リハビリテーション医学・医療における栄養管理テキスト
栄養管理も大事。リハビリテーション診療で高い効果を上げるための重要な一手。
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リハビリテーション診療の対象者の多くに低栄養や過栄養などの栄養障害がある超高齢社会の現在、リハビリテーション治療で高い効果を上げるために、栄養状態を正しく診断し、的確な栄養療法を行うことが肝心である。リハビリテーション診療にかかわる医師、専門職にとって必須の知識となる栄養の基礎知識から栄養療法、対処法までをバランスよく、コンパクトにまとめたテキスト。
シリーズ | リハビリテーション医学・医療 |
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監修 | 一般社団法人 日本リハビリテーション医学教育推進機構 / 公益社団法人 日本リハビリテーション医学会 |
総編集 | 久保 俊一 / 吉村 芳弘 |
編集 | 角田 亘 / 百崎 良 |
発行 | 2022年04月判型:B5頁:248 |
ISBN | 978-4-260-04739-5 |
定価 | 3,520円 (本体3,200円+税) |
更新情報
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2022.07.15
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序文
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はじめに
超高齢社会となった日本において,リハビリテーション医学・医療の範囲は大きく広がっている.小児疾患や切断・骨折・脊髄損傷に加え,脳血管障害,運動器(脊椎・脊髄を含む)疾患,循環器・呼吸器・腎臓・内分泌代謝疾患,神経・筋疾患,リウマチ性疾患,摂食嚥下障害,聴覚・前庭・顔面神経・嗅覚・音声障害,がん,スポーツ外傷・障害,周術期の身体機能障害の予防・回復,フレイル,サルコペニア,ロコモティブシンドローム,などほぼ全診療科に関係する疾患,障害,病態を扱う領域になっている.しかも,疾患,障害,病態は複合的に絡み合い,その発症や増悪に加齢が関与している場合も少なくない.リハビリテーション医学・医療の役割は急速に高まっている.
日本リハビリテーション医学会では2017年度から,リハビリテーション医学について「活動を育む医学」という新しい定義を提唱している.すなわち,疾病・外傷で低下した身体・精神機能を回復させ,障害を克服するという従来の解釈のうえに立って,ヒトの営みの基本である「活動」に着目し,その賦活化を図り,ADL(activities of daily living)・QOL(quality of life)をよりよくする過程がリハビリテーション医学であるとしている.「日常での活動」としてあげられる,起き上がる,座る,立つ,歩く,手を使う,見る,聞く,話す,考える,衣服を着る,食事をする,排泄する,寝る,などが有機的に組み合わさって,掃除・洗濯・料理・買い物などの「家庭での活動」,就学・就労・地域活動・スポーツ活動などの「社会での活動」につながっていく.ICFにおける参加は「社会での活動」に相当する.
リハビリテーション医学という学術的な裏づけのもとエビデンスが蓄えられ根拠のある質の高いリハビリテーション医療が実践される.リハビリテーション医療の中核がリハビリテーション診療であり,診断・治療・支援の3つのポイントがある.ヒトの活動に着目し,急性期・回復期・生活期を通して,病歴,診察,評価,検査などから活動の現状と問題点を把握し,活動予後予測を行う.これがリハビリテーション診断である.そして,その活動を各種治療法を組み合わせ最良にするのがリハビリテーション治療である.さらに,リハビリテーション治療と並行して,環境調整や社会的支援の有効利用などにより活動を社会的に支援していくのがリハビリテーション支援である.
リハビリテーション診療の一角をなす栄養管理では,栄養状態の評価を行って栄養障害を診断し,的確な栄養療法を行う.栄養療法はリハビリテーション治療を効果的に行うための重要な治療手段となっている.社会構造や食生活が大きく変化した現在,リハビリテーション診療の対象となる患者の多くに低栄養や過栄養などの栄養障害が存在する.したがって,栄養の基礎知識や,急性期・回復期・生活期の各フェーズと各疾患における栄養管理はリハビリテーション科医にとって必須の知識である.
本書は,リハビリテーション診療にかかわる医師や専門の職種が栄養管理を系統立って学ぶテキストとして企画された.『リハビリテーション医学・医療コアテキスト』『急性期のリハビリテーション医学・医療テキスト』『回復期のリハビリテーション医学・医療テキスト』『生活期のリハビリテーション医学・医療テキスト』『総合力がつくリハビリテーション医学・医療テキスト』『社会活動支援のためのリハビリテーション医学・医療テキスト』『脳血管障害のリハビリテーション医学・医療テキスト』『内部障害のリハビリテーション医学・医療テキスト』に続くものである.
日本リハビリテーション医学教育推進機構と日本リハビリテーション医学会が企画した本書では,栄養管理の基本,栄養状態の評価・栄養療法,などがわかりやすく記載されている.
編集および執筆はこの分野に精通した先生方に担当いただいた.本書の作成に携った先生方に心からお礼を申し上げる.医師・専門の職種をはじめとしてリハビリテーション医学・医療に関係するすべての方々にぜひ活用していただきたいテキストである.
2022年3月
一般社団法人 日本リハビリテーション医学教育推進機構 理事長
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会 理事長
久保 俊一
一般社団法人 日本リハビリテーション医学教育推進機構 学術理事
熊本リハビリテーション病院サルコペニア・低栄養研究センター・センター長
吉村 芳弘
目次
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目次
Ⅰ.リハビリテーション医学・医療総論
1 リハビリテーション医学・医療の意義――活動を育む医学
2 「活動を育む」とは
3 リハビリテーション医学・医療における栄養管理の位置づけ
Ⅱ.リハビリテーション診療と栄養障害・栄養管理
1 リハビリテーション診療
1 リハビリテーション診療の概要
2 リハビリテーション診断
3 リハビリテーション治療
4 リハビリテーション支援
2 栄養障害と栄養管理
1 リハビリテーション診療における栄養障害の概要
2 低栄養と健康・疾患リスク
3 リハビリテーション診療に関連した低栄養のエビデンス
4 低栄養と疾患・障害
5 過栄養のリスクと疾患・障害
6 リハビリテーション診療における栄養管理
Ⅲ.リハビリテーション診療で知っておくべき栄養の基礎科学
1 エネルギー代謝
1 エネルギー代謝
2 糖質のエネルギー代謝
3 脂質のエネルギー代謝
4 蛋白質のエネルギー代謝
2 栄養素の役割
1 消化吸収とは
2 栄養素の消化吸収と役割
3 水・電解質の吸収・分泌
3 運動時の代謝――運動に伴うエネルギー需要の増大とメカニズムについて
1 運動時のエネルギー代謝の機序を理解する必要性
2 エネルギー消費量の概要
3 運動時のエネルギー消費量の概要
4 機械効率
5 運動時におけるエネルギー供給
6 運動時のエネルギー需要に対するエネルギー供給増大の機序
7 エネルギー基質(燃料)の利用の比率
8 身体活動量の評価方法
4 疾患と代謝
1 エネルギー量の出納の考え方
2 疾患による代謝変動
3 活動に伴うエネルギー消費量の変化
Ⅳ.リハビリテーション診療における栄養管理の基本
1 栄養管理のポイント
2 3大栄養素(糖質,脂質,蛋白質)
3 栄養状態の評価のポイント
4 低栄養の評価と診断
5 過栄養の評価と診断
6 栄養療法のポイント
7 急性期・回復期・生活期の栄養療法のポイント
Ⅴ.急性期・回復期・生活期のリハビリテーション診療における栄養管理
1 急性期のリハビリテーション診療における栄養管理
1 急性期の特徴
2 急性期の栄養管理
3 急性期の栄養管理の注意事項
2 急性期(周術期)のリハビリテーション診療における栄養管理
1 周術期の特徴
2 周術期の栄養管理
3 周術期の栄養管理の注意事項
3 回復期のリハビリテーション診療における栄養管理
1 回復期の特徴
2 回復期の栄養管理
3 回復期の栄養管理の注意事項
4 生活期のリハビリテーション診療における栄養管理
1 生活期の特徴
2 生活期の栄養管理
3 生活期の栄養管理の注意事項
Ⅵ.低栄養と過栄養の栄養管理
1 低栄養の栄養管理
1 低栄養の概要
2 低栄養の原因・メカニズム
3 低栄養の評価
4 低栄養の栄養療法
5 低栄養の栄養管理における注意事項
2 過栄養の栄養管理
1 過栄養の概要
2 過栄養の原因・メカニズム
3 過栄養の評価
4 過栄養の栄養療法
5 過栄養の栄養管理における注意事項
Ⅶ.栄養障害を伴う病態・障害の栄養管理
1 加齢による栄養障害の栄養管理
1 加齢における栄養障害の概要
2 栄養管理(栄養状態の評価と栄養療法)
3 栄養管理における注意事項
2 サルコペニア・フレイルの栄養管理
1 サルコペニア・フレイルの概要
2 栄養管理(栄養状態の評価と栄養療法)
3 栄養管理における注意事項
3 侵襲に対する栄養管理
1 侵襲の概要
2 栄養管理(栄養状態の評価と栄養療法)
3 栄養管理における注意事項
4 悪液質の栄養管理
1 悪液質の概要
2 栄養管理(栄養状態の評価と栄養療法)
3 栄養管理における注意事項
5 摂食嚥下障害の栄養管理
1 摂食嚥下障害の概要
2 栄養管理(栄養状態の評価と栄養療法)
3 栄養管理における注意事項
6 不動による合併症(廃用症候群)の栄養管理
1 不動による合併症(廃用症候群)の概要
2 栄養管理(栄養状態の評価と栄養療法)
3 栄養管理における注意事項
7 認知機能障害の栄養管理
1 認知機能障害の概要
2 栄養管理(栄養状態の評価と栄養療法)
3 栄養管理における注意事項
Ⅷ.各種疾患のリハビリテーション診療における栄養管理
1 脳血管障害
1 脳血管障害の概要
2 脳血管障害のリハビリテーション診療における栄養管理
3 栄養管理(栄養状態の評価と栄養療法)
4 栄養管理の注意事項
2 大腿骨近位部骨折
1 大腿骨近位部骨折の概要
2 大腿骨近位部骨折のリハビリテーション診療における栄養管理
3 栄養管理(栄養状態の評価と栄養療法)
4 栄養管理の注意事項
3 脊髄損傷
1 脊髄損傷の概要
2 脊髄損傷のリハビリテーション診療における栄養管理
3 栄養管理(栄養状態の評価と栄養療法)
4 栄養管理の注意事項
4 Parkinson病などの神経・筋疾患
1 神経・筋疾患の概要
2 神経・筋疾患のリハビリテーション診療における栄養管理
3 栄養管理(栄養状態の評価と栄養療法)
4 栄養管理の注意事項
5 下肢切断
1 下肢切断の概要
2 下肢切断のリハビリテーション診療における栄養管理
3 栄養管理(栄養状態の評価と栄養療法)
4 栄養管理の注意事項
6 小児疾患(脳性麻痺)
1 脳性麻痺の概要
2 脳性麻痺のリハビリテーション診療における栄養管理
3 栄養管理(栄養状態の評価と栄養療法)
4 栄養管理の注意事項
7 リウマチ性疾患
1 リウマチ性疾患の概要
2 リウマチ性疾患のリハビリテーション診療における栄養管理
3 栄養管理(栄養状態の評価と栄養療法)
4 栄養管理の注意事項
8 慢性心不全
1 慢性心不全の概要
2 慢性心不全のリハビリテーション診療における栄養管理
3 栄養管理(栄養状態の評価と栄養療法)
4 栄養管理の注意事項
9 慢性呼吸不全
1 慢性呼吸不全の概要
2 慢性呼吸不全のリハビリテーション診療における栄養管理
3 栄養管理(栄養状態の評価と栄養療法)
4 栄養管理の注意事項
10 慢性腎臓病
1 慢性腎臓病の概要
2 慢性腎臓病のリハビリテーション診療における栄養管理
3 栄養管理(栄養状態の評価と栄養療法)
4 栄養管理の注意事項
11 慢性肝疾患
1 慢性肝疾患の概要
2 慢性肝疾患のリハビリテーション診療における栄養管理
3 栄養管理(栄養状態の評価と栄養療法)
4 栄養管理の注意事項
12 糖尿病・メタボリックシンドローム・肥満
1 糖尿病・メタボリックシンドローム・肥満の概要
2 糖尿病・メタボリックシンドローム・肥満のリハビリテーション診療における栄養管理
3 栄養管理(栄養状態の評価と栄養療法)
4 栄養管理の注意事項
13 がん
1 がんの概要
2 がんのリハビリテーション診療における栄養管理
3 栄養管理(栄養状態の評価と栄養療法)
4 栄養管理の注意事項(緩和ケアが主体となる時期)
14 誤嚥性肺炎
1 誤嚥性肺炎の概要
2 誤嚥性肺炎のリハビリテーション診療における栄養管理
3 栄養管理(栄養状態の評価と栄養療法)
4 栄養管理の注意事項
栄養管理のリハビリテーション医学・医療便覧
1 用語解説
2 リハビリテーション診療における評価法・検査法
索引
トピックス
ポリファーマシーと栄養障害
栄養サポートチーム(NST)
医科歯科連携
書評
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臨床現場での活用を意識した躍動感溢れる書
書評者:山田 実(筑波大教授・リハビリテーション科学)
「“栄養管理”に関する書籍は数多くあれど,ここまで体系的にリハビリテーション医学・医療に適した栄養管理書籍はない」,本書を拝読させていただいた印象です。どうしても断片的で執筆者目線になりやすい情報を,包括的に読者目線でまとめられています。栄養に関する基本的な情報整理に始まり,リハビリテーション医学・医療にかかわる“栄養管理”をセッティング別,障害別,それに疾患別というさまざまな角度から展開されます。これらは,どれもリハビリテーション医学・医療に携わる従事者にとって,欠かすことができない情報で,まさに,バイブル的存在となり得る一冊です。
読み物としての作り方が絶妙で,臨床的にも学術的にも重要な情報がうまく整理されています。“栄養管理”というキーワードを軸に,各執筆者の先生方が長年臨床現場で培われた経験と学術的に裏付けされた情報を絶妙なバランスで調合し,これらを,統一された小見出し,シンプルな箇条書き構成,イラストの多用化,というフォーマットに落とし込むことで,初学者でもスッと理解しやすい状態へと仕上がっています。リハビリテーション医学・医療に携わる従事者はもちろん,教育関係者や学生など,さまざまな方に触れてほしい一冊です。
いわゆる解説書にはない,臨床現場での活用を意識した躍動感溢れる内容です。臨床の最前線で活躍されている先生方が執筆されたことで,臨床現場をイメージしやすく,実践に即した内容となっています。本書というルーペを介して,執筆者の先生方の臨床現場を覗ける,そんな充実した構成です。そして,秀逸なのが最後の便覧。多職種が適切に連携するために必要な共通言語が整理され,この一冊がチーム医療の架け橋となります。臨床現場での栄養管理の重要性を理解し,「自分達も重要な役割を担っているんだ」,「今日から取り入れてみよう」,「他の職種のスタッフとも連携しよう」と,多くの従事者の意識・行動変容を促進する一冊です。
正誤表
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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。