ピットフォールにハマらない ER診療の勘どころ
[第1回] 語りかけるPEA 心肺蘇生で困ったときの次の一手
連載 徳竹 雅之
2022.06.13 週刊医学界新聞(レジデント号):第3473号より
なるべく遭遇したくはありませんが,救急外来で勤務している限り心停止患者の診療は避けられません。心停止ではその波形を確認し,それに応じたマネジメントをすることがガイドラインで決まっています〔『JRC蘇生ガイドライン2020』(医学書院)やAHA(米国心臓協会)による各種ガイドライン(2020年版)などを参照してください〕。特にPEA(無脈性電気活動)は,治療に際して適切な原因検索を行わなければ蘇生ができないため,少し対応が難しい波形と言えます。一般的には,6H6T(もしくは5H5T)を検索することが推奨されています(表1)1)。
しかし,実際の現場ではこんなことを思い出してはいられません。思い出せないばかりか,そもそも悠長に鑑別している時間や人手がない場面もしばしばあります。基本的には病歴,血液検査,超音波検査などを駆使して診療しますが,筆者が頻用している簡単・迅速かつ具体的な鑑別ができるアルゴリズムがありますので,ご紹介します。また,「この患者さん,いつまで蘇生を続ければいいんだろう……」と困ることがあると思います。そこで,蘇生可能性の推定方法も解説します。
PEAは多くの情報を私たち医療従事者に語りかけてきます。その声に耳を傾けてみましょう。
PEA波形から想定する疾患とそのマネジメント
PEAに遭遇した時に私が使用しているのは,心電図波形とPOCUS(Point-of-care 超音波)の所見を併せて診断治療を考えるアルゴリズムです(図)。
◆PEA波形:narrow QRS vs. wide QRS
PEAの心電図波形を見て,QRS波形がnarrowかwideかである程度の鑑別ができます。原則的には,narrow QRSであれば構造的に問題がある疾患,wide QRSであれば代謝性疾患と関連があるとされます2)。
narrow QRSの場合には,POCUSが大きな武器となります。大きく4つの疾患(心タンポナーデ/循環血液量減少/肺塞栓/緊張性気胸)が鑑別に挙がります。超音波検査によって一発で診断できる可能性が高いので,是非とも迅速に超音波を当ててみましょう。
一方で,wide QRSの場合には,高カリウム血症とNaチャネル遮断薬中毒が2大鑑別疾患です。それぞれ血液ガス検査や既往歴,救急搬入までの病歴から判断できることがあります。
いずれの波形においても,原因疾患が判明すれば,もしくは疑われる疾患があれば,それに応じた治療を行います。
◆POCUSでcardiac activityを確認する
PEAは心停止の波形の1つですが,POCUSで左室のcardiac activity(壁運動)が観察されることがあります。これを偽性PEAと呼び,心拍動はあるがパルスチェックで拍動を触れるほどの血圧がない場合,と定義されます。重度のショックととらえることも可能な病態で,構造的な問題がある疾患が原因となっている可能性が高いです。そのため,心電図波形はnarrow QRSを呈することが多いです。この場合には4つの疾患を鑑別するのでした。心嚢液貯留+右室虚脱→心タンポナーデ,右室・左室ともに虚脱→循環血液量減少,右室拡大+左室虚脱→肺塞栓,肺でのsliding signなし→緊張性気胸,と判断できます3)。
他方,cardiac activityが全く,またはほとんど観察されない時には真性PEAと判断します。これは代謝性疾患と関連があり,wide QRSを呈することが多くなります。
急性心筋梗塞が原因の際にはどちらのパターンも取り得ます。心破裂による場合はnarrow/偽性PEAを,ポンプ不全による場合はwide/真性PEAを呈することが一般的です。前者は救命の余地がありますが,後者では救命は困難と判断されます。
ここまで見てきたように,PEAの波形がnarrowかwideかを判断し,POCUSを行うことにより診断とマネジメントが迅速にできる可能性が生まれます。なお,「6H6Tを全てカバーできていないじゃないか」というツッコミがあるかと思います。ただ,低酸素症や低カリウム血症,低血糖はPEAを呈することはあまりなく,低体温や外傷は病歴や身体所見から明らかです。そのため,鑑別で問題になることはあまりないでしょう。
蘇生可能性の判断
PEA患者を蘇生できるかどうかは,前述のcardiac activityと心拍数で,ある程度判断ができます(表2)。
REASON試験は,非外傷性院外心停止患者を対象に,cardiac activityの有無で蘇生の可能性を検討した研究です4)。ER搬入後の初回POCUSにおいて,cardiac activityがあること(偽性PEA)はROSC(心拍再開)率/生存入院率/生存退院率と関連がありました。逆にcardiac activityがないこと(真性PEA)は死亡と関連がありました。ROSC率で見ると,54% vs. 14.3%でcardiac activityが観察された場合に有利であることがよくわかります。その後の追試でも,cardiac activityがある場合はない場合に比較して,ROSC率/生存入院率/生存退院率が高いことが報告されています5)。ただし,REASON試験では,cardiac activityがなくとも生存退院できた患者が0.6%いました。cardiac activityがないことだけを理由に蘇生を中止することは,蘇生可能性がある患者を見捨てることになりかねませんので,要注意です。
モニターに映る心拍数も蘇生の可能性を検討する際に重要です。PEA症例を心拍数で4群(10~24 bpm,25~39 bpm,40~59 bpm,60~150 bpm)に分類して30日生存率を検討したところ,心拍数≧60 bpm群で,30日生存率や良好な神経学的予後が他群に比較して多かったという報告があります6)。筆者も頻拍性のPEAの場合には,「おっ,これはそろそろ蘇生するかもな。蘇生した後の対応は……」などと考えながら対応しています。
*
PEAは多くの情報を与えてくれます。それを適切に拾いあげて解釈し,原因へ介入することで患者さんを救命できます。明日からのPEA診療が劇的に変わることを期待しています!
今回の勘どころ
✓ PEAでは蘇生のための原因検索が重要
✓ 心電図波形と超音波所見からPEAの原因を推定できるようになろう
✓ 蘇生可能性の判断に超音波所見と心拍数を活用しよう
参考文献・URL
1)Circulation. 2020 [PMID:33081529]
2)Med Princ Pract.2014 [PMID:23949188]
3)Med Princ Pract.2021[PMID:33254164]
4)Resuscitation. 2016 [PMID:27693280]
5)Resuscitation. 2017 [PMID:28916478]
6)Resuscitation. 2018 [PMID:29408228]
徳竹 雅之(とくたけ・まさゆき)氏 健生病院救急集中治療部 ER
2013年秋田大医学部卒。健生病院臨床研修医,福井大病院救急部・総合診療部,聖隷浜松病院,福井大等を経て,18年より現職。21年より聖隷浜松病院で集中治療の修行中。日本救急医学会救急科専門医。「りんごの街の救急医」(https://appleqq.hatenablog.com/archive)を通して専門領域に関する情報発信も行う。TwitterID:@MasayukiToc
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