医学界新聞

看護師のギモンに応える!エビデンスの使い方・広め方

連載 友滝 愛

2021.12.13 週刊医学界新聞(看護号):第3449号より

 教員として働く筆者は,看護師としての臨床経験と,疫学・生物統計学を学んだ経緯から,「EBPの文脈で文献を批判的に吟味できるよう,効率的に学べる場を作れないか」と考えるようになりました。

 これには2つの理由があります。1つは,「実践と研究の乖離を埋めていくには,どんなアプローチがあるか」に関心があり,両者をつなぐのがEBPであると考えたからです。もう1つは,看護師の多くはEBPを肯定的にとらえているものの,EBPの実際の取り組みについて自己評価が低く,文献の検索や批判的吟味に対して不得意と感じる人が多いことが,現在も国内外で報告されていることです1, 2)

 そこで本稿では,EBPを目的に行う,文献の批判的吟味に焦点を当てた学習の事例を紹介します。

 看護師や看護学生などに,EBPの取り組みや文献の批判的吟味について話を聞いたところ,大学の授業や院内看護研究,認定・専門看護師などの養成課程で研究について学ぶ機会はあっても,臨床において研究の知見の活かし方がわからないという。また,論文を読んでいるときに,特に量的研究の専門用語が難しいと感じることが多く,研究に関して学び直しのニーズがあることもわかった。

 研究の知識を一朝一夕で身につけることは難しい。繰り返し学習が必要な分野ではあるものの,従来行われている研究方法論の授業や量的研究のセミナーは,EBPの文脈で「実践に活かすための研究の知識やスキル」を習得することにつながるのか,疑問に感じた。

Step 1 臨床疑問を明確にする

 筆者のこれまでの経験から,「EBP」「エビデンス」の言葉が,「看護研究を(自分が)行うこと」とイメージされることも多く,EBPへの誤解もあると感じていました。

 日本の臨床現場で行われる院内看護研究は,EBPに必要な研究の知識・スキルを向上する要因の一つですが1),ポジティブな体験として意味付けられるばかりではなく,ネガティブな感情をもたらすこともあります3)。例えば「研究」というキーワードに苦手意識が付きまとってしまう等です。

 このような背景から,「研究をするための研究の学習」では「実践で研究成果を使う」という実際の場面を想起しにくいのではないかと思いました。

 そこで,臨床でEBPに取り組む場面に近い思考をたどれるような学習方略が望ましいのでは――との仮説を立て,次のPICOを考えました。

P:EBPに関心のある看護師,看護学生・大学院生,看護系教員を対象に,
I:EBPを目的として文献の批判的吟味を行うと,
C:看護研究のための一般的な授業やセミナーと比べて,
O:量的研究の苦手意識を緩和する,EBPに対する理解が深まり動機付けになる。

Step 2 文献検索,Step 3 文献の批判的吟味

 文献検索では,この分野の論文で用いられる用語が統一されておらず検索に苦戦しましたが,PubMedやCochrane Libraryで“EBP”“education”“critical appraisal”“systematic review”等の用語を用いて論文のスクリーニングを行いました。論文を読むと,EBP教育の介入研究は多数あるものの,エビデンスレベルは低く,効果的なEBP教育は未確立であることがわかりました4~6)

 また,このような限界はありながらも,「EBPを意図した学習方法は,EBPを意図しない学習方法と比べて,文献の批判的吟味に対する知識・スキルを改善しやすい傾向があるのでは」との視点に着目する研究も報告されていました7, 8)

 しかし,肝心の「EBPを意図した学習」は,論文には詳細が記述されていないため,学習方法の具体的な検討ができませんでした。そこで,歴史的にも先行して行われている医師のEvidence-Based Medicine(EBM)教育の書籍9, 10)やウェブサイト11)等も読み,さらに情報収集を重ねました。

EBPを意図した学習の例

●臨床疑問に始まり,「研究の妥当性」「効果の大きさ」「実践への適用可能性」の視点で吟味し,吟味した結果は臨床に帰着させる。
●研究の欠点や限界は,臨床への適用にどの程度影響するのかを吟味することがより重視される(研究の欠点や限界を指摘することそのものや,より適切な研究方法を議論することが狙いではない)。
●読んだ論文を発表するときは,EBPの観点でディスカッションするジャーナルクラブ形式で行う(発表者に対して他の人がコメントするスタイルではない)。

Step 4 適用,Step 5 評価

 集めた文献を元に,EBPに関心のある看護師・看護学生等を対象とした,EBPのための文献の批判的吟味のワークショップとして,内容を再構成しました。

 実際にワークショップに参加した方々のディスカッションを通して,筆者自身も新たな気付きがありました。それはどの議論も,「この論文で提案されている方法は,目の前の患者さんに有用かどうか」に帰着する点です。自分の看護観や日々のアセスメントが色濃く表れること,それが結果的に「看護を語る場」にもなっていました。

 例えばPICOの4要素(連載第2回参照)は,EBPの最初に臨床疑問を明確化するときだけではなく,論文の批判的吟味でも有用です。

 本連載で紹介されたこれまでの事例のように,「目の前の患者の状況と研究の対象者は似ているのか(P)」「研究で提案されている方法は,自分の現場でも利用できるのか(I)」「研究で用いられている比較対照群は,自分たちの実践と違うのか(C)」「研究のアウトカムと自分たちが大切にするアウトカムは一致しているか(O)」といった視点は,日頃のアセスメントがあってこそ議論できるものだからです。

 このような視点は研究を行うときにも重要ですが,EBPの文脈でPICOを明確に意識することで,現場を念頭に置いた一貫した思考になるのか...

 ワークショップ...

この記事はログインすると全文を読むことができます。
医学書院IDをお持ちでない方は医学書院IDを取得(無料)ください。

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook