看護師のギモンに応える!エビデンスの使い方・広め方
[第10回]患者報告型アウトカムを臨床に実装する
連載 宮下 光令
2022.01.24 週刊医学界新聞(看護号):第3454号より
突然ですが,皆さんの病棟や施設では,患者さんの「痛み」をどのように評価・記録していますか? 通常の会話から患者の痛みの程度を推測し,「-/+/++/+++」などと記録している施設もあるでしょう。あるいは患者さんに「今の痛みの程度は0点から10点のうち何点ですか?」と質問し,点数を記録している施設もあるはずです。
Patient-reported outcome(PRO:患者報告型アウトカム)とは,評価尺度を用いて痛みや不安などの身体・心理的な症状を患者に直接尋ね,主観的な評価を測定する指標です。例えば次のような質問に,患者さん自身に0(全く支障がなかった)から4(耐えられないくらいあった)の5段階で答えてもらいます(以下,文献1から抜粋)。
Q. 痛みによってどれくらい生活の支障がありましたか?
Q. 病気や治療のことで不安や心配を感じていましたか?
Q. 治療や病気について,十分に説明がされましたか?
「そんなの臨床で当たり前にやっている!」と思うかもしれませんが,毎回の患者ラウンド時などに一連の症状を系統的に尋ねる行為は,国内外を問わずあまりされてきませんでした。しかし,患者の症状は一般的に主観的であり,医療者はそれを過小評価すると広く知られるようになった経緯から,最近ではPRO(評価尺度)を臨床でもっと活用しよう! との声が聞かれるようになりました。では臨床で患者さんに,自身の身体・心理的な症状についてPROを用いて報告してもらうことは,予後やQOLにどのような影響があるのか。以下で,米国の著名なランダム化比較試験(RCT)2)から,患者中心の医療の実現にエビデンスをどう活用するか考えてみましょう。
緩和ケアでもPROは有効か?
本研究では,転移を伴う固形がんに対し外来化学療法を受ける患者766人を,診察時に「PROを用いて医師や看護師に症状を報告する群(PRO使用群)」と「通常の診療を行う群(PRO未使用群)」にランダム化しました。結果,6か月後のQOLの改善は,PRO使用群が34%,PRO未使用群が18%と,PRO使用群でQOLが大幅に改善されました。さらに,その後の追跡調査で,PRO使用群でより生存期間が延長するとの結果も得られています3)。
緩和ケアの領域において184の研究をレビューした論文4)ではPRO使用の患者への効果が表1のようにまとめられています。しかし残念ながら,緩和ケア領域でPROを臨床で活用する有効性を評価したRCTは少なく,十分なエビデンスがあるとは言えません。そこで,がん患者に対する緩和ケアを専門とする私たちのグループは最近,緩和ケア領域におけるPROの有効性の研究を開始しました。

エビデンス使用の障壁と導入に向けた打開策は
私が臨床におけるPROの活用を研究するのは,これが初めてではありません。20年以上前からカナダではPROが用いられ,日本への導入を20年前に一度試しました。しかし,失敗に終わりました。その原因は,「導入方法」にあったのです。
新しい手法の導入は,何らかの形で医療者の負担が増す場面が多く,さらにPROの場合は記入や聞き取りで患者負担も増えます。病棟や施設の文化,人間関係にも配慮しなければなりません。慎重な導入方法の必要性に思い至らなかったのが失敗の要因です。当時私はまだ30歳前後と若く,経験不足もありました。現在はそのリベンジ・マッチとしてPRO活用の研究に注力しているわけです。
私たちは現在数施設において,ホスピス・緩和ケアにおける評価尺度の一つであるIPOS(Integrated Palliative care Outcome Scale)1)を用いて,PROの導入試験を行っています(PROの使用では「...
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