医学界新聞

看護のアジェンダ

連載 井部俊子

2022.12.12 週刊医学界新聞(看護号):第3497号より

 「二十数年間勤めた病院を退職する決意をしました。先週,上司に退職願いを伝えましたら大変な引き止めにあいました。希望退職日は3か月後,認知症の母の介護と,それを機に働き方を変え新たな場で働いていきたいというのが理由です。しかし,看護部長はものすごい剣幕でした。(中略)やはり看護部長としての立場ですと,退職願いを受け入れることはなかなか難しいことなのでしょうか」という相談メールが,2022年11月初めに届いた。

 年度末にかけて,退職希望者と上司のやりとりが随所で行われる季節である。

 「看護部長との話し合いではすぐに許可がおりず,再び面談となりました。(中略)なぜ退職するのか,自分の目的を俯瞰して,看護部長との次の面談ではこれをより意識して伝えようと思います」と2回目のメールにあった。私は,「方向性を確認して,2回目の面談に臨むとよいと思います。応援しています」と返信した。

 二十数年間勤務した病院を辞めようと考えて上司に申し出ることは,当人にとって並々ならぬ決断であろうことは容易に想像できる。後任のことも考えて退職の時期は3か月後としており,おそらく就業規則などをわきまえてのことであろう。それなのに,上司は「ものすごい剣幕で」退職を阻止しようとした様子である。この職場を辞さなければならない当人の事情や思いに,看護部長は耳を傾ける余裕がないようである。長年,共にやってきた同僚であり,仕事ができる者ほど「失いたくない」という気持ちが強く作用すると,自らの経験からもうなずける。

 しかし,部下の退職を阻止しようとすればするほど,相手はほんのわずか残っていた“迷い”を切り替えて,“絶対に辞めよう”とかたくなになる。そして二度と決して戻らないと心に誓う。この時点で持っていた組織への愛着を消しゴムで消してしまうのではないかと,私は考えるようになった。

 『社長の一流,二流,三流』(明日香出版社,2019年)を著した上野光夫は,「退職希望者への対応」について興味深い提案をしている。「三流は,辞める人に対して悪態をつき,二流は,優秀な人は引き留めようとし,一流は,辞める...

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