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SNSで差をつけろ! 医療機関のための「新」広報戦略

連載 町田詩織

2024.09.20

SNSの利用は個人にとどまらず,「認知度向上」や「顧客獲得」のために企業も活用することが一般的になってきました。この流れは医療業界も例外ではなく,SNSアカウントを立ち上げる病院が急増しています。しかし,アカウントは作ったもののうまく運用できない,そもそも手を出せないという施設が多いのではないでしょうか。 

本連載では,病院の広報担当としてInstagramアカウント(@fujisawatokushukai)の立ち上げからフォロワー獲得,いわゆる“バズ”の創出など数々の経験をしてきた町田氏が,SNSの効果的な運用のために押さえておくべきポイントとコツを紹介します。 

なぜ医療機関が広報でSNSを活用すべきなのか?

「職員から『うちもSNSを』と言われる」「他がやっているから」「あの病院が始めたから」左記のような理由からSNSを始めてみた施設,気になっている施設も多いと思います。
SNSを運用することで,どのような状態をめざせば良いのか,あるいはどのような成果が得られるのか。この点を認識して運用するのと,漠然と運用するのとでは,成果に大きな差が出てしまいます。

SNS運用の目的は「多くの選択肢から,選ばれる状態を作る」ことです。情報過多の時代となった今,処理不可能なほど大量の情報が世の中に溢れています。生活者が日々大量に流れてくる情報から必要なものを選択している一方で,残念ながらほとんどの情報が選ばれる以前に注意を引くことすらできずスルーされてしまいます。

ここで質問をします。

「あなたは今週,どこかの病院のホームページをじっくり見ましたか?」
受診予定があった方は,交通アクセスや受付時間をチェックされたかもしれません。病気について調べたら,たまたま病院のホームページだったという方もいらっしゃるかもしれません。けれども,「じっくり見た」という方は少数派ではないでしょうか。ホームページは世界中の人が閲覧可能な媒体ですが,掲載すれば世界中の人に見てもらえるかと言えば,決してそのようなことはありません。

それでは,ホームページにたどり着くのはどのような人でしょうか? 病院名を知っていて検索した人,病名などのキーワードを検索してたまたまヒットした人が大半だと思います。つまり,病院ホームページは病院名の認知度とSEO対策()の産物によってしか見られていないと言えるのです。

医療機関も採用や集患において例外なく「選ばれる状態」を作らなければ生き残れない時代です。選ばれるには,認知を獲得した上で,選択肢に加えてもらう必要があります。

1人1台スマホを持つことが当たり前になった社会で,まだ出会ったことのない人と出会い,距離を縮めることに長けている媒体,それがSNSだと筆者は考えます。

湘南藤沢徳洲会病院のSNSを始めたきっかけ

湘南藤沢徳洲会病院がSNSを始めたきっかけは,新型コロナウイルス感染症対応による人材不足でした。

新型コロナウイルス感染症の拡大と影響の長期化によって,現場の人材不足が深刻になったのです。感染拡大以前から潤沢ではない人員配置であったところに,職員やその家族が感染し次々と人員が削られ,残った者は疲弊していきました。人員不足で「手術ができない」「入院を受け入れられない」という状態に陥り,医療の継続までもが危ぶまれる事態となりました。

私は広報職員として,集患以前に人員獲得に着手するべきと判断し,2021年6月に開始したのがSNS(Instagram,@fujisawatokushukai)でした。外出自粛,行動規制……。新型コロナウイルス感染症の流行で活動が制限され,人と人とのかかわりが減少する中,自宅にこもってSNSを見る時間が急増していたからです。この状況から私は,「新たな入職者はSNSの中にいる」と確信しました。

SNS活用でめざす成果

当院で働いてくれる医療従事者を増やすには,当院を知らない層に認知を拡大し,さらに当院で働きたいと思ってもらわなければならないと考えました。幸いにも当院は湘南エリアで海の近くに位置し,駅からもほど近く,大型ショッピングモールが隣接するという好立地です。加えて,気さくで頑張り屋のスタッフが多く,チームワークも良好です。そこで当院の魅力を日々発信し,新卒および転職を検討している医療従事者の目に留まってもらえれば,当院への入職を検討してくれるのではないかと考えました。

ここで取り入れたのが,「マーケティングファネルの考え方」です(図1)。露出を圧倒的に増やし,多くの人の目に触れることで認知を獲得し,興味関心を持ってもらいファンを育成する。そして就職や転職のタイミングで,見学・応募につなげます。応募・入職者を増やすには,まずは露出を増やし,その先のステップに着実に進められるように設計する必要があります。

SNSの強みの1つに「ザイアンス効果」というものがあります。最初は興味がなかった物事や人でも,何度も接するうちに好きになっていく現象です。最初は知りもしない状態であっても,気に留めた状態(認知)に持っていくことさえできれば,あとは日々の投稿で接触を継続していくうちに好感や親近感を持ってもらう(ファン化)ことで,入職したいという気持ちを育成できます。

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  •  図1  マーケティングファネルの考え方
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    筆者は,「最大の効果を発揮できる方法でSNSを運用し,できるだけ早く人材採用で成果を出すこと」を考え,Instagram攻略法を猛勉強し,病院SNSとはどうあるべきかを模索しながら実地でトライ&エラーを繰り返しました。

    その結果,運用開始から3年間でInstagramのフォロワー数は1万人に到達。合計2120万リーチ(月平均57.3万リーチ)と,爆発的な露出の拡大に成功しました(図2,3)。2024年7月時点で,当院ホームページの月間訪問者数は平均8万5000件程度です。これは決して少なくない数字ですが,それと比較しても月平均のリーチ数を約7倍に増加することができ,多くの人に目にしてもらえていることが,おわかりいただけるかと思います。

     

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  •  図2  湘南藤沢徳洲会病院 Instagramのフォロワー数の推移
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  •  図3  湘南藤沢徳洲会病院 Instagramのリーチ数の推移
  • SNS運用の成果を検証する効果測定として,毎年4月の入職式の際,定点観測的に新入職員にアンケートを実施しています。2023年・24年は新入職員の約6割が当院のInstagramを見たことがあり,約3割が入職する動機につながったと回答。,2024年は36人の新入職員が,Instagramを動機に入職したと回答しました(図4)。

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  •  図4 Instagramが入職動機に及ぼす影響(湘南藤沢徳洲会病院新入職員アンケート結果より)
  • 以上のように,毎年一定の効果が得られていることから, SNSは病院においても重要な広報手段となり,「選ばれる」という点においては非常に有力な媒体であることがわかります。訪れる旅行先,飲食店,美容院を,SNSを見て決める人が多くいます。就職先・受診先をSNSで決める時代も,既に始まっています。

    正しいSNS運用をしなければ成果は得られない

    SNSを始めさえすれば,すぐに応募が増えるというわけではありません。病院でのSNS運用は前例が少なく,手間がかかり,成功させるには知識と時間が必要となります。

    正しい方法で運用しなければ全く成果に結びつかず,無駄な努力に終わってしまいかねません。実際のところ,ビジネスアカウントのほとんどが成果を上げられていないのが現実です。努力を成果に結びつきやすくするため,これまで筆者が培ってきた病院SNSにおけるポイントとコツを,次回からお伝えしていきたいと思います。


    註:SEOは「Search Engine Optimization」 の略で,「検索エンジンの最適化」を意味する。SEO対策とは,検索エンジンにおいて自身のウェブサイトをより上位に表示させるための取り組みを指す。

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    湘南藤沢徳洲会病院マーケティング課 主任

    製薬会社MR,フリーランスを経て,2013年湘南藤沢徳洲会病院に入職する。マーケティング課で広報誌を担当後,21年2月に同課責任者に就任。24年4月より現職。21年6月から職員採用を目的に開始したInstagramは開始3年間でフォロワー数1万人超えを達成。看護師,研修医,薬剤師などの採用に成功。病院広報アワード2023SNS部門最優秀賞受賞。医療従事者向けの雑誌記事の執筆,院内外での勉強会講師,メディア施策等で幅広く活動中。
    X ID:まっちー@病院広報(@MACHY_pr

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