医学界新聞

多職種で支える誤嚥性肺炎のリハビリテーション

連載 白井祐佳

2022.10.24 週刊医学界新聞(通常号):第3490号より

77歳男性。食道癌術後,繰り返す誤嚥性肺炎のため緊急入院。入院後は絶食,輸液管理となり,1週間以上電解質輸液のみだった。入院時BMI 15.2 kg/m2と,もともと低体重であったが,3週間でBMI 14.3 kg/m2まで低下した。歩行困難となり活動性も低下,患者さんからも体力低下の訴えがあった。

 誤嚥性肺炎は食欲不振を惹起し,低栄養状態になりやすい疾患の1つです。また,低栄養による骨格筋量の減少は嚥下障害を招くため1),低栄養と嚥下障害は密接に関連していると言えます。不適切な栄養管理は,栄養状態の低下を招き,臨床転帰に悪影響を及ぼします。治療効果を最大限発揮するには,多職種で協働し,患者の状況に合わせた多角的な栄養管理を行うことが必要です。そこで今回は,誤嚥性肺炎患者に対する栄養管理をご紹介します。

 誤嚥性肺炎患者の中には,誤嚥が懸念されるため一時的に絶飲食になる患者がいます。日本の65歳以上の誤嚥性肺炎で絶飲食となっている患者の栄養管理の状態を調査した研究によれば,入院7日目にエネルギー量20 kcal/kg以上の患者が5.3%,アミノ酸1.0 g/kg以上の患者が6.4%,脂肪エネルギー比率15%以上の患者が5.7%と,それぞれの目標栄養量に達していた患者は非常に少ないことが明らかになっています2)。その一方で,入院早期および絶飲食中から十分なエネルギー量とアミノ酸量を投与することは,誤嚥性肺炎患者の良好な転帰と関連することが報告されており3, 4),適切な栄養管理は誤嚥性肺炎からの回復,再発防止,予後の改善に大変重要と言えるでしょう。

 『静脈経腸栄養ガイドライン』では,全ての患者に対して栄養スクリーニングを実施し,栄養学的リスクの高い患者に疾患や病態に応じた指標を用いて定期的に栄養アセスメントを行うことを推奨しています5)。しかしながら,誤嚥性肺炎患者に特化した栄養アセスメント指標は示されていません。

 さて,臨床現場において,アルブミン値などの血清内蔵蛋白レベルを栄養アセスメント指標として活用する場面にしばしば遭遇します。一方で米国静脈経腸栄養学会によるposition paper6)では,血清内蔵蛋白レベルは栄養状態を示すものではなく炎症を特徴づけるものであり,栄養マーカーとして用いるべきではないとしています。嚥下障害による誤嚥性肺炎は急性炎症を伴う場合があり,低栄養リスクを評価するために炎症の程度を考慮することは重要です。しかし,血清内蔵蛋白レベルのみで栄養状態を評価することは誤った栄養アセスメントにつながる可能性があるため,留意が必要です。

 では一体,どのような指標を栄養アセスメントに用いればよいのでしょうか。摂食嚥下障害患者を対象としたスコーピングレビューによれば,栄養スクリーニング指標であるMNA-SF,身体計測値,BIA法で測定した体組成,食形態,絶飲食期間,食事摂取量の食事評価等が,栄養アセスメント指標として抽出されました7)。これらの指標が複数含まれている栄養診断ツールとして,GLIM(Global Leadership Initiative on Malnutrition)criteria8)があります(図1,2)。同ツールは,民族または人種による違いを考慮しており,世界共通の栄養不良の診断基準として使用されています。日本の高齢肺炎患者を対象とした報告9)によれば,BMIのアジア人のカットオフ値()が30日院内死亡率等の独立した予後予測因子であったことから,GLIM criteriaの重症度判定は高齢肺炎患者の予後予測に有用と言えるかもしれません。

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図1 GLIM criteria(文献8より作成)
SGA:Subjective Global Assessment,MUST:Malnutrition Universal Screening Tool,MNA:Mini Nutritional Assessment.
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図2 診断的アセスメント(文献8より作成)
DXA:Dual energy X-ray Absorptiometry,BIA:Bioelectrical Impedance Analysis,CC:Calf Circumference.
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 重症度判定(文献9より作成)

 適切な栄養量を投与し,栄養状態を改善させるには,多職種による個別化した介入が求められます。栄養不良の高齢肺炎患者を対象とした報告では,管理栄養士と患者家族が栄養をサポートし,6か月間の個別栄養介入プログラムを行うことで栄養状態の改善や再入院率の低下が認められました10)

 また,誤嚥性肺炎患者では早期経口摂取の有用性が報告されていることから11),食事摂取が最良の栄養管理法であると言えます。しかし,食事のみで適切な栄養量に達しない場合も多いです。その際,最初に検討すべき栄養療法としてはOral Nutritional Supplements(ONS)が挙げられます。漠然としたONSの提供は経済的負担となり得ますが,低栄養リスク患者に対するONSの早期提供は費用対効果が高いことが示されています12)。摂取量を定期的にモニタリングし,ONSの内容を適宜調整していくことで,意義の高い介入となるでしょう。

 食事やONSを調整したにもかかわらず,経口摂取のみで適切な栄養量に達しない場合は,人工栄養(経腸栄養や静脈栄養)による栄養療法を検討します。人工栄養適応の目安は,エネルギー消費量または必要量の60%以下しか摂取できない状態が1週間以上持続することが予想される場合です5)。経腸栄養か静脈栄養のいずれかを選択する際の基準の大前提は,「腸が機能している場合には腸を使う」ということ。経腸栄養は静脈栄養に比べて生理的であり,消化管本来の機能である消化吸収や腸管免疫系の機能が維持されるからです。通常,4週間未満の短期間に経腸栄養を施行する場合には経鼻アクセスを,4週間以上の長期にわたる施行が予想される場合には胃瘻や空腸瘻の造設を検討することが原則とされています5)

 一方で経腸栄養は,重度栄養不良で体重減少が進行した後に開始されることが多く13),栄養療法としての効果を低減させています14)。欧州静脈経腸栄養学会の神経内科領域における臨床栄養ガイドライン15)では,脳卒中後に重度嚥下障害が7日以上続くと推定される場合,72時間以内に経腸栄養を開始することが推奨されています。これらのことから,経腸栄養の開始は時機を逸しないよう判断していくことが重要です。ただし経腸栄養を含む人工栄養は侵襲的な処置を必要とするため,医学的適応や本人・家族の意思も考慮して判断しなければなりません16)。人工栄養の導入は,めざすゴールを医療者と患者および家族で共有し,利益と負担を考慮した上で試みるべきです。

 ここまで誤嚥性肺炎患者の栄養管理について述べてきましたが,今後,栄養管理に悩まされた際に参考にしていただきたい資料があります。それは,摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士を中心とする,Japanese Working Group on Integrated Nutrition for Dysphagic Peopleが執筆した摂食嚥下障害患者の栄養ケアに関するposition paperです17)。同資料には,摂食嚥下障害患者における栄養管理の必要性,栄養専門職が対処すべき課題と有力なアプローチなどが集約されています。ぜひご一読いただければ幸いです。

●全ての患者に対し,栄養スクリーニング,栄養アセスメントを行うことが栄養管理の第一歩です。
●個別化した専門的な栄養介入は,予後改善の一助になります。
●入院早期,絶飲食期間中から適切な栄養量が投与できるよう栄養補給方法を検討しましょう。


1)Geriatr Gerontol Int. 2016[PMID:25807861]
2)Arch Gerontol Geriatr. 2021[PMID:33798999]
3)J Nutr Health Aging. 2020[PMID:31886818]
4)J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2022[PMID: 34626471]
5)日本静脈経腸栄養学会(編).静脈経腸栄養ガイドライン 第3版.照林社.2013.
6)Nutr Clin Pract. 2021[PMID:33125793]
7)Nutrients. 2021[PMID:33673581]
8)J Cachexia Sarcopenia Muscle.2019[PMID:30920778]
9)JPEN J Parenter Enteral Nutr. 2021[PMID:32677042]
10)Int J Environ Res Public Health. 2019[PMID:31783672]
11)Clin Nutr. 2016 [PMID:26481947]
12)JPEN J Parenter Enteral Nutr.2021[PMID:33241592]
13)Dig Dis Sci. 2003[PMID:14627355]
14)Nutrition. 2009[PMID:18848432]
15)Clin Nutr. 2018[PMID:29274834]
16)Dtsch Med Wochenschr. 2010[PMID:20234993]
17)J Am Med Dir Assoc. 2022[PMID:35985419]

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