視座を上げていく。
「その人の生活」まではなんとか関われる。しかし,「その人の暮らす地域」までコミットするのは容易ではない。
どうすればいいのか?
何ができるのか?
そもそも自分たち専門職にできるのか?
しかし,ICF・生活モデルを突き詰めていくと,どうしても,この「地域の壁」にぶち当たる。いや,そもそもこれは壁なのか? 壁だとすれば,それは誰が作っているのか?
行政? 地域住民? それとも自分たちの意識?
そんなこんなでもやもやしている在宅医療・介護にかかわる方々へ。まずはこの本を読んでみたらどうだろう。
読み進めていくと,これまで「壁」だと思っていたものが,大きなキャンバスに見えてくる。プラスチックワードの一つにすぎなかった「地域づくり」が,多種多様なイメージとなって,頭の中にどんどん広がっていく。ワクワクしてきて,頭に浮かんだあの人と,1秒でも早く動き出したくなる。誰もが心のどこかに隠し持っているアイデアを実現化するための「地図」と言ってもいいかもしれない。
自分たちがコミットしたい地域はどこか。その地域で,まずは点と点をゆるやかにつないでいく。柔軟性のある結び目が,しなやかな協働・共生のプラットフォームとなって,そしていろんな人たちが,そのプロセスを楽しみながら地域のつながりを多層化していく……。
本書の誘惑に,多動な僕はもうじっとしていられなくなっている。
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