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医学界新聞

ピットフォールにハマらないER診療の勘どころ

カテコールアミン使用バンドル

連載 徳竹雅之

2023.02.13 週刊医学界新聞(レジデント号):第3505号より

 ERでは敗血症性ショックに遭遇する頻度が高いです。「血圧低下には血管収縮薬投与が必要なことはわかるけれど,種類がたくさんあって,施設や医師によって使う薬剤もタイミングも量も違うような……」「効果がない場合,次の一手をどうするのか」。そんな不安を抱えているアナタ! 自信を持って血管収縮薬を使えるようになりましょう! 今回は,私見を多分に含んだ「カテコールアミン使用バンドル」を紹介します()。

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 敗血症性ショックにおける血管収縮薬の選び方(カテコールアミン使用バンドル)
①MAP<65 mmHg,②DAP<50 mmHgもしくはDSI≧2の場合,輸液に加えてNADを投与する。NAD>0.15~0.25γでVPを追加,4時間以内にHCを投与する。

 敗血症性ショックに使用する血管収縮薬の第1選択薬はノルアドレナリン(NAD)でキマリ! いずれのショックにおいてもNADの地位に揺るぎはありません。その他の血管収縮薬〔アドレナリン,ドパミン(DOA),バソプレシン(VP)など〕は,NADと比べて明確なメリットを示せていません。よって,基本的にはNAD以外の血管収縮薬にあまり出番はないと覚えておいてよいでしょう。使い方に悩むくらいなら,救急カートにあるDOAはもう捨てちゃっていいんじゃない!?

 敗血症性ショックへの対応では,最低限の臓器灌流圧を維持するために平均動脈圧(MAP)≧65 mmHgにすることが1st stepです。そのため,血管収縮薬の開始基準①はMAP<65 mmHgの場合。ホースから放出される水の勢いによく例えられますが,圧がかからないことには全身の臓器に血流を届けることができません。可及的速やかにMAP≧65 mmHgにすることが最重要ポイントです。また,開始基準②として拡張期血圧(DAP)にも着目します。冠動脈血流は主に拡張期にもたらされるため,DAPが低いと心筋虚血リスクが高まります(DAP>50 mmHgは維持したい)。特に,心拍数(HR)/DAP比(diastolic shock index:DSI)は重症度や死亡率を反映するとも報告されており,DSIが1~2を超える場合には危機的状況なので,輸液で粘らず早期に血管収縮薬投与を行います1)

 適切な臓器灌流圧を保てない時間が長引くと,臓器不全発症率や院内死亡率が跳ね上がります。迅速なNAD投与でショックからの離脱を早められますが2),投与が1時間遅れるごとに死亡率は5.3%上昇するという恐ろしい報告もあります3)。『敗血症診療国際ガイドライン2021』ではNAD投与のタイミングは曖昧な記載ですが4),敗血症1時間バンドル5)に記載されているように,輸液負荷開始から1時間以内にNAD投与を行いましょう(『日本版敗血症診療ガイドライン2020』では3時間以内とされている6))。もちろんガイドラインが推奨するように30 mL/kgを目安にした晶質液投与も同時並行で必要です。輸液量が少なすぎると血管収縮薬の早期投与の恩恵を受けられないとされています7)。そのため,30 mL/kgの輸液負荷を行いながら,1時間以内の血管収縮薬投与に踏み切りましょう。必ずしも「十分な輸液」を行ってから血管収縮薬を投与する流れでなくても構わないと思います。低血圧にさらされる時間が長いほど臓器不全の危険が高まります。臓器への不可逆的なダメージが引き起こされる前に介入しましょう。

 なお,MAPをより早期に上昇させるメリットが大きいため,NADは末梢静脈路からの投与が推奨されています4)。わざわざ中心静脈カテーテル(CVC)を留置する必要はありません。

 実は,NADには最大投与量なんてありません! NAD投与を怖がるあまり,MAPを低めに維持することを許容していませんか? それではショック離脱の可能性が低くなり,死亡率が上昇します。最大投与量には拘らず,必要な量をまずは投与してください! 低血圧を看過せず,ある程度血圧を落ち着けてから減量すべきです。低血圧は人体にとって超緊急事態。ベッドサイドに張り付いて,血圧が上がらない場合には5分ごとを目安にNADの投与量をガンガン上げていきましょう。

 ここでもガイドライン4)に沿って,NAD 0.25 mcg/kg/分投与から少なくとも4時間以内にステロイド〔ヒドロコルチゾン(HC)200 mg/日を分割投与または持続投与〕を入れることを忘れずに。血行動態不安定性の原因となる相対的副腎不全への補充療法となり,また抗炎症作用や血管拡張を阻害するなどの機序での効果が期待されています。血管収縮薬の必要量を下げ,死亡率を低下させることができます。

 「NAD投与量に限界はない」とお話ししましたが,投与量を増やし続けてもそれ以上の血圧上昇が得られないことは往々にしてあります。また,NAD投与量が0.3~1 mcg/kg/分を超えると,不整脈をはじめとした有害事象や死亡率上昇との関連があるとされています8, 9)(ただし,NAD投与量が多すぎることが問題なのか,そうした需要がある患者の予後が悪いのかは不明)。そこで,第2選択薬であるVPの登場です。VP使用によりNAD使用量を抑えつつ,敗血症性ショックの転帰を改善し,不十分な灌流圧にある時間を短縮できるとされています。特に敗血症性ショックでは下垂体後葉からの内因性VP分泌が低下し,相対的にVP不足の状態となっています10)。なので,怖がらずに目標に向かってNADを上げながらも,並行してVPを用意しておくとよいでしょう。こちらは0.03単位/分の固定用量で用います。

 では,VPはいつ使えばいいのでしょうか? 諸説ありますが,ショックの進行により「生理学的な破綻が起きてしまう前」,具体的にはNAD投与量が10~15 mcg/分(体重60 kgの方で0.15~0.25γ),乳酸濃度が上昇しきらないタイミングでの投与が好ましいと考えられます。NAD投与量が15 mcg/分未満の時にVPを追加するとそれ以上投与されてからの追加と比較して死亡率が低下11),NAD投与量が10 mcg/分増加するごとに死亡率が20.7%上昇12),VP追加が遅れた場合には乳酸が1 mmol/L上昇するごとに死亡率が18%上昇する12)などと報告されています。ベッドサイドに張り付いての観察で,NAD投与量をどんどん上げる必要のある経過であれば,少なくとも0.25γに達する前に投与を決断するのが吉でしょう。

 困ったことに,2023年1月にNADの出荷制限が通知され,救急集中治療領域に激震が走りました(2月からは通常出荷になるそうです)。それに引っ張られるようにVPも出荷停止となっています(2023年1月27日現在)。

 血管収縮薬使用において「NADしか勝たん」が常識にはなっていますが,薬剤が枯渇した場合どうすればいいのか。2011年の米国でのNAD不足の際は,フェニレフリンが代替薬として最も使用されました。ただし,敗血症性ショックによる死亡率は上昇しました13)。現状,NADに代わる血管収縮薬はありません。著しい頻脈がある場合にはβ作用のないVPを,逆に徐脈であればDOAを第1選択薬として使用することはあり得ます。そのほか,血管収縮薬の使用量を少しでも減らせるよう,上述のように適切な輸液や早めのHC投与に加え,無駄な鎮静薬を減らすなどできる工夫を積み重ねるしかないように思います。

 今回は,敗血症性ショックに対する血管収縮薬の実践的な使い方を概説しました。ショックを相手にする際は血管収縮薬の使い方を覚えておくこと,ベッドサイドで密に観察して迅速に対応することが重要です。自分の行った治療の効果を繰り返し判定しながら,介入法を組み立てていきましょう。

 


1)Ann Intensive Care. 2020[PMID:32296976]
2)Am J Respir Crit Care Med. 2019[PMID:30704260]
3)Crit Care. 2014[PMID:25277635]
4)Intensive Care Med. 2021[PMID:34599691]
5)Intensive Care Med. 2018[PMID:29675566]
6)日本版敗血症診療ガイドライン2020特別委員会.日本版敗血症診療ガイドライン2020.日集中医誌.2021;28(Suppl):S1-411.
7)Crit Care Med. 2020[PMID:32706559]
8)J Crit Care. 2020[PMID:32171905]
9)Ann Intensive Care. 2017[PMID:28425079]
10)Circulation. 1997[PMID:9054839]
11)N Engl J Med. 2008[PMID:18305265]
12)Crit Care Med. 2022[PMID:34582425]
13)JAMA. 2017[PMID:28322415]

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