医学界新聞

ピットフォールにハマらないER診療の勘どころ

連載 徳竹 雅之

2022.07.11 週刊医学界新聞(レジデント号):第3477号より

 COVID-19の流行によって自宅でのアルコール消費量が増え,アルコール問題が顕在化する例が増えているという指摘があります。急性アルコール中毒やアルコール使用障害に伴う疾患・社会的問題を抱えた患者に対応することが確かに増えているという,実臨床における肌感覚と一致します。

 彼らは意識障害がありスムースに診察させてくれなかったり,暴言・暴力に発展したり,放っておくとその辺に放尿したり……,で正直面倒くさい! 受け入れを決めるとスタッフが落胆するまでが,もはやお決まりのパターンです。その気持ちとは裏腹に,筆者は強い疑いの目を向けて気を引き締めるようにしています。急性アルコール中毒には何度も診断ミスを誘われた経験があるからです。さっさとバイタルだけ測って,寝かせておいて起きたら帰らせよう,なんて軽い気持ちでいるといつか失敗します。

 今回は,急性アルコール(エタノール)中毒の診療におけるポイントをお伝えします。酩酊患者はたくさんの疾患を隠し持つ可能性があるので,それをくまなく探してやろう!という気持ちで診療しましょう。

 急性アルコール中毒の診断は簡単? いえいえ,結構難しいです。酒を飲んでいたという病歴で疑わしくはなりますが,最終的には除外診断となります。「意識障害」としての鑑別を必ず行いましょう。型通りにまず低血糖を除外してから,頭蓋内疾患の可能性があればCTを検討します。また,アルコールによる影響で電解質異常(低Na/低K/低Mg/低P血症など)を来すこともあるため,筆者は必ず血液ガスは評価するようにしています。可能であれば血清浸透圧から血中アルコール濃度を推定して,その数値に見合う症状かどうか検討することも鑑別の一助になります(表11)。ただし,中毒症状が出現する血中濃度は個体差が大きいので,一律に使用できないことは注意点です。長期間アルコールにさらされるほど肝酵素の活性が上昇し,血中アルコール濃度低下速度が速くなることで,血中濃度が高くても症状が出ないことがあります。また,同じ血中濃度でも飲み始めで血中濃度が上昇傾向にある時は,しばらく時間がたって下降傾向にある時よりも症状が重く出やすいという特徴もあります。

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表1 血中アルコール濃度と臨床症状(文献1をもとに作成)

 特に救急隊や発見者からの「酒に酔って寝ていた」という病歴はうのみにしないよう要注意です。表2に示す病態を見逃していないか確認しましょう2)。飲酒中に急性冠症候群(ACS)やくも膜下出血(SAH)を起こして倒れたのかもしれません。目撃者がいれば,倒れる前に訴えていた症状を聴取します。もしくは,酒に酔った結果転倒/転落し,重大な外傷を負ったのかもしれません。急性硬膜下血腫,頸髄損傷,視神経管損傷,肝損傷など,いずれも筆者は遭遇しました。これも目撃者がいれば受傷機転を聴取しますが,目撃者自身も酔っていると信憑性が薄く難しいところです。階段の下で倒れていたという救急隊からの申し送りがあれば,それは転落による外傷を示唆しているかもしれません。評価不十分なまま経過観察ベッドに寝かせておくと,翌朝には冷たくなって見つかる……なんてお寒いことにもなりかねません。外傷の痕跡がないか,髪の毛を分け,服を脱がせて観察しましょう。「急性アルコール中毒だな,めんどくせっ」という感情が出た場合には,気を引き締めて全身精査をするつもりで臨むのが吉です(表2)。慢心が出てきた頃に大失敗しますよ。「ハイ,喜んで!」の精神で対応に当たるくらいがちょうど良いです。

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表2 急性アルコール中毒の際に見落としがちな病態

 アルコールに関連した話題として,アルコール使用障害のある人が全く酒を飲めなくなって受診した際には重大な疾患が隠れている可能性があります。前述した電解質異常や低血糖のほかに,表32)のような疾患を鑑別に挙げて精査しましょう。特にアルコール性ケトアシドーシスやWernicke脳症は救急外来でよく遭遇します。アルコール使用障害の患者が来たら,低血糖を除外した上でのビタミンB1補充はルーチンで行ってよいと考えます。また,入院での精査加療を決定したら,アルコール離脱予防のジアゼパムやロラゼパムの投与を忘れずに。忘れると入院後に強い不穏となり,難治性けいれんを起こし,最悪の場合は死に至ります。

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表3 「飲めなくなった」アルコール使用障害患者で気をつけたい疾患(文献2をもとに作成)

 上記のように危険な疾患を除外し,急性アルコール中毒と判断した場合,救急外来でのマネジメントとして点滴経過観察が選択されることが多いです。実際,やれそうなことは輸液くらいしかありませんが,急性アルコール中毒に対して輸液は有効なのでしょうか。

 結論として,急性アルコール中毒に対する輸液はあまり有効とは言えません。エタノールクリアランスを促進させて血中濃度を低下させる効果がないどころか,ER滞在時間を延長させる可能性が指摘されています。

 一般的に,健常人のエタノールクリアランス速度は20 mg/dL/hr程度とされます3~5)。急性アルコール中毒で受診した患者に生理食塩水1000 mLもしくは20 mL/kgを投与しても,エタノールクリアランス速度に変化はありませんでした。同様に,輸液による血中アルコール濃度低下作用は報告されていません6,7)。それどころか,日本発の報告では,輸液投与により有意差は検出されず,むしろER滞在時間が延長する可能性が指摘されました8)。バイタルサインや尿量,超音波検査などから脱水がなさそうとアセスメントしたのであれば,少なくとも大量輸液は避けたほうがよさそうです。なお,急性アルコール中毒患者に平均600 kcalほどの炭水化物を摂らせたところ,食後1時間でのエタノールクリアランスが増加したとの研究があります9)。やっぱり,シメのラーメンは重要ですね (*´▽`*)

 急性アルコール中毒患者がERを受診してから帰宅可能になるまで,約3~6時間はかかります。この時間内に臨床症状が改善しない場合には,見落としがないか再考したほうが無難です(表2)。ただし,7時間以内に臨床症状が改善しない患者が21%,改善に11時間を要する患者が4%いたという報告があり,個体差はあります10,11)。受診時にあらゆる可能性を考えて対応するほうが安全でしょう。脱水がない場合には輸液はしない風潮があるものの,そもそも脱水の有無の判断は難しいですし,数時間以上の長期戦が想定されるので,個人的には輸液を維持速度で流しておくことを推奨します。

 アルコールに関連する疾患で受診する患者には,これからうんざりするほど遭遇すると思います。とてもコモンであるが故に,診療が雑になって思わぬpitfallにハマる可能性があります。目の前の「意識障害」患者はアルコール以外の原因を除外できているのか,常に意識しながら診療に当たりましょう。なお,暴力や過度の迷惑行為がある場合には修行だと思って堪える必要はありません。自分とスタッフ,他の患者の安全を守るために遅滞なく警察に通報しましょう。


1)Emerg Med Clin North Am. 2010[PMID:20709249]
2)Emerg Med Clin North Am. 2014[PMID:24766933]
3)Forensic Sci Int. 1984[PMID:6745819]
4)J Emerg Med. 1991[PMID:1940231]
5)Am J Emerg Med. 1995[PMID:7755817]
6)J Emerg Med. 1999[PMID:9950378]
7)Emerg Med Australas. 2013[PMID:24308613]
8)Am J Emerg Med. 2018[PMID:29289398]
9)Am J Emerg Med. 2018[PMID:29559355]
10)Am J Emerg Med. 1992[PMID:1616511]
11)Am J Emerg Med. 2018[PMID:29305022]

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