医学界新聞

多職種で支える誤嚥性肺炎のリハビリテーション

連載 百崎 良

2022.09.19 週刊医学界新聞(通常号):第3486号より

75歳男性。誤嚥性肺炎が原因で入院し経口摂取困難と判断され,栄養目的に経鼻胃管が挿入された。しかし,気管内誤嚥や喉頭侵入,咽頭残留がしばしば認められ,嚥下運動が阻害されている模様。将来的な胃ろうの造設も検討中。

 誤嚥性肺炎患者の摂食嚥下リハビリテーションを積極的に進めていく上では,嚥下運動の阻害因子となるものを特定し,少しずつ取り除いていく行程が必要になります。具体的には経鼻胃管や気管切開カニューレの取り扱いです。もちろん,これらは必要性があり挿入されていると思われますが,嚥下運動の阻害因子となる可能性があるため,管理には一定の配慮が必要です。

◆経口摂取能力が比較的早期に回復しそうであれば,末梢静脈栄養で様子を見る

 誤嚥性肺炎が原因で入院し経口摂取困難であると,経管栄養のための経鼻胃管が挿入されるケースがあります。しかし経鼻胃管の留置は不快感があり,高齢誤嚥性肺炎患者の経鼻胃管事故抜去率は高いことから,身体抑制が必要となることも多いです。身体抑制は廃用症候群やせん妄のリスク因子であるため,経鼻胃管を挿入すべきか判断に迷うこともあるでしょう。全身状態の改善に伴い経口摂取能力が回復しそうであれば,数日は挿入を控え,末梢静脈栄養で様子を見るのが良いかもしれません。われわれが行った高齢肺炎患者を対象とした研究では,入院当初1週間の栄養投与量が基礎代謝量以下であった患者は,そうでない患者に比して,死亡リスクが高く(オッズ比で5.1倍),自宅退院率が低く(オッズ比で0.3倍),入院中の肺炎の再燃が多い(オッズ比で3.3倍)との結果でした1)。そのため末梢静脈栄養で様子を見る場合でも,基礎代謝量程度のカロリー投与を目標に管理すると良いと言えます。

◆経鼻胃管の挿入自体が嚥下運動を阻害することもある

 経鼻胃管が挿入されていること自体が嚥下運動を阻害する場合もあります。高齢者を対象とした研究では,経鼻胃管が挿入されていると,気管内誤嚥や喉頭侵入,咽頭残留のリスクが高まり,嚥下反射の惹起が遅延することが報告されています2)。特に太いチューブ(16Fr)は細いチューブ(8Fr)に比べその影響が大きいとされ,できるだけ細いチューブの使用をお勧めします。また,脳卒中患者を対象にした研究では,絡まらずにまっすぐ挿入されている経鼻胃管は嚥下運動を阻害しないものの,咽頭部でとぐろを巻いていたり,喉頭前庭で交差していたりすると,嚥下運動が阻害され誤嚥のリスクが高まることが報告されています(図13)。経鼻胃管挿入後に,ガイドワイヤーを使わずにカテーテルを進めようとすると,咽頭部で胃管がたわみ,とぐろを巻くような状態になるため,カテーテルを進める際には必ずガイドワイヤーを挿入した状態で行うべきです。胃管の交差を予防する挿入法としては,頸部回旋法が挙げられます4)。経鼻胃管を挿入する鼻腔と反対側に頸部回旋すると,回旋側とは反対側の咽頭が広くなり,挿入する鼻腔と同側の食道入口部に入りやすくなるため,咽頭での交差を予防できます(図2)。

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図1 嚥下運動を阻害している経鼻胃管の挿入状態(文献3より転載)
左は咽頭部でとぐろを巻き,右は喉頭前庭で交差しているため,喉頭蓋の動きを阻害している。
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図2 経鼻胃管挿入における頸部回旋法
経鼻胃管を挿入する鼻腔と反対側に頸部回旋することで,咽頭部での胃管の交差を予防できる。

◆中心静脈栄養を選択したときは?

 経鼻胃管の代わりに中心静脈栄養が選択される場合もあります。われわれが行った高齢肺炎患者を対象とした研究では,経鼻胃管使用者に比べ,中心静脈栄養使用者では死亡率が高いことが明らかとなりましたが,退院時の経口摂取自立率は経鼻胃管使用者より中心静脈栄養使用者のほうが高かったのです5)。中心静脈栄養使用者は敗血症などの有害事象が多いために死亡率が増加する一方,経鼻胃管使用者では太いチューブが挿入されていることから,嚥下運動が阻害されたことに起因するのではないかと推測しています。

◆胃ろうの造設時は生命予後を考慮する

 長期間,経口摂取困難状態が続いた場合には胃ろうの造設も検討されます。胃ろう造設で栄養管理は容易になるものの,誤嚥性肺炎患者における胃ろう増設後の平均生存期間は約2年と報告されています6)。繰り返す誤嚥性肺炎には「積極的な治療をしない」という選択肢もあるため,生命予後を考慮した検討が必要でしょう。

 気管切開は嚥下運動阻害因子の一つです。『嚥下障害診療ガイドライン』(金原出版)には「嚥下障害患者では下気道管理の面から気管切開が有用な場合もあるが,気管切開自体は一般に嚥下動態に悪影響を及ぼす」と記載されています7)。気管切開が嚥下機能に与える影響としては,①舌骨や喉頭の前上方への挙上運動の制限,②カフによる頸部食道の圧迫,③気道感覚閾値の上昇,④声門下圧維持不能,⑤喉頭閉鎖における反射閾値上昇が挙げられます。また,気管切開により咽喉頭の感覚障害が生じ,ムセのない誤嚥(不顕性誤嚥)が増加することは臨床的にしばしば経験します。声門下圧の問題に対しては,一方弁の使用などが有用です。スピーチバルブなどの一方弁を使用すれば,声門下圧を上昇させることが可能となるため,水分の誤嚥を減少させられます。

 気管切開カニューレにはいくつかの種類が存在しますが,カフありカニューレとカフなしスピーチカニューレとでは,後者のほうが嚥下に有利です(図38)。ただし,スピーチカニューレに変更した場合,口腔から排痰する必要があり,一定以上の咳嗽力が必要となります。咽頭の分泌物が上気道に多い状況では,スピーチカニューレ変更は時期尚早のことが多いと言えるでしょう。意識状態,呼吸状態が安定し,痰の吸引回数減少がみられてから変更を検討すべきです。

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図3 カフありカニューレ(左)とカフなしスピーチカニューレ使用時の喉頭所見(文献8より転載)
カフなしスピーチカニューレに変更すると上気道の分泌物貯留が減少する。

 スピーチカニューレを抜去する際には段階的な準備が求められます。まずは日中短時間のみ監視下でスピーチバルブを装着し,カフを脱気することから始めます。そうすると徐々に喉頭クリアランスが改善し,発声訓練や嚥下訓練が進みやすくなります。湿性嗄声や誤嚥が認められにくくなり,カフなしスピーチカニューレのスピーチバルブをテープなどで塞いだ状態で長時間,呼吸状態が保たれ,呼吸苦も認められないようであれば,カニューレの抜去を検討できるでしょう。カニューレを抜去すると,咽喉頭の感覚障害が徐々に改善し,嚥下機能がさらに改善することが多いです。嚥下機能のことだけを考えると,カニューレは可能な限りシンプルなカフなしスピーチカニューレに変更していくこと,そしてカニューレの抜去を進めていくことが,経口摂取能力の改善に有効です。

●経鼻胃管や気管切開カニューレは,嚥下運動の阻害因子となる可能性があります。
●誤嚥性肺炎患者に対する胃ろう増設時は,生命予後を考慮した検討が求められます。
●カニューレは,できるだけシンプルなカニューレが望ましく,経口摂取能力の改善に向け,抜去の検討を進めましょう。


1)J Nutr Health Aging. 2020[PMID:31886818]
2)Clin Nutr. 2015[PMID:25245858]
3)BMC Neurol. 2008[PMID:18651972]
4)藤森まり子,他.経鼻胃経管栄養法における新しい胃チューブ挿入技術としての頸部回旋法.日看技会誌.2005;4(2):14-21.
5)J Nutr Health Aging. 2020[PMID:33009540]
6)Respir Investig. 2017[PMID:28427747]
7)日本耳鼻咽喉科学会(編).嚥下障害診療ガイドライン 2018年版.金原出版;2018.
8)清野由輩,他.気管切開患者のマネージメント.JOHNS.2021;37(6):587-91.

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