医学界新聞

教えるを学ぶエッセンス

連載 杉森公一

2022.10.31 週刊医学界新聞(看護号):第3491号より

 2020年以降,COVID-19の世界的なパンデミック,いわゆるコロナ禍によって社会の在り方が根底から揺さぶられ,大学教育も緊急的な遠隔授業への移行を余儀なくされた。試行錯誤の連続ではあるものの,Zoomなどのビデオ会議システムや学習管理システム(Learning Management System:LMS)を使ったオンラインによる新しい教育の可能性も見えてきている。しかし,遠隔授業への対応は個人の裁量に任されており,支援体制の格差も指摘されている1)

 今回は,対面教育の価値の見直しとともに,対面とオンラインをどのように「混ぜる」ことができるのかを考えていきたい。

 必要な情報を授業の事前・事後に,ビデオなどの視聴覚教材と電子資料を組み合わせて配信する遠隔授業の方式は,本連載第6回(3487号)で紹介した反転授業やeラーニングと同じ設計思想となる。遠隔授業で特に課題となるのは,情報提供と活動のタイミングである。教員の授業設計によって,学生の学びの質は大きく影響されてしまうからだ。つまり,教員からの情報・教材提示と,学生が教材で何を学ぶのかという活動がうまくかみ合い,90分相当の学修時間の中で組み合わされなければならない。

 また,「同時双方型の遠隔授業」を同期型(Synchronous),「オンライン教材を用いたオンデマンド型の遠隔授業」を非同期型(Asynchronous)と区別すると,それぞれに利点と欠点がある2)。それは,同期型では教員・学生が同じ時間に参加することができるものの,通信環境の影響を大きく受けてしまう点,非同期型では学生は自身の理解度に応じて繰り返し学修が可能であるものの,全くアクセスしない学生がいても教員はすぐに把握しづらい点だ。授業の設計には対面/オンライン,同期型/非同期型の2軸に整理したとき,それぞれの柔軟な組み合わせが考えられるようになるだろう(図13)。同期型/非同期型を問わず,遠隔授業には設計のポイントがある(図24)

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図1 対面/オンライン,同期型/非同期型の2軸で分ける授業形態(文献3をもとに作成)
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図2 遠隔授業の授業設計のポイント(文献4をもとに作成)
遠隔授業では6つのポイントを押さえることで,学生の学修の質が向上する。

 対面/オンラインを組み合わせた授業形態を「ハイブリッド(Hybrid)型授業」と呼び3),コロナ禍以前から授業への参加方法(対面/オンライン)を学生が柔軟に選択できるハイブリッド型授業は「ハイフレックス(HyFlex)」モデルと呼ばれていた。対面授業に戻ろうとする際の選択肢を示した「秋学期以降の15のシナリオ」5)では,「ハイフレックス・モデルは,おそらく最も柔軟性があり,多くの人にとって最も魅力的なものになるでしょう。もしかすると,教員にとっては,より難しいアプローチの一つにもなりえます。このモデルでは,同じ教員が,同時に,対面とオンラインの両方で授業を行います」と紹介されている。ただし,オンラインの良さを生かしながら同時中継かつ録画を教員一人で行うのには,重い負荷がかかってしまう。機材を準備するだけでも大変なため,まさに「難しいアプローチ」と言えよう。

 筆者は「ハイフレックス型授業」を単なる対面授業の置き換えではなく,対面/オンライン,同期型/非同期型が混在した授業形態と定義する6)図3)。本連載第4回(3479号)で紹介したI-E-Oモデルで意図されるように,アウトカムを最大化すべく授業が設計されている。ハイフレックス型授業の実現のためには,学生が授業内でどのような活動を行うのかを明示することが重要である6)。教室での授業が同時中継されていても,対面の学生とオンラインの学生は,それぞれ異なる環境にいることになり,特にオンラインの学生が置き去りにされてしまう傾向があるからだ。対面でのペア活動を行うのであれば,オンラインではペアでブレイクアウト・セッションへ誘導し,対面/オンライン双方へ的確に指示を伝える必要がある。教室にオンラインの要素を,オンラインに教室の要素を取り入れるために,双方で使えるオンラインツール(Miro,Slido,Googleドキュメント)を学修活動に取り入れていくことも効果的だ。

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図3 ハイフレックス型授業のイメージ
学生は対面での参加か自宅からの参加(リアルタイムかオンデマンド)かを選択できる。教員は授業の様子をライブ配信,録画することが求められる。

 ハイフレックス型授業の持続可能な運営には,クラスサイズに比例した物理的環境・人的環境の整備が必要となる。教室の様子を簡単に配信・録画できるハイフレックス教室(ハイフレックス型授業が実現可能な教室)の設置やティーチング・アシスタントの育成,授業設計を支援する大学教育学習センターや医学教育センターなどの整備によって,多層的に教育を支えていく環境が一層求められる。

 対面・非対面の混在が要請される状況にあって,ハイフレックス型授業は一定の広がりをみせています。感染予防と学習の機会保障,その両者を実現するための柔軟な授業方法への魅力と期待は大きいでしょう。遠隔授業やハイフレックス型授業にかかわる経験は,遠くない将来の遠隔診療を担う医療職にとってプラスとなるかもしれません。教員が授業設計の再構成と機材トラブルの解消に時間を費やしすぎることのないようにしましょう。

 次回は,講義や実習に真正さを備えるためのパフォーマンス評価について解説する。


1)岡本仁宏.新型コロナ禍の下でのFacebookグループによる大学教員ネットワークの試み.大学マネジメント.2022;18(6):7-16.
2)淺田義和.「遠隔教育」の区分とツールの選択.週刊医学界新聞3374号.2020.
3)小椋賢治.オンライン・対面の併用(ハイブリッド)型授業の分類と特徴.2020.
4)杉森公一.遠隔授業の導入.日向野幹也(編著).大学発のリーダーシップ開発.ミネルヴァ書房;2022.pp38-58.
5)大阪大学全学教育推進機構教育学習支援部.「秋学期以降の15のシナリオ」を翻訳・掲載しました.2020.
6)杉森公一.ハイフレックス型授業の可能性 授業設計・教育学習方法の革新と包摂.名古屋高等教育研究.2022;22:185-96.

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