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『医薬品情報のひきだし』より

連載 村阪敏規

2022.08.12

 臨床現場において,薬剤師には他職種や患者から,医薬品情報に関するさまざまな問い合わせが寄せられます。医薬品情報は時々刻々と変化し,情報提供の場面ごとに検討すべき要素も異なる中,医薬品情報を適切に扱い,わかりやすく的確な回答を提供する能力が薬剤師には求められていると言えるでしょう。『医薬品情報のひきだし』は,医薬品情報の問い合わせデータベースであるCloseDiに蓄積された事例の中から,薬剤師が日常的に遭遇するものをピックアップし解説します。実践的な知識が得られることに加えて,問い合わせへの回答の進め方を習得する上でも参考になる一冊です。

 

 「医学界新聞プラス」では,本書に掲載された全76事例の中から3つの事例を抜粋し,ご紹介します。

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錠剤を粉砕すると,乳棒・乳鉢や錠剤粉砕機に付着することがあり,重量がロスすることがあると報告されています.このため,粉砕された錠剤を服用する患者はすべての含有量を服薬することができず,効果が不十分になる可能性があります.

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Q-1 一般的に錠剤の粉砕は可能か?

タケキャブ®錠の粉砕使用は可能ですか?
タケキャブ®錠を粉砕して服用することは,承認外の用法となります.粉砕したものをヒトに投与した際の有効性,安全性は確立していませんので,弊社からはお勧めしていません.
〔タケキャブ®錠10 mg,20 mgくすりの相談FAQ(https://www.takedamed.com/medicine/faq/takecab/answer4_9/)〕    

⇒臨床現場において,嚥下困難な患者が錠剤を服薬することが難しいため,錠剤を粉砕して投与するケースが多くみられます.
しかし,粉砕後の服薬は添付文書の用法から逸脱しているため,製薬会社が推奨していないのが現状です.

Q-2 錠剤を粉砕したときの重量ロスは?

⇒粉砕された錠剤は,粉砕機や乳棒・乳鉢,分包機に残渣が付着し,すべてを回収することができないため,薬剤がロスすることが考えられます.薬剤ロスは1回あたりに粉砕する錠数,大きさ,付着性に依存すると報告されています.
また,粉砕機は粉砕時間が長く,回転数が多いほど静電気量が増えて容器への付着性が増大します.さらに薬剤が加熱されて変質することがあるため,モーターの回転数と粉砕時間の設定は最小限にする必要があります.

重量ロス率の例
プレドニゾロン錠
2錠粉砕  陶器製乳鉢→約18%,錠剤粉砕機→約25%
・5錠粉砕  陶器製乳鉢→約10%,錠剤粉砕機→約15%
・10錠粉砕 陶器製乳鉢→約5%,錠剤粉砕機→約9%
20錠粉砕 陶器製乳鉢→約7%,錠剤粉砕機→約7%
ハルシオン®錠
・2錠粉砕  陶器製乳鉢→約30%,錠剤粉砕機→約20%
・5錠粉砕  陶器製乳鉢→約12%,錠剤粉砕機→約8%
・10錠粉砕 陶器製乳鉢→約7%,錠剤粉砕機→約5%
・20錠粉砕 陶器製乳鉢→約5%,錠剤粉砕機→約4%
バクタ®配合錠
・2錠粉砕  陶器製乳鉢→約10%,錠剤粉砕機→約8%
・5錠粉砕  陶器製乳鉢→約5%,錠剤粉砕機→約5%
・10錠粉砕 陶器製乳鉢→約3%,錠剤粉砕機→約3%
・20錠粉砕 陶器製乳鉢→約3%,錠剤粉砕機→約3%
(病院薬学17:381-387,1991)
※1991年の論文であり,各製剤の用量規格の記載はない

⇒バクタ®配合錠のように大きい錠剤であれば,ロス率は低くなりますが,プレドニゾロン錠のような小さな錠剤であれば,ロス率は高くなります.また,プレドニゾロン錠は2錠粉砕で25%のロスがあり,20錠粉砕であれば7%のロスがあり,粉砕する錠数が大きくなるほどロス率は低下します.

重量ロス率は粉砕する錠剤数が少ないほど大きくなる.(例:2錠だと30%ロスするが,20錠であれば5%程度
また,該当錠剤の重量が小さいほど重量ロス率は高くなる.(例:錠剤の大きいバクタ®配合錠はロス率が低い)
重量ロス率は粉砕する錠剤数が少ないほど,また,錠剤の重量が小さいほど大きい結果となった.
乳鉢・乳棒による粉砕と粉砕機による重量ロス率の違いは,薬剤の付着性によって異なる.
錠剤が少ない場合は結晶乳糖を入れると重量ロス率が改善される.
錠数が少ない(2錠)と,30%ロスすることもある.
20錠以上であれば,重量ロス率は約5%程度である.
(病院薬学17:381—387,1991)

⇒粉砕する錠数が少ないと30%の重量ロスをすることもあるが,20錠以上であれば5%程度の重量ロスとなります.
粉砕時に薬剤がロスすることも考慮し,簡易懸濁法など適切な提案が必要と考えられます.
ただし,この文献は1991年の報告です.乳棒・乳鉢もしくは錠剤粉砕機を用いて粉砕した後の重量測定で,現在調剤薬局において使用されている散薬分包機については言及されていません.そのため散薬分包機に付着するロスを加えれば,さらに薬剤のロスが発生すると考えられます.

Q-3 散薬分包機を使用した後の重量ロスは?

錠剤を粉砕し分包した時のロスと簡易懸濁法のロスの差
各錠剤7錠を乳鉢で粉砕し,分包機で分包した後の重量ロス
ワーファリン錠1 mg    88.6±1.8%
エースコール®錠2 mg    88.4±2.1%
レニベース®錠5 mg    84.7±1.0%
フォリアミン®錠5 mg    81.3±1.0%
レンドルミン®錠0.25 mg 73.1±0.9%
・ワーファリン錠以外は1錠の重さが0.2 gであったため,1包につき,0.2 gの乳糖を賦形剤として加えている.
・粉砕した薬剤の乳鉢への残存,分包機のホッパーや分包紙への残存がある.
・簡易懸濁法では粉砕のロスがない(静脈経腸栄養29:1027-1033,2014)

⇒散薬分包機に付着するロスなども考慮されており,粉砕後に分包機を使用したときの重量ロスは10~30%と報告されています.簡易懸濁法であれば重量ロスする可能性が低いと考えられ,簡易懸濁法を推奨することが望ましいと考えられます.

まとめると

●散薬することは添付文書の用法から逸脱しているため,製薬会社は推奨していない
●「1回に粉砕する錠数が少なく」「錠剤の大きさが小さく」「付着性が高い」薬剤ほど重量ロスが大きくなる
●粉砕後に分包機を使用したときの重量ロスは10~30%である

参考文献

▶一般的に錠剤の粉砕は可能か?
1)タケキャブ®錠10 mg,20 mgくすりの相談FAQ(https://www.takedamed.com/medicine/faq/takecab/answer4_9/
▶錠剤を粉砕したときの重量ロスは?
2)村上美和子,他:錠剤粉砕時の重量ロスの検討.病院薬学 17:381-387,1991
▶散薬分包機を使用した後の重量ロスは?
3)座間味義人,他:粉砕法による経管投与における薬剤量損失に対する簡易懸濁法の有用性についての検討.静脈経腸栄養 29:1027-1033,2014

 

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<内容紹介>PPIの副作用で下痢が発現する理由は? アセトアミノフェン経口製剤は空腹時に服薬できる? 錠剤を粉砕したときの重量ロスは? 本書はこんな臨床現場で迷いがちな薬の疑問を迅速・的確に解決するための情報が詰まった「ひきだし」です。大学病院でDI実務の経験を重ね、現在webサイト“CloseDi”を主宰する気鋭の若手が執筆。医学論文、医薬品添付文書、IFに基づく解説が豊富でDI実務の考え方も楽しく学べます!

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