看護のアジェンダ
[第207回] 管理者が試される時
連載 井部 俊子
2022.03.28 週刊医学界新聞(看護号):第3463号より
新型コロナウイルスの感染拡大による第6波のただ中,用意周到に準備され開催された看護管理者研修では「コロナ禍における看護管理実践で学んだこと」をグループディスカッションのテーマとした。そこで私の関心を引いた興味深い発表があった。
病棟再編がうまくいった病院,不平不満が充満した病院
発表者が言うには,新型コロナウイルス感染者が入院するための,いわゆるコロナ病棟を急きょ編成することとなり,スタッフの移動を余儀なくされたのであるが,看護部長のかかわり方でとてもうまくいっている病院と,不平不満が充満している病院があるというのである。これは聞き捨てならぬと私は考えた。そこで発表者が淡々と発表を済ませようとしているところに切り込んだ。
井部「うまくいっている病院はどのように病棟の再編成を行ったのですか」
すると,発表者に代わって当該病院からの参加者が説明に立った。
参加者「病棟の移動をお願いする看護師に集まってもらい,看護部長が辞令交付を行います」
井部「辞令にはどのようなことが書かれているのですか」
参加者「病棟の配置替えをすること,どこどこ病棟に,いつからいつまでという期間が書かれています。辞令は病院長名で出されます」
井部「それで」
参加者「これから始まるコロナ病棟での仕事にみんなの力を貸してほしい,と看護部長は述べます」
井部「どのくらいの間隔で辞令交付は行われるのですか」
参加者「2~3か月ごとくらいです。1回に5~6人の移動があります。2回目の移動者にはねぎらいを伝え,コロナ病棟をよくしてほしいと伝えます。すると,“今度は自分が行きます”と手を上げてくれるスタッフが現れるのです」
井部「では,(コロナ病棟編成が)うまくいかない病院の看護部長はどのような対応をするのですか」
参加者「廊下で,立ち話で,(移動してもらう看護師に)“お願いね”と言うだけです」
この一連のやりとりにおいて,重要な事業を実施する際に看護部長がスタッフにどのようなメッセージを発するかが問われていることがわかる。いわば,看護部長の言葉掛けの効用である。
新型コロナ患者受け入れ体制の構築を看護部はどう支援するか
倉岡は看護師長7人のインタビュー調査によって,第1波から第2波(2020年3月~2021年1月)のCOVID-19患者受け入れ体制の構築・運用プロセスを体系化している1)。
第1波の感染拡大時期では,病棟師長は「自部署での患者受け入れを受諾」し,「急ピッチでの患者受け入れ体制作り」を行う。自部署での患者受け入れ受諾には,「病院の方針として患者を受け入れることが通知される」とともに,「患者受け入れ部署として選定され決定を受諾する」ことが含まれる。そして,「早急に構造整備に取り掛かる」「看護師に説明し準備段階の不安に対応する」「COVID-19患者を担当する看護師を選定し配置する」「短期間でのマニュアル整備とPPE着脱訓練をする」「看護師の宿泊場所を確保する」ことなど,「急ピッチでの患者受け入れ体制作り」をしなければならない。
とりわけCOVID-19患者を担当する看護師の選定は組織横断的に行われるため,看護部長の意思決定とサポートが重要となる。当該病棟師長としては,看護部がどのくらい関与し,人的・物的支援をしてくれるかが生命線である。この点において看護部長の言動は大きな影響力を持っていることを,前述の発表が示している。
こうした危機的状況においてこそ管理者の「7つの挑戦課題」2)のいくつかがクローズアップされる。組織がつくった目標を自分の部下たちにかみ砕いて説明し,部下たちの納得を得ること(目標咀嚼),組織内にネットワークをつくり出し,それを通じて自部門に資源(ヒト・モノ・カネ)を集めつつ,かつ上司を含め,他部門ともうまく協調していくこと(政治交渉),実務担当者より少ない知識や情報をもとに,リスクやメリット,デメリットを勘案して,適切に部署の意思を決定し,自ら責任を負うこと(意思決定),そして,いかにその仕事が矛盾や混沌に満ちていようとも,心を平静に保たなくてはならないのである(マインド維持)。マインド維持のためには,心が折れないように自分を維持することや,不真面目にスルーすることも大切であると中原は指摘する。
*
前述のグループディスカッションにおける2人目の発表も,私には突き刺さった。スタッフがPCR検査で陽性になったと病棟師長として看護管理室に報告に行くと,そこにいる副看護部長が「またか」「なぜ」と冷たい言葉を発する。そこで病棟師長は「すみません」と謝り,「クラスターではありません」とか「やれることはやっています」と苦しい弁解をするのだという。こうして心が折れそうになる。
新型コロナウイルス感染症患者の受け入れ体制の構築と運用は,看護部長として,看護師長として,管理者が試される時でもある。
参考文献
1)倉岡有美子.病院における新型コロナウイルス感染症患者受け入れ体制の構築・運用プロセス――看護師長の視点から.日看科会誌.2021;41:467-75.
2)中原淳.増補版 駆け出しマネージャーの成長論――7つの挑戦課題を「科学」する.中公新書ラクレ;2021.
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