臨床のためのEBM入門
決定版JAMAユーザーズガイド
これからEBMを学びたい医学生,医療関係者に好適の入門書
もっと見る
1993~2000年にかけてJAMAに連載されて大好評を博したUser’s Guides to the Medical Literatureシリーズを,シリーズ編者のGuyattが中心となって大幅加筆修正し,再構成したEBM入門書の翻訳。発展を続けているEBMの現在形をわかりやすく,コンパクトにまとめた。
編集 | Gordon Guyatt / Drummond Rennie |
---|---|
監訳 | 古川 壽亮 / 山崎 力 |
発行 | 2003年08月判型:A5頁:404 |
ISBN | 978-4-260-12707-3 |
定価 | 4,400円 (本体4,000円+税) |
更新情報
-
更新情報はありません。
お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。
- 目次
- 書評
目次
開く
第1部 基礎編:医学文献の利用法
1A 序論:EBMの哲学
1A1 エビデンスの検索
1B 治療と害:はじめに
1B1 治療
1B2 害
1C 診断の過程
1C1 鑑別診断
1C2 診断検査
1D 予後
1E エビデンスを要約する
1F エビデンスから行動へ
第2部 応用編:EBMの原則の応用と教育
2A 治療と害:なぜ研究は誤りとなるのか-バイアスとランダム誤差
2B 治療に関する論文とその結果を解釈するために-仮説検定
2C 治療に関する論文とその結果を解釈するために-信頼区間
2D 治療に関する論文とその結果を解釈するために-関連性の指標
付録:計算式
用語集
監訳者あとがき
索引
1A 序論:EBMの哲学
1A1 エビデンスの検索
1B 治療と害:はじめに
1B1 治療
1B2 害
1C 診断の過程
1C1 鑑別診断
1C2 診断検査
1D 予後
1E エビデンスを要約する
1F エビデンスから行動へ
第2部 応用編:EBMの原則の応用と教育
2A 治療と害:なぜ研究は誤りとなるのか-バイアスとランダム誤差
2B 治療に関する論文とその結果を解釈するために-仮説検定
2C 治療に関する論文とその結果を解釈するために-信頼区間
2D 治療に関する論文とその結果を解釈するために-関連性の指標
付録:計算式
用語集
監訳者あとがき
索引
書評
開く
EBMへの苦手意識もこれで払拭
書評者: 武田 裕子 (琉球大学医学部附属病院・地域医療部)
◆「JAMAユーザーズガイド」のエッセンスが集約
この本は,EBM(evidence―based medicine)という言葉を考え出したGordon Guyattと,ユーザーズガイド(User’s Guides to the Medical Literature)シリーズを担当したJAMA編集者によって協同編集された。ユーザーズガイドは,EBMの概念や方法をわかりやすく臨床医に伝える目的で1993―2000年に25回にわたってJAMAに掲載された論文集である。EBMという新しいツールを実践したいと考えた者は,どこかでこれらの論文あるいはその一部を目にしたことがあるであろう。もしその際に,EBMはやっぱりとっつきにくい,理解しにくいと感じたとしたら,そういう方にこそエッセンシャル版ともいえるこの本をお薦めしたい。
本書は,JAMAに掲載された32本の全論文を,それぞれの著者(Guyatt氏を中心としたEBMワーキング・グループのメンバー50名)が互いに協力して大幅に加筆修正したものである。論文間の重複が取り除かれ,最近の臨床スタディの結果を取込んだ1冊の新しい教科書となっている。第1部基礎編には,文献の探し方から読み方までEBMの必須事項がコンパクトにまとめられている。第2部応用編を読むと,どうしたら学生や研修医にわかりやすく教えることができるかを学べる。いずれも即実践に用いることができるよう具体的に書かれており,EBMに対する苦手意識を払拭してくれる。巻末の用語集は知識の整理に役立ち,ポケットカードのおまけまでついている。
◆磨きのかかったEBMの教育方法も学べる
この本の序には,“実際の患者の問題を解決するために文献の情報を使うように臨床医を励ますことの必要性と,また困難さを意識するようになった”McMaster大学臨床疫学のグループが,90年に大学病院内科研修の募集要項にEBMという言葉が登場して以来,“EBMの実践と教育方法にさらに磨きをかけて”きた過程が紹介されている。米国の大学に籍を置く多くの内科医たちとも連携し,医学文献を診療に応用する実践的なアプローチを発信し続けている。今回翻訳された「臨床のためのEBM入門」はその集大成ともいえ,磨きのかかった教育方法を自分のものにする絶好の手引書である。
McMaster大学では,毎年,“How to practice and teach evidence―based clinical practice”というワークショップが開催されている。私も2回参加したが,そこで学んだ内容のほとんどをこの本に見出すことができる。ワークショップは1週間にわたり,日本から休暇をとって出かけるのはなかなか困難である。参加できても語学の壁から,議論を堪能するに至らず悔しい思いをすることもある。今回この翻訳書が出版されたおかげで,ワークショップの内容を日本にいながら学べることになった。読みやすい日本語で書かれており,翻訳本を読むときの難儀さをほとんど感じさせない。
今後,EBMの理解と実践に本書は大きく貢献するであろう。この本の読者は,監訳者あとがきに古川壽亮先生が書かれている,“「目から鱗」の連続”体験,“これからもあるかどうか分からない”知的興奮の意味を感じ取れると期待してほしい。
医師の「プロ」としての責任が問われる時代に「国際標準」を実践する
書評者: 黒川 清 (東海大学総合医学研究所所長)
◆インターネットの普及で標準となったEBM
JAMAの“User’s Guide to the Medical Literature”(Gordon GuyattとDrummond Rennie編による)が古川壽亮,山崎 力両氏の監訳で出版された。ありがたいことである。この本の目的,歴史,使い方などについては編者であるMcMaster大学のGuyatt先生による「日本語版への序」に明らかにされている。EBMという言葉が「流行り」だしてから,いろいろな書物が出版されてきた。そして時には原著論文を吟味して読むことが大切であるともいわれていた。
しかし,最近ではありがたいことに多くの吟味をされた後での妥当な選択肢を提供してくれる「情報源」が手軽に得られるようになって,特に情報手段であるインターネットが安価に使えるようになった最近では(2,3年前までは日本でのインターネットの使用は接続料金が高くて困ったものであった),いわゆる「グローバルスタンダード」の情報が誰にでもたやすく入手できる。これが診療現場での標準になりつつある。UpToDate,Cochrane,Best Evidence,さらに少しマニアックな人はPubMedというMEDLINE検索システムを使うこともあるであろう。こんな時代になったのである。しかも,「困ったことに」医師ばかりでなく,その他の医療人や,患者さんや社会もこのような情報に接触している。もちろん,診療の現場ではEBMだけではないが,EBMを知らないようでは困ったものである。例えば,「日本人でのエビデンスがないから」とか,あれこれ言う人も多いようであるが,ないから何をしてもよいというわけでもないのは当然である。「なぜ」その選択肢なのか,その根拠は,と説明できなければならない。
◆フィードバックを通じて良質の医療を実現する
ところで,臨床研修が義務化された。いよいよ来年度から「混ざる」システムがはじまる。こんな「混ざる」などという考えは,広い世界では当たり前のことであるが,明治以来,この日本ではどこの社会でも初めてのことではないだろうか。もちろん問題はたくさんある。これらの課題を解決しながらよりよいシステムを構築していくこと,これこそが私たち医師全員に科せられた社会的義務であり責任であろう。
それにはできるだけ情報を開かれたものにすることである。研修医,医学生,指導医,研修病院,行政などのすべてが多様な,複数の,しかし開かれた情報を共有する場を作り上げていくことである。これによって研修の内容が多面的により明らかになり,フィードバックを受けつつ研修の質と医師の能力の向上へと向かうことであろう。何しろ医師の育成は医師のためというよりは,社会のためなのであるから。
この当たり前のことが認識されていなかったところにいまの日本の問題がある。別に医学界に限ったことではない。政府も政治も企業も,どこでもである。そこで,この新しい研修制度を改善していくプロセスを通して,ぜひ皆さんで,患者さんも,社会も巻き込んで,EBMの実践を臨床の現場に広げていってはどうであろうか。前から言っていることだが,EBMは理屈ではなく,実践なのである。
いくつもEBMの本があるが,みんなで意見を交換しているうちにどれが使いやすいとか,本の評価もできてくる。本もよりよいものが作られるであろう。その意味ではこの本は,「本場もの」といえるであろう。しかし,使いにくいところもあるかもしれない。多くの人たちと意見を交わしながらこの本を使ってみると,さらにこの本のよさが生かされるのではないかと思われる。1人で読んでいても,わかりにくいこともあるのだから。
◆医師の資格や能力も国際化されつつある
本書でも紹介されているが,米国内科学会(American College of Physicians:ACP)から,毎月2回ACP Journal Club(JC)という情報誌が発行されている。これがBest Evidenceの材料になっているのである。もちろん,このACP―JCは会員全員に配布される。このACPのもう1つの学会誌が有名な“Annals of Internal Medicine”で,毎月発行されている。では,この会員にはどうすればなれるのであろうか。米国での内科レジデントを終了し,専門医試験(Boardという)に受からなければメンバーにはなれない。しかし,このたび,北米以外では南米での2カ国以外では初めてであるが,日本にACP支部が開設された。日本内科学会の認定専門医であれば会員になれるようになったのである。会員になればAnnalsやACP Journal Clubがいつも送られてくる。このような複数のメカニズムで,いやでもおうでも医師の資格や能力は「国際化」の情報の波に晒され,評価されてくるのである。だからこそ,医師たちが自分たちで「国際化」に対応できるように「プロ」としての力量を常に磨いている必要がある。
「混ざる」臨床研修がはじまり,医療は多くの問題を抱えながら,情報の国際化社会へ突入した。医療事故の多発,高齢社会,高度専門医療と社会の要請のギャップ,「EBM」といわれて10年余がたつ。国内外の社会の目はいっそう厳しくなり,医師の「プロ」としての社会的責任が問われているのである。この本はそのような時に邦訳された「国際標準」であり,この本を大いに利用し,医師と医療の向上に役に立ててほしいものである。このように「EBM国際標準」を,患者さんや社会を巻き込んで日常的に実践していくことによって,初めて日本の医療制度,医学教育や研修の矛盾やひずみが明らかにされ,医療制度改革への動きが進むことが期待できるのではあるまいか。これが健全な社会というものであろう。
「実践あってこそのEBM」を再び強調する
書評者: 名郷 直樹 (横須賀市立うわまち病院臨床研修センター・センター長)
1年前に本書の原書を購入したが,ぱらぱらめくっただけで放置していた。付属のCD―ROMもパソコンにインストールしたのだが,一度も開くことなく現在に至っている。本書が出版されたときも,店頭で手には取ってみたものの買う決心がつかずにいた。その頃は,別のある版画家の著作を全て読破するので手一杯で,とても他の本へいく余裕がなかったのである。
そこへこの書評の話である。受けるか受けまいか,ちょっと迷った。本を送ってもらっても読めるかどうかわからない。読まずに書くというわけにもいかないし。しかしまあそれもいいか。最後まで読めませんでした,そういう書評もありかもしれない。とりあえず1ページ目から読んでみる。
◆いったいだれが正しいのか?
本書は,「いったいだれが正しいのか?」という臨床シナリオではじめられている。EBMは医療実践の革命だというレジデント,それをなんとも説得力のある説明だという名誉教授,その議論に,EBMはこれまでのやり方に一連の新しいツールを付け加えたに過ぎないと,上級医師が割って入った。名誉教授はその説明に対しても,説得力があるとコメントした。それに対して別の上級医師が,両方正しいという議論はありえないという。戸惑いを隠せないこの医師に名誉教授は,そういう君のコメントも正しいという,そんな話である。
このエピソードを読むだけでも,アメリカ医師会雑誌(JAMA)に連載されたシリーズに,本書で何が付け加えられたかは明らかだと思う。若いレジデントは10年前の私自身であり,上級医師は今の私である。もう10年たったときに私はたぶん名誉教授にはなっていないだろうが,似たようなことをいっているかもしれない。ただ10年後のその姿は今の私にはあまり気分のいい話ではない。自分がそうなっているとすると,単にものわかりのよい振りをするぼけたじじいに過ぎない気がして。
◆情報を使うことこそ重要
蛇足になるかもしれないが,監訳者の1人である古川氏のはからいにより,原著者のGuyatt氏を私自身が主催するテレビ会議に招いて,レクチャーを受けたことがある。数年前のことだ。氏が参加者に尤度比を説明するために,ノモグラムを用いて,所見を追加しては,何度も何度も事後確率の見積もりを繰り返し教えていたのを思い出す。その教え方は,現在私自身が診断についてのEBMのワークショップを行なうときの基礎になっている。
EBMの最高の実践者,教育者によって書かれ,最高の翻訳者を得て,日本語で届けられた本書は,初学者にとっても,EBMの指導的立場にあるものにとっても,EBMを学ぶための最高の書のひとつであることに間違いはない。しかしEBMの登場は,カナダ医師会雑誌の論文の「読み方」シリーズを,論文の「使い方」シリーズへと発展させたところにある。情報を読むだけではなく,使ってこそEBMである。そのことを再び強調するために本書の本当の存在意義があるのではないか。
20年以上前,「書を捨てて町に出よう」という本が私のバイブルであった。JAMAの連載から10年を経て本書を読み返し,さまざまな思いが脳裏を駆け巡る。温故知新というが,現実は故きを温ねて新しきに手が回らない,というのが実情である。私自身,EBMの本を読むのは本書をもってしてそろそろやめにしなければいけないのかもしれない。
EBMのNew Testament―時代を切り開く導きの手として
書評者: 斉尾 武郎 (フジ虎ノ門健康増進センター)
◆あんな分厚い本を訳すとは
「JAMAガイド」として有名な連載がEBMの提唱者の手で1冊の本にまとめ上げられた。それを訳したものが本書の原著である―いや,実はJAMAガイドの原著は「エッセンシャル版」と「マニュアル版」の2種類にまとまっているのであった。
1年ほど前であろうか,風の便りに古川教授がJAMAガイドを翻訳出版するそうだ,という話を聞いた。そのとき思ったのは,「さすが古川先生,あんな分厚い本を訳すとは!」であった。ガイアット先生といえば,GHGと言ってEBMer憧れの大御所である。そのガイアット先生の本を訳出するのに,古川教授ほど適任な人もなかなかいないというのも確かである。氏の名著「エビデンス精神医療―EBPの基礎から臨床へ」(医学書院)はそのまま英訳すれば,洋書として世界中でまとまった部数を販売できるほどのしっかりとした内容であり,また,氏の編集した「精神科診察診断学―エビデンスからナラティブへ」(医学書院)もまた,EBM時代の新しい精神医学像を世界に先駆けて提唱する歴史に残る名著である。私自身,都内で精神科の外来診療・精神保健業務に従事しており,氏の著作を日々参照しながら,診療に臨んでいる。しかし……「それにしても,あんな分厚い本を訳すとは!」
◆充実のエッセンシャル版
原書で700ページほどもある分厚い本だとばかり思っていたところ,JAMAガイドをまとめた本は実は2種類あるのだと友人が指摘してくれた。構成はほぼ同じで,文庫本大なのが,本書の原著(エッセンシャル版)である。私は700ページもある「マニュアル版」を日常,EBMの辞書代わりに用いているが,本書(エッセンシャル版)もかなりの充実度であり,日常出くわすEBM関連の疑問は本書で十分に解決できる。これは裏を返せば,これまでEBMを正しく理解するための本の決定版がなかなか出なかったということでもある。本書には,EBMという言葉の来歴や,私の研究分野であるEBMの哲学についての概説も載っている。かねてより,私はEBMの修得にはEBMのエトスの理解が不可欠であると述べている。読者諸氏は本書を座右に置き,縦横に使いこなすことにより,EBMの達人になることも可能であろう。古川教授・山崎教授をはじめ,翻訳の偉業を成し遂げられたEBMの伝道師の方々に深く感謝するものである。
書評者: 武田 裕子 (琉球大学医学部附属病院・地域医療部)
◆「JAMAユーザーズガイド」のエッセンスが集約
この本は,EBM(evidence―based medicine)という言葉を考え出したGordon Guyattと,ユーザーズガイド(User’s Guides to the Medical Literature)シリーズを担当したJAMA編集者によって協同編集された。ユーザーズガイドは,EBMの概念や方法をわかりやすく臨床医に伝える目的で1993―2000年に25回にわたってJAMAに掲載された論文集である。EBMという新しいツールを実践したいと考えた者は,どこかでこれらの論文あるいはその一部を目にしたことがあるであろう。もしその際に,EBMはやっぱりとっつきにくい,理解しにくいと感じたとしたら,そういう方にこそエッセンシャル版ともいえるこの本をお薦めしたい。
本書は,JAMAに掲載された32本の全論文を,それぞれの著者(Guyatt氏を中心としたEBMワーキング・グループのメンバー50名)が互いに協力して大幅に加筆修正したものである。論文間の重複が取り除かれ,最近の臨床スタディの結果を取込んだ1冊の新しい教科書となっている。第1部基礎編には,文献の探し方から読み方までEBMの必須事項がコンパクトにまとめられている。第2部応用編を読むと,どうしたら学生や研修医にわかりやすく教えることができるかを学べる。いずれも即実践に用いることができるよう具体的に書かれており,EBMに対する苦手意識を払拭してくれる。巻末の用語集は知識の整理に役立ち,ポケットカードのおまけまでついている。
◆磨きのかかったEBMの教育方法も学べる
この本の序には,“実際の患者の問題を解決するために文献の情報を使うように臨床医を励ますことの必要性と,また困難さを意識するようになった”McMaster大学臨床疫学のグループが,90年に大学病院内科研修の募集要項にEBMという言葉が登場して以来,“EBMの実践と教育方法にさらに磨きをかけて”きた過程が紹介されている。米国の大学に籍を置く多くの内科医たちとも連携し,医学文献を診療に応用する実践的なアプローチを発信し続けている。今回翻訳された「臨床のためのEBM入門」はその集大成ともいえ,磨きのかかった教育方法を自分のものにする絶好の手引書である。
McMaster大学では,毎年,“How to practice and teach evidence―based clinical practice”というワークショップが開催されている。私も2回参加したが,そこで学んだ内容のほとんどをこの本に見出すことができる。ワークショップは1週間にわたり,日本から休暇をとって出かけるのはなかなか困難である。参加できても語学の壁から,議論を堪能するに至らず悔しい思いをすることもある。今回この翻訳書が出版されたおかげで,ワークショップの内容を日本にいながら学べることになった。読みやすい日本語で書かれており,翻訳本を読むときの難儀さをほとんど感じさせない。
今後,EBMの理解と実践に本書は大きく貢献するであろう。この本の読者は,監訳者あとがきに古川壽亮先生が書かれている,“「目から鱗」の連続”体験,“これからもあるかどうか分からない”知的興奮の意味を感じ取れると期待してほしい。
医師の「プロ」としての責任が問われる時代に「国際標準」を実践する
書評者: 黒川 清 (東海大学総合医学研究所所長)
◆インターネットの普及で標準となったEBM
JAMAの“User’s Guide to the Medical Literature”(Gordon GuyattとDrummond Rennie編による)が古川壽亮,山崎 力両氏の監訳で出版された。ありがたいことである。この本の目的,歴史,使い方などについては編者であるMcMaster大学のGuyatt先生による「日本語版への序」に明らかにされている。EBMという言葉が「流行り」だしてから,いろいろな書物が出版されてきた。そして時には原著論文を吟味して読むことが大切であるともいわれていた。
しかし,最近ではありがたいことに多くの吟味をされた後での妥当な選択肢を提供してくれる「情報源」が手軽に得られるようになって,特に情報手段であるインターネットが安価に使えるようになった最近では(2,3年前までは日本でのインターネットの使用は接続料金が高くて困ったものであった),いわゆる「グローバルスタンダード」の情報が誰にでもたやすく入手できる。これが診療現場での標準になりつつある。UpToDate,Cochrane,Best Evidence,さらに少しマニアックな人はPubMedというMEDLINE検索システムを使うこともあるであろう。こんな時代になったのである。しかも,「困ったことに」医師ばかりでなく,その他の医療人や,患者さんや社会もこのような情報に接触している。もちろん,診療の現場ではEBMだけではないが,EBMを知らないようでは困ったものである。例えば,「日本人でのエビデンスがないから」とか,あれこれ言う人も多いようであるが,ないから何をしてもよいというわけでもないのは当然である。「なぜ」その選択肢なのか,その根拠は,と説明できなければならない。
◆フィードバックを通じて良質の医療を実現する
ところで,臨床研修が義務化された。いよいよ来年度から「混ざる」システムがはじまる。こんな「混ざる」などという考えは,広い世界では当たり前のことであるが,明治以来,この日本ではどこの社会でも初めてのことではないだろうか。もちろん問題はたくさんある。これらの課題を解決しながらよりよいシステムを構築していくこと,これこそが私たち医師全員に科せられた社会的義務であり責任であろう。
それにはできるだけ情報を開かれたものにすることである。研修医,医学生,指導医,研修病院,行政などのすべてが多様な,複数の,しかし開かれた情報を共有する場を作り上げていくことである。これによって研修の内容が多面的により明らかになり,フィードバックを受けつつ研修の質と医師の能力の向上へと向かうことであろう。何しろ医師の育成は医師のためというよりは,社会のためなのであるから。
この当たり前のことが認識されていなかったところにいまの日本の問題がある。別に医学界に限ったことではない。政府も政治も企業も,どこでもである。そこで,この新しい研修制度を改善していくプロセスを通して,ぜひ皆さんで,患者さんも,社会も巻き込んで,EBMの実践を臨床の現場に広げていってはどうであろうか。前から言っていることだが,EBMは理屈ではなく,実践なのである。
いくつもEBMの本があるが,みんなで意見を交換しているうちにどれが使いやすいとか,本の評価もできてくる。本もよりよいものが作られるであろう。その意味ではこの本は,「本場もの」といえるであろう。しかし,使いにくいところもあるかもしれない。多くの人たちと意見を交わしながらこの本を使ってみると,さらにこの本のよさが生かされるのではないかと思われる。1人で読んでいても,わかりにくいこともあるのだから。
◆医師の資格や能力も国際化されつつある
本書でも紹介されているが,米国内科学会(American College of Physicians:ACP)から,毎月2回ACP Journal Club(JC)という情報誌が発行されている。これがBest Evidenceの材料になっているのである。もちろん,このACP―JCは会員全員に配布される。このACPのもう1つの学会誌が有名な“Annals of Internal Medicine”で,毎月発行されている。では,この会員にはどうすればなれるのであろうか。米国での内科レジデントを終了し,専門医試験(Boardという)に受からなければメンバーにはなれない。しかし,このたび,北米以外では南米での2カ国以外では初めてであるが,日本にACP支部が開設された。日本内科学会の認定専門医であれば会員になれるようになったのである。会員になればAnnalsやACP Journal Clubがいつも送られてくる。このような複数のメカニズムで,いやでもおうでも医師の資格や能力は「国際化」の情報の波に晒され,評価されてくるのである。だからこそ,医師たちが自分たちで「国際化」に対応できるように「プロ」としての力量を常に磨いている必要がある。
「混ざる」臨床研修がはじまり,医療は多くの問題を抱えながら,情報の国際化社会へ突入した。医療事故の多発,高齢社会,高度専門医療と社会の要請のギャップ,「EBM」といわれて10年余がたつ。国内外の社会の目はいっそう厳しくなり,医師の「プロ」としての社会的責任が問われているのである。この本はそのような時に邦訳された「国際標準」であり,この本を大いに利用し,医師と医療の向上に役に立ててほしいものである。このように「EBM国際標準」を,患者さんや社会を巻き込んで日常的に実践していくことによって,初めて日本の医療制度,医学教育や研修の矛盾やひずみが明らかにされ,医療制度改革への動きが進むことが期待できるのではあるまいか。これが健全な社会というものであろう。
「実践あってこそのEBM」を再び強調する
書評者: 名郷 直樹 (横須賀市立うわまち病院臨床研修センター・センター長)
1年前に本書の原書を購入したが,ぱらぱらめくっただけで放置していた。付属のCD―ROMもパソコンにインストールしたのだが,一度も開くことなく現在に至っている。本書が出版されたときも,店頭で手には取ってみたものの買う決心がつかずにいた。その頃は,別のある版画家の著作を全て読破するので手一杯で,とても他の本へいく余裕がなかったのである。
そこへこの書評の話である。受けるか受けまいか,ちょっと迷った。本を送ってもらっても読めるかどうかわからない。読まずに書くというわけにもいかないし。しかしまあそれもいいか。最後まで読めませんでした,そういう書評もありかもしれない。とりあえず1ページ目から読んでみる。
◆いったいだれが正しいのか?
本書は,「いったいだれが正しいのか?」という臨床シナリオではじめられている。EBMは医療実践の革命だというレジデント,それをなんとも説得力のある説明だという名誉教授,その議論に,EBMはこれまでのやり方に一連の新しいツールを付け加えたに過ぎないと,上級医師が割って入った。名誉教授はその説明に対しても,説得力があるとコメントした。それに対して別の上級医師が,両方正しいという議論はありえないという。戸惑いを隠せないこの医師に名誉教授は,そういう君のコメントも正しいという,そんな話である。
このエピソードを読むだけでも,アメリカ医師会雑誌(JAMA)に連載されたシリーズに,本書で何が付け加えられたかは明らかだと思う。若いレジデントは10年前の私自身であり,上級医師は今の私である。もう10年たったときに私はたぶん名誉教授にはなっていないだろうが,似たようなことをいっているかもしれない。ただ10年後のその姿は今の私にはあまり気分のいい話ではない。自分がそうなっているとすると,単にものわかりのよい振りをするぼけたじじいに過ぎない気がして。
◆情報を使うことこそ重要
蛇足になるかもしれないが,監訳者の1人である古川氏のはからいにより,原著者のGuyatt氏を私自身が主催するテレビ会議に招いて,レクチャーを受けたことがある。数年前のことだ。氏が参加者に尤度比を説明するために,ノモグラムを用いて,所見を追加しては,何度も何度も事後確率の見積もりを繰り返し教えていたのを思い出す。その教え方は,現在私自身が診断についてのEBMのワークショップを行なうときの基礎になっている。
EBMの最高の実践者,教育者によって書かれ,最高の翻訳者を得て,日本語で届けられた本書は,初学者にとっても,EBMの指導的立場にあるものにとっても,EBMを学ぶための最高の書のひとつであることに間違いはない。しかしEBMの登場は,カナダ医師会雑誌の論文の「読み方」シリーズを,論文の「使い方」シリーズへと発展させたところにある。情報を読むだけではなく,使ってこそEBMである。そのことを再び強調するために本書の本当の存在意義があるのではないか。
20年以上前,「書を捨てて町に出よう」という本が私のバイブルであった。JAMAの連載から10年を経て本書を読み返し,さまざまな思いが脳裏を駆け巡る。温故知新というが,現実は故きを温ねて新しきに手が回らない,というのが実情である。私自身,EBMの本を読むのは本書をもってしてそろそろやめにしなければいけないのかもしれない。
EBMのNew Testament―時代を切り開く導きの手として
書評者: 斉尾 武郎 (フジ虎ノ門健康増進センター)
◆あんな分厚い本を訳すとは
「JAMAガイド」として有名な連載がEBMの提唱者の手で1冊の本にまとめ上げられた。それを訳したものが本書の原著である―いや,実はJAMAガイドの原著は「エッセンシャル版」と「マニュアル版」の2種類にまとまっているのであった。
1年ほど前であろうか,風の便りに古川教授がJAMAガイドを翻訳出版するそうだ,という話を聞いた。そのとき思ったのは,「さすが古川先生,あんな分厚い本を訳すとは!」であった。ガイアット先生といえば,GHGと言ってEBMer憧れの大御所である。そのガイアット先生の本を訳出するのに,古川教授ほど適任な人もなかなかいないというのも確かである。氏の名著「エビデンス精神医療―EBPの基礎から臨床へ」(医学書院)はそのまま英訳すれば,洋書として世界中でまとまった部数を販売できるほどのしっかりとした内容であり,また,氏の編集した「精神科診察診断学―エビデンスからナラティブへ」(医学書院)もまた,EBM時代の新しい精神医学像を世界に先駆けて提唱する歴史に残る名著である。私自身,都内で精神科の外来診療・精神保健業務に従事しており,氏の著作を日々参照しながら,診療に臨んでいる。しかし……「それにしても,あんな分厚い本を訳すとは!」
◆充実のエッセンシャル版
原書で700ページほどもある分厚い本だとばかり思っていたところ,JAMAガイドをまとめた本は実は2種類あるのだと友人が指摘してくれた。構成はほぼ同じで,文庫本大なのが,本書の原著(エッセンシャル版)である。私は700ページもある「マニュアル版」を日常,EBMの辞書代わりに用いているが,本書(エッセンシャル版)もかなりの充実度であり,日常出くわすEBM関連の疑問は本書で十分に解決できる。これは裏を返せば,これまでEBMを正しく理解するための本の決定版がなかなか出なかったということでもある。本書には,EBMという言葉の来歴や,私の研究分野であるEBMの哲学についての概説も載っている。かねてより,私はEBMの修得にはEBMのエトスの理解が不可欠であると述べている。読者諸氏は本書を座右に置き,縦横に使いこなすことにより,EBMの達人になることも可能であろう。古川教授・山崎教授をはじめ,翻訳の偉業を成し遂げられたEBMの伝道師の方々に深く感謝するものである。
更新情報
-
更新情報はありません。
お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。