医学界新聞

ピットフォールにハマらないER診療の勘どころ

絶対に見逃してはならない心電図波形12選②

連載 徳竹雅之

2022.10.17 週刊医学界新聞(レジデント号):第3489号より

 前回は,一般的なST上昇型心筋梗塞(ST-elevation myocardial infarction:STEMI)波形ではなくとも緊急介入を要する心電図変化パターンである“はぐれSTEMI”合計12種類のうち,「知らないと見逃す系」の7つを紹介しました。引き続いて今回は,「正常なのか迷う,これってどうなんだろ系」はぐれSTEMI 5選をご紹介します。これらを見分けることができると,STEMI or notの解釈レベルがぐっと上がりますよ!

◆⑧vs. LBBB 「modified Sgarbossa criteria」

 「正常な」左脚ブロック(LBBB)の波形を見てみてください(図1上段)。QRS部分とST-T部分の極性が逆になっています。これはreasonable discordanceと言います。上がって下がるか,下がって上がるか,必ずいずれかのパターンになっています。閉塞性心筋梗塞(OMI)の場合には,このパターンが崩れます。つまり,上がって上がるか,下がって下がるかのパターンです(図1❶,❷)。これをconcordanceと言い,急性心筋梗塞(AMI)の可能性が高くなります(図1❷はV1-3誘導に適用されますが,まさにはぐれSTEMI②「V1-3誘導でSTD」は後壁梗塞!ですね!)。また,discordanceパターンも油断なりません。典型的なLBBBでは,V1-3誘導でdiscordanceパターンをとり,STEも同時にみられることが多いです。このSTEが通常のLBBBの範疇なのかOMIを示唆するのかを判断しなければなりません。そのためにST/S比を算出します。これが0.25を超えるようであれば虚血の可能性が高まります1)(図1❸)。この基準はペースメーカー埋め込み術後の患者に対しても適用可能と考えられています。

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図1 vs. LBBB(modified Sgarbossa criteria)

 上述の通り,V1-3誘導のSTEは虚血性変化なのかどうかの判断がつかずに迷うことが多いでしょう。そこで,以下では「V1-3誘導のSTE」を標的にして,それが虚血性変化なのか鑑別するための方法を学んでいきましょう。鑑別対象としてnormal variant STE,左室肥大(LVH),左室瘤を挙げておきます。

◆⑨vs. normal variant STE 「terminal QRS distortion」

 これまで早期再分極(early repolarization)と呼ばれていた波形との鑑別を要するSTEMI所見です。現在はこの正常型STEをnormal variant STEと呼ぶようになっています。「前胸部誘導でSTがちょっと上がっているんだけどな……」なんてことはありませんか? それです。ほとんどの正常な心電図において,前胸部誘導に最低1mm程度のSTEが存在しますので,それが虚血性変化かどうかを考えなければなりません。ここで活躍するのが「terminal QRS distortion」です(図2)。「V2またはV3誘導においてS波とJ波の両方がない」ことが特徴で,この所見はnormal variant STEには100%認められず,左前下行枝(LAD)閉塞としての対応が必要です2)(基線よりも下に落ちる波をS波,J点が1mm以上ぽこっと上がっている波をJ波ととらえます)。

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図2 vs. normal variant STE(terminal QRS distortion)

◆⑩vs. normal variant STE 「4-variable formula」

 「4-variable formula」も筆者が頼りにしているツールです。V2-4誘導にSTEがある時に使用してください。煩雑な式なのでアプリの力を借りましょう3)。公式を言語化すると「QTが延長して,V2誘導が低電位で,V4誘導のR波が高くて,V3誘導のSTEが大きい」時にはSTEMIの疑いが強くなります(図3)。normal variant STEは,QT部分がキュッとスマートですし,胸部誘導のR波増高が良好なことが多いですよね。前回も触れましたが,心筋虚血が起きてから最も早期に現れる心電図変化はQT延長とされます。より簡単に考えるならば,QT部分のスマートさの有無を見ておきたいところです。なお,STEの形が上に凸の場合や,そもそもreciprocal changeがある場合(これがあれば即座にSTEMIと考えるべき),はぐれSTEMI②「V1-3誘導でSTD」は後壁梗塞!はぐれSTEMI⑨「terminal QRS distortion」には使用できません4)

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図3 vs. normal variant STE(4-variable formula)

◆⑪vs. LVH 「V1-3誘導でSTE/QRS≧0.25」

 LVHはSTEMI mimicsとして有名です。LVHの心電図の特徴として,aVL誘導でR波≧11mmやV1誘導のS波+V5-6のうち最も高いR波≧35mmとして定義されることが多いです。LVHがあると電気的リモデリングにより,有名なストレインパターン(I,aVL,V5-6誘導でSTD)やaVR誘導でSTEと広範囲な誘導でSTD(はぐれSTEMI①),V1-3誘導でのSTEなどの変化が引き起こされます。特にV1-3誘導でのSTEが厄介で,過去の心電図が残っていない場合には虚血なのかLVHによる変化なのかを判断しなくてはなりません。この時に使えるのが,「V1-3誘導のSTE/QRS≧0.25であればOMIを示唆する」という基準です5)図4)。なお,cutoffについては検討中で0.15%とするのが良いのではないかと唱える専門家もいます6)

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図4 vs. LVH

◆⑫vs. 左室瘤 「V1-4誘導でT/QRS>0.36」

 AMI発症後に持続するSTEとくれば,典型的には左室瘤の存在を疑います。そして,その所見はまさにSTEMIと類似しています。胸痛や息切れなどの症状でERを受診した患者の場合には,再灌流療法を急がなければならない状態なのか否かを判断する必要があります。そんな時にはT波を見てみましょう。OMIであればT波が増高しており(はぐれSTEMI③「hyperacute T wave」はOMI発症の超早期所見!と類似の変化),V1-4誘導のうち1誘導以上でT/QRS>0.36であれば,OMIが疑わしくなり緊急カテーテル検査に進むべきです6)図5)。これに満たない場合には左室瘤の可能性が高まります。症状発現から6時間以上経過している場合には,梗塞の進行に伴いT波の高さが低下してしまうことで偽陰性となるため使用できません。

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図5 vs. 左室瘤

 最後に,「正常なのか迷う,これってどうなんだろ系」はぐれSTEMIをにまとめておきます。

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 「正常なのか迷う,これってどうなんだろ系」はぐれSTEMIまとめ

 ER診療では,迅速かつ正確な心電図の解釈が必須技能です。特に目の前の患者がAMIなのかどうかは緊急性,重要性ともに高い課題です。アレコレとゆっくり考えたり調べたりする時間はほとんどありません。この記事をポケットにこっそり忍ばせておくと,いつか役に立つかもしれませんよ!


1)Ann Emerg Med. 2021[PMID:34172301]
2)Am J Emerg Med. 2016[PMID:27658331]
3)Smith SW. Subtle Anterior STEMI Calculator (4-Variable).
4)Can J Cardiol. 2018[PMID:29407007]
5)Am J Cardiol. 2012[PMID:22738872]
6)Am J Emerg Med. 2015[PMID:25862248]

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