医学界新聞

看護のアジェンダ

連載 井部 俊子

2021.09.27 週刊医学界新聞(看護号):第3438号より

 認定看護管理者教育課程サードレベルに,「組織デザインと組織運営」という単元がある。内容は「経営者に求められる役割と必要な能力,経営者としての成長と熟練」である。その講師を引き受けて講義を組み立てる際に参考にする“文献”のひとつに『社長の一流,二流,三流』(上野光夫著,明日香出版社,2019年)がある。

 著者が定義する一流の社長とは,「規模が小さくてあまり目立たないけれど,実はとても儲かっているだけではなく,お客様はもちろんのこと,社員,地域社会からも慕われている社長」である。この定義は看護部長にも応用できるのではないかと考えた。看護部が「儲かっている」かどうかを数値で表すのは難しいにしても,この発想は重要であるし,「お客様」としての利用者,「社員」というスタッフ,そして地域社会から「慕われる」ことは評価のポイントとなろう。著者は政府系金融機関に26年間勤務して融資の審査の仕事に携わり,3万人以上の社長と出会いヒアリングを繰り返した結果,「儲かっている社長たちは個性的で千差万別であるが,根底には共通する思考と行動様式があることに気づいた」のである。

 一流,二流,三流を識別する45項目の中に「読書の方法」という項がある。一流の社長は,例外なく読書家であり,ビジネス書はもちろんのこと,歴史や哲学など幅広いジャンルの本を読んでいるとした上で,次のようなお勧めをしている(「……」以下は私の見解)。

1)週2回は書店に行く……チェックすべき箇所は,新刊コーナー,ビジネス書コーナー,平積みになっている本であり,気になる本があれば迷わず買うことを勧める。
2)専門知識の習得には同じ分野の本を10冊以上読む……例えば,新たな看護提供方式の導入を考えている看護管理者は,関連文献を10本くらいは読んで取り掛かるとよいというふうに解釈できる。
3)同じ本を複数買う……職場用・自宅用として2冊以上買い,分厚い本なら移動時に読むためにバラバラにするのも有効というが,私は個人的には一冊しか買わない。なぜなら家中,本だらけになるからである。
4)電子書籍を活用する……スマホなどを活用して移動時間などに多くの本を読めると著者は勧めているが,私は個人的には「本は紙で読みたい派」である。
5)新聞の書籍広告をチェックする……これは私もやっている。
6)マーカーなど書き込みながら読む……自分なりに読みやすくカスタマイズすると内容が身につくという。賛成!
7)バイブルとなる本を見つける……数多く本を読むと,何度も繰り返し読む価値のあるものに出会える。「バイブル本」が見つかると,迷ったときに勇気を与えてくれるという。

 というわけで,私は時々(定期的ではない)書店をぶらつくことにしている。最近「新聞広告でみて」「ぶらついて」購入した本が『スタンフォードの権力のレッスン』(デボラ・グルーンフェルド,御立英史訳,ダイヤモンド社,2021年)である。権力やリーダーシップに関する著作は,一般的に男性の著者が多いが,デボラ・グルーンフェルドは女性である。このことが本書をユニークなものにしている。女性の読者には受け入れやすく親しみがある。

 彼女は,「大学教授になったとき,人生が劇的に変わった。大学院生としてたっぷり5年間学んでいたので,私は学生という役割になじんでいた。だが,博士号を取得し,ノースウェスタン大学に職を得て出勤したら,初日にいきなり“教授”になった。昨日までの自分と何も違わなかったし,することも昨日までと同じだったのに」と書いている。しかし,今や本書のもととなったコース「パワフルに行動する方法」は,スタンフォード大学経営大学院の最も人気の高い講座のひとつになっている。

 原題「Acting with power」が「権力のレッスン」と訳出されていることに,私は少し違和感を持つが,そうすることで本書が注目を得ることに成功したと思う。著者の人生を垣間見せる記述は,これまでのリーダー本にはないナラティブな魅力を持っている。

 第4章の「権力を『演じる』」の中の「小道具」のハナシが面白い。「心の中であれポケットの中であれ,何を携えて事に臨むかは重要」であって,「上級幹部はタブレットやモレスキンのノート,革のバインダーなどを持ち歩いているかもしれない。もっと偉い人なら何も持ち歩かないかもしれない(誰かが持ってくれるだろう)」。確かに菅首相はいつも手ぶらで会見に臨む(モレスキンは,イタリアのモレスキン社が販売する手帳のブランドである。撥水加工の黒く硬い表紙と手帳を閉じるためのゴムバンドが特徴であると私のスマホが教える)。つまり,事に臨む際に,しっかり準備できていて必要なことは頭に入っていることを示すために,厚いものは持ち歩かないということである。「持ち物は,持ち主が何をする人か,状況をどう解釈してどう対応しようとしているか,役割をどう演じるかということに影響を与える」のである。

 次は衣装である。「服は他者に意味を伝えて影響を与え,それが反射して着ている当人に影響を与える」「俳優でない私たちも,パワフルに行動しようとするときは,着る服を慎重に選ぶ必要がある。それは目標を助けもするし,妨げもする」(私もその日のスケジュールを考えて着る服を選ぶが,時に慎重になりすぎて出勤時間に遅れそうになるのが問題である)。

 そして「ハイヒール」である。ハイヒールは履く人の背を高くしてくれるだけではなく,権威ある人のような印象を与える。さらに,ハイヒールが硬い床を叩く音は誰かの到着を告げる音になる。「私が来たことを足音が告げるという雰囲気が好き」というワシントンDCの政治関係者は,議会での証言に呼ばれるときはソールの硬い靴を履くという。彼の足音は議場の人々に,「この人物は侮ってはいけない」ということを告げる音になる(ここまで書いて,昨日の会議に現れたボスが履いていた靴と靴音の緊張感のなさに我に返った)。

 「パワフルに行動しなければならない状況では,着る服や持ち物は私たちに自信を与え,自信ありげに見せ,その役割にふさわしい気分にしてくれる」という著者の助言は,近々学会発表や職場で重要なプレゼンテーションを控えている者に参考になるであろう。