英語臨床教育の刷新をめざして
手稲渓仁会病院と米テキサス大学との正式提携
寄稿 星 哲哉
2023.02.13 週刊医学界新聞(レジデント号):第3505号より
“That's one small step for our hospital, one giant leap for Japanese medical education.”
2022年5月2日,米テキサス大学(University of Texas Medical Branch:UTMB)と当院の間に交わされた医学教育連携文書の調印式のためにUTMB代表のNorman Miles Farr医師を迎えた記念講演において,筆者はOpening remarksとしてこう述べた。これは人類初の月面着陸を達成したアポロ11号の船長ニール・アームストロング船長が月面着陸の瞬間に発した名言(That's one small step for a man, one giant leap for mankind.)をもじったものである。人類の月面着陸計画が発表されたとき,困難だが達成できれば大きなインパクトを生む前人未到の計画や挑戦を意味する「ムーンショット」という言葉が生まれたとされる。UTMBとの提携は当院にとっての“ムーンショット”であった。本稿では,当院における英語臨床教育の再構築プラン(ムーンショット)について解説する。
当院における英語臨床教育の盛衰
当院は2001年に臨床研修病院の指定を受け,現在に至る。当初より常勤外国人医師(主に内科系)を教育専任スタッフ(通常1~3年滞在)として招き,英語での北米式医学教育を取り入れたのが特色であった。筆者は米国での臨床研修が終わった2007年8月に当院に赴任してきた。米国での学びを日本にフィードバックするには,北米式教育をうたう病院が最適と考えたためである。しかし,赴任して間もなく,当院の英語臨床教育に問題があることがわかってきた。
当時の英語臨床教育は朝の講義(症例提示)のほか,日中は時間のある研修医への個別レッスンと国際学会発表に備えた語学補助程度であった。日本での医師免許を持たない外国人指導医は実診療ができないため,月日を追うごとに臨床能力が低下していく。何より問題だったのは,研修医の意欲低下である。最初の数か月は目新しさもあり外国人医師の講義を聞きに来るが,研修の経過とともに参加者は減り,冬の極寒期には参加者は3人(1人は外国人医師,1人は研修医,もう1人は筆者)という文字通り“寒い”日になるのが通例であった。原因は研修医ではなく,彼らの学習意欲を維持できない指導部にあることは明白であった。
筆者は2013年に臨床研修部の代表となった。それまでの英語臨床教育を根本的に改めようとしたが,かなわぬまま数年が過ぎた。この間,新専門医制度の導入の影響もあり,当院を志望する受験者の数は低迷した。そして追い打ちをかけるように,新型コロナウイルスの波が日本に押し寄せ,常勤外国人医師が当院を去った。欠員の補充に目処が立たなくなり,当院での英語臨床教育は終焉を迎えたように思われた。
しかし,われわれにとってこの状況は千載一遇の好機であった。これまでの英語臨床教育を大きく変えざるを得ない機会が訪れたのである。むしろこのコロナ禍の間に当院の英語臨床教育を日本中のどの病院も成し遂げたことがないレベルに発展させようと,強く決心した。
提携大学の模索からプログラム始動まで
そして,常勤外国人医師1人体制による医学英語教育システムを全面的に見直し,2020年3月,再構築プラン(ムーンショット)を立てた(表)。

まず,全米の内科レジデンシープログラムディレクター全員に思いを込めた電子メールを送付した。このメールに唯一返事をくれたのが,冒頭に紹介したFarr医師である。これは僥倖としか言いようがなかった。UTMBは伝統ある医学校・臨床研修病院であり,危険病原体を扱うことのできる,数少ないバイオセーフティレベル 4施設を持つ(航空医学のレジデンシープログラムを持ち,宇宙飛行士を輩出することでも知られる)。
Farr医師とはメールのやり取りやオンライン面談を何回も繰り返したことによって,当院における英語臨床教育のミッションを十分に理解いただいたと思う。契約前にもかかわらず,UTMBの指導医による当院研修医へのオンライン講義が週2回のペースで開始され......
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星 哲哉(ほし・てつや)氏 手稲渓仁会病院総合内科部長/臨床研修部部長
1992年山形大卒。沖縄県立中部病院,聖路加国際病院での研修後に渡米。ミシガン州立大,ワシントン大で臨床研修(プライマリ・ケア,老年医学,リウマチ科)。2007年より現職。
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