看護師のギモンに応える!エビデンスの使い方・広め方
[第5回] コロナ禍のICUで実践する多職種とのEBP
連載 津田 泰伸
2021.08.30 週刊医学界新聞(看護号):第3434号より
臨床では,「患者にとって良いケアは?」「個別的な看護とは何か?」といったケアを選択する意思決定の連続でしょう。そこで,より良い新たな選択肢を考える際に有用なのが,研究の知見を活用する方法です。
筆者が勤務する大学病院救命救急センターでは,2020年2月からCOVID-19重症患者の受け入れが始まりました。初めて直面する数々の課題を前に,困難の日々が今も続いています。
重症患者の治療とケアを集中的に行うクリティカルケア領域では,生命の危機的な状態からいち早く脱するための治療法や二次的合併症を予防する研究が多数積み重ねられ,エビデンスに基づくガイドラインの作成や普及活動が積極的に行われています。
実際にCOVID-19患者の治療で脚光を浴びたケアもあります。それが,重症の呼吸不全を来す急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の改善に有効な手段である腹臥位(prone position)です。当院もARDS患者に腹臥位を行っていましたが,新たな課題も生じました。COVID-19患者に腹臥位を行うには,有害事象,とりわけ皮膚トラブルを防ぐ必要に迫られたことです。そこで本稿では,本課題に対する取り組みの過程を,クリティカルケア領域におけるEBPの5つのStepに基づき紹介します。
事例
腹臥位は,COVID-19重症患者の酸素化改善や中等症患者の重症化予防,死亡率の低下など臨床的な効果が期待できる1)。その反面,体位を整えるために多数の人員確保や,うつ伏せにより圧迫される部位の皮膚障害などの課題もある。
COVID-19パンデミック以前よりさまざまな患者に腹臥位を実施してきた当院では,体外式膜型人工肺(ECMO)装着を含め重症患者が増えたことで,腹臥位を実施する機会が増加。患者数が増え多忙を極める中,褥瘡/医療関連機器圧迫創傷の発生率が高くなり,体位や皮膚障害予防について検討する必要性が生じた。
そこで,COVID-19患者で人工呼吸器管理を行う方に腹臥位を施すに当たり,皮膚障害を起こさないよう現行の方法を見直すことにした。
EBPの5つのステップで,腹臥位療法の皮膚障害予防を考える
Step 1 臨床疑問を明確にする
私たちが直面した問題は,「腹臥位により褥瘡が多発する」ことです。腹臥位によって褥瘡が発生しやすいことは知られていたものの,それに対し推奨される介入が不明瞭でした。どのような方法を行えば,腹臥位による褥瘡を予防できるのかの問いを出発点に課題解決に取り掛かりました。
まず教科書的な知識の確認から状況を整理し,当院の腹臥位による褥瘡の発生数と発生部位を調べました。既に報告されている研究データ2)と比較した結果,当院では顔面(前額,頬,顎)や胸部で好発しやすいとわかりました。特に頭頸部の褥瘡を防ぐ必要性が明らかになったのです。
次に,スタッフの実際の行動からケアのプロセスを観察しました。腹臥位中の積極的な体位変換や,高低差から生じる圧迫部位への配慮,皮膚保護剤による予防策について改善の余地がありました。マニュアルやチェックリストはあったものの,実際に皮膚障害の発生率が増えている実態を踏まえると,従来の方法には問題もあると考え,次のPICOを考えました。
P:腹臥位を実施するCOVID-19患者を対象に,
I:リサーチエビデンスを反映したチェックリストを用いると,
C:従来のケアと比較して,
O:(特に頭頸部の)皮膚障害発生率を低減できる。
Step 2 文献検索/Step 3 文献の批判的吟味
ARDSにおける腹臥位療法の効果やケアに関するメタアナリシス3)やガイドライン4, 5)は既にいくつかあり,腹臥位療法の知見を二次文献から拾い上げることにしました。世界的な感染拡大に伴い,COVID-19患者の腹臥位に関する研究報告も増えつつあったため,論文の新着情報が通知されるメールアラートを設定して適時文献を追いました。さらに,周術期体位である腹臥位時の褥瘡予防のシステマティックレビューによるガイドライン6)や褥瘡予防と管理の国際的な学会のガイドライン7...
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