医学界新聞プラス
[第1回]心エコー読影力がアップする! 厳選症例①
『国循・天理よろづ印 心エコー読影ドリル【Web動画付】』より
連載 泉知里
2021.09.03
国循・天理よろづ印 心エコー読影ドリル【Web動画付】
患者さんの負担が少なく,小さな異常の発見にもつながる心エコー図検査。日常診療の中で「自分の撮ったエコーの診断が正しいか答え合わせしたいけど,周りに聞ける人がいない……」と思ったことはありませんか? そんな声に応えるために誕生した問題集が『国循・天理よろづ印 心エコー読影ドリル』です。本連載では,本書で扱う50症例の中から3症例を紹介します。診断に自信をつけるため,あるいは自分の力試しのために,ぜひチャレンジしてください!
※ 掲載動画は予告なしに変更・修正,配信停止する場合がございます.
Case 18 難易度 ★☆☆
50歳代後半,女性.
最近息切れがあり,初めて検診を受けたところ心雑音を指摘され,経胸壁心エコー図検査が施行された.
Q この症例・疾患について正しいものをすべて選べ.
- ① 漏斗部欠損型心室中隔欠損症である.
- ② 成人先天性心疾患の中で,最も頻度が高い.
- ③ 大動脈弁右冠尖の逸脱(嵌入)がみられる.
- ④ 右室に容量負荷がかかる疾患である.
- ⑤ 感染性心内膜炎を発症した場合,三尖弁に疣腫が付着することが多い.
- ★ 心室中隔欠損症は,右室ではなく左室に容量負荷をきたす疾患である!
- ★ 膜様部欠損型心室中隔欠損症では,三尖弁中隔尖に隣接して膜様部中隔瘤が,大動脈弁レベル短軸像で9~12時の間に欠損孔とシャント血流がみられる!
答えと解説
Answer:
⑤ 感染性心内膜炎を発症した場合,三尖弁に疣腫が付着することが多い.
解説
四腔断面から,少し大動脈が見えるように前方にスキャンした断面(図A,C)で,三尖弁中隔尖に隣接して膜様部中隔瘤(pouch formation of septal leafletとも呼ばれる)がみられ(図A黄矢印),その部分から右室に流入するシャント血流がみられる.これは膜様部欠損型心室中隔欠損症である.よって①「漏斗部欠損型心室中隔欠損症である」は誤り.
図A 心尖部四腔像[画像はクリックで拡大]
膜様部中隔瘤を認める(黄矢印).
膜様部欠損型では,大動脈弁レベル短軸像(図B,D)で,9~12時の間に欠損孔(図B黄矢印)がみられる.
心室中隔欠損症は,先天性心疾患の中で最も頻度が高いが,約半数で自然閉鎖がみられる.有意なシャントを有する症例は乳幼児期に手術を行い,シャント量が少なく心臓に負荷のかかっていない症例のみ,未手術でフォローされている.成人における最も頻度の高い先天性心疾患は,心室中隔欠損症ではなく心房中隔欠損症である.よって②「成人先天性心疾患の中で,最も頻度が高い」は誤り.
図B 大動脈弁レベル短軸像[画像はクリックで拡大]
9~12時の間に欠損孔を認める(黄矢印).
心室中隔欠損症の中で,膜様部欠損型の頻度が最も高い.心室中隔欠損症では,大動脈弁尖の欠損孔への逸脱〔嵌入(herniation)ともいわれる〕がみられることがあるが,膜様部欠損型では頻度が低い.本症例の図A黄矢印の部分は,前述のように膜様部中隔瘤であり,大動脈弁尖の欠損孔への逸脱はみられない.よって③「大動脈弁右冠尖の逸脱(嵌入)がみられる」は誤り.
心室中隔欠損症は,心室レベルで左→右シャントがみられるため,右室に容量負荷がかかる疾患だと思われがちであるが,シャント血流は主に収縮期に流れるため,左室から直接肺動脈に血流が流入し,右室はその「通り道」に過ぎないため,右室に対して容量負荷はかからない.したがって,心室中隔欠損症は,右室ではなく左室が拡大する疾患である.よって④「右室に容量負荷がかかる疾患である」は誤り.
欠損孔の位置,シャント血流から見てわかるように,高速のシャント血流は三尖弁に当たるため,膜様部欠損型心室中隔欠損症では,三尖弁に疣腫を認めることが多く,右心系感染性心内膜炎を起こす.よって⑤「感染性心内膜炎を発症した場合,三尖弁に疣腫が付着することが多い」は正しい.図1は膜様部欠損型の症例に生じた感染性心内膜炎で,三尖弁に疣腫がみられる(黄矢印).
図1 膜様部欠損型心室中隔欠損症の症例に生じた感染性心内膜炎[画像はクリックで拡大]
三尖弁に疣腫を認める(黄矢印).
最終診断: 膜様部欠損型心室中隔欠損症
Learning Point
国循・天理よろづ印
心エコー読影ドリル
こんな問題集がほしかった!
心エコー読影力が必ずupする50症例、動画185本付!
<内容紹介>こんな問題集がほしかった! 心エコー読影力が必ずupする50症例、動画185本付!「循環器ジャーナル」人気連載に大幅加筆し、心不全や弁膜症、先天性心疾患から、虚血性心疾患、心筋疾患まで、心エコー読影力さらにはその先を問う症例を厳選。解き終えた後は不正解の問題を解き直すもよし、付録の「逆引き疾患目次」「Learning Pointまとめ」で各疾患の理解を深めるもよし。ボロボロになるまで使い倒すべし!
目次はこちらから
タグキーワード
いま話題の記事
-
医学界新聞プラス
[第1回]心エコーレポートの見方をざっくり教えてください
『循環器病棟の業務が全然わからないので、うし先生に聞いてみた。』より連載 2024.04.26
-
事例で学ぶくすりの落とし穴
[第7回] 薬物血中濃度モニタリングのタイミング連載 2021.01.25
-
寄稿 2016.03.07
-
PT(プロトロンビン時間)―APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)(佐守友博)
連載 2011.10.10
-
連載 2010.09.06
最新の記事
-
医学界新聞プラス
[第1回]選ばれる時代
SNSで差をつけろ! 医療機関のための「新」広報戦略連載 2024.09.20
-
医学界新聞プラス
[第1回]Gen AIと最新ツールが拓く論文執筆の新時代
面倒なタスクは任せてしまえ! Gen AI時代のタイパ・コスパ論文執筆術連載 2024.09.13
-
取材記事 2024.09.12
-
寄稿 2024.09.10
-
対談・座談会 2024.09.10
開く
医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。