別冊『呼吸器ジャーナル』
COVID-19の病態・診断・治療
現場の知恵とこれからの羅針盤
新型コロナウイルスにどう立ち向かうか! COVID-19を最前線の医師らが解説!
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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は2019年12月に中国の武漢で発生し、世界的大流行をもたらした。本書は,国内での第1波(2020年3月から5月にかけて)から第2波にかけて,この未知の感染症でわかった知見をまとめる事を目的に企画された。現在COVID-19についてわかっている病態・診断・治療について,最前線の医師らが解説する。
編集 | 小倉 高志 |
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発行 | 2021年01月判型:A4変頁:240 |
ISBN | 978-4-260-04585-8 |
定価 | 5,280円 (本体4,800円+税) |
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2021.02.16
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序文
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序
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は2019年12月に中国の武漢で発生し,世界的大流行(パンデミック)をもたらした.I章の総論に詳細な記載があるが,日本も第1波(2020年3月から5月にかけて)は東アジア諸国と同様に,欧米よりも人口10万人当たりのCOVID-19患者の死亡数を少なく抑えられた.日本は台湾や韓国と違い徹底的な検疫の強化やPCR検査の施行例を増やす対策を当初は取らなかったため,Factor Xとも言われたこの理由として人種差,衛生観念の違い,BCG接種が挙げられてきた.さらには,欧米とは異なる医療体制や,日本の感染症対策の最前線に立ったクラスター班や保健所の活躍によるものと思われる.また,診療所や病院における現場の医療者の努力も関係したとも考えた.本書は,なんとか第1波を乗り越えたが今後襲来する可能性の高い第2波に備える必要があり,そのためにもこの未知の感染症でわかった知見をまとめることを目的に6月末に企画した.現場の先生方に届けるため,約3カ月の短い期限での脱稿を,最前線でこのウイルスの研究,感染対策や臨床に当たっている先生方にお願いした.予想より早く第2波が来襲して,すべての原稿を拝読させていただいた2020年11月30日は第3波の真っ只中であり,連日重症患者の増加の報道がある.なんとかこの危機を乗り越えてほしいとの希望で,現場の知恵を先生方に届けたいと考える.忙しい臨床医にどのように本書を利用していただくか,それ以外でもどのようにこの疾患の知識を得るかについてを以下にまとめる.
①この狡猾で,医療体制の弱点をついてくるウイルスを理解すること.
まず,当初からダイヤモンド・プリンセス号の患者の診療にかかわり,日本でのレムデシビルの治験にも携わってきた立川先生の総説を読んでいただきたい.「疫学データからは日本と欧米での新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の病態の差異の可能性を示唆している」(立川,p2). またこの未知の疾患,COVID-19の専門家はいないと言われるが,長年コロナウイルスを研究してきた神谷先生からSARS-CoV-2の解説をしていただいている.「SARSコロナウイルス-2の感染者のなかには無症状の不顕性感染者が存在する.このことが.SARSコロナウイルス-1やMERSコロナウイルスと異なる点である」(神谷,p16).
②急性びまん性肺疾患の鑑別としてウイルス肺炎を挙げるべきである.
他のウイルス性肺炎との共通点,相違点について石黒先生に解説していただいた.今回のCOVID-19を理解するうえで,Ishiguro T, et al:Viral pneumonia requiring differentiation from acute and progressive diffuse interstitial lung diseases. Intern Med 58:3509-3519,2019は必読である.
③感染症と免疫の関係を理解することが大事である.
「ウイルス肺炎の治療には,ウイルスそのものに対する治療と,患者側の免疫反応を適切にコントロールする治療が求められる」(石黒,p19)と指摘されているように,ウイルス肺炎を理解するうえでサイトカインストームなどの免疫を理解することが求められている.自然免疫の権威である茂呂先生のグループに解説していただいた(II章,小林・他).
④COVID-19においては,血管内皮細胞機能障害や微小血栓について理解することが大事である.
肺循環の専門家である坂尾先生には,COVID-19を理解するうえで必要な血管障害を解説していただいた.「常に微小血栓の存在と重症化との関連を念頭におき,診療にあたる必要がある」(坂尾,p31).
⑤診断の基本であるPCR検査や,疫学的調査に重要な抗体検査などの診断検査をどのように使用するかを理解することが大事である.
初期からCOVID-19の中和抗体にかかわってきた梁先生のグループに基礎の面から(III章,久保・他),厚生労働省のCOVID-19診療の手引き作成委員のお一人である迎先生のグループに臨床の面から解説していただいている(III章,髙園・他).梁先生は,横浜市大の山中先生と一緒に感染後の中和抗体についての大規模な疫学的調査にかかわっており,最近その成果が注目されている(https://covid19-kaifuku.jp/).
⑥胸部CTがこの診断に有用であるが,適応をしっかり見極める.また鑑別診断だけでなく,重症化の予測に使用できるかもしれない.
「COVID-19のCT所見は決して特異的なものではなく,CTは被曝もあり,パンデミック以外の状況で,CTをスクリーニング検査として行うことは,推奨されないことを強調したい」(岩澤,p77)という点を理解したうえで,CTをCOVID-19の診断に使用することは大事である.画像診断の詳細は,多数のCOVID-19患者を診療した駒込病院の今村先生のグループから,胸部放射線専門医の楊川先生に解説していただいている(III章,楊川・他).
⑦COVID-19のARDS病態を理解したうえでの呼吸管理が大事である.
日本における重篤COVID-19患者への集中治療の成績が優れていることは,数字として示されている.「ECMO装着患者298症例中207例が離脱,人工呼吸器装着患者1,392例中1,081例が軽快(2020.12.7現在実施中を含まず)」(日本COVID-19対策ECMOnetより,https://crisis.ecmonet.jp).『人工呼吸管理レジデントマニュアル』(医学書院)の編者でもある則末先生から,他の疾患とCOVID-19のARDS病態の共通点と相違点を踏まえたうえでの呼吸管理,ECMO管理を解説していただいている.また,「当初,感染対策の必要性から挿管人工呼吸を基本とすることは避けられなかったが,サージカルマスクの併用や重症化時点でのウイルス量などの観点から,ハイフローセラピーによる挿管前の管理が有望視されている」(富井,p176)こともこれからの呼吸管理に重要な指摘である.
⑧エビデンスが少ないなかでどのように治療するか.
「COVID-19はまだ不明な点が多いが,エビデンスのみならず実地臨床での経験を活かして診療していく工夫が求められる」(出雲,p195)ことは重要な指摘である.日本においては,薬物治療法がなかったCOVID-19患者においても,各施設が既存の治療薬を使用して積極的に治療を試みた.今回は,100例以上を経験している最前線の病院からの現場の知恵を解説していただいたが,どの施設もCOVID-19肺炎の治療として抗ウイルス剤に加えてステロイドなどの免疫調整剤の必要性を指摘している.
COVID-19の治療の現況を萩原先生に解説していただいた.また,COVID-19のステロイド治療などについて,“中等症からいかに重症にならないように早期に治療するかが大事である”ことを教わった国立国際医療研究センターの泉先生をはじめ,最前線の病院の経験を皆さんに共有していただければと思う.
⑨感染対策をしっかり理解して,院内感染などによるクラスターを予防すること.
「感染対策としては,飛沫感染の重要性とともにエアロゾル感染の重要性を認識する」(立川,p2)という指摘は重要である.具体的な対策は,掛屋先生から解説していただいた.「COVID-19は,無症状や発症前にでもウイルスを排出していることが知られ,すべてのヒトが常時マスクを着用する“ユニバーサルマスクポリシー”が推奨されている」(掛屋,p106)点が基本であると考える.疫学に関しては,クラスター追跡調査にも参加された森本先生に記載していただいたが,日本のクラスター対策から生まれた3密が世界でも注目された.レストランでの会食はリスクが高いことが調査でも指摘されている.
⑩臨床試験などの結果を正しく理解すること.
「治験・臨床試験の進行による知見の集積により,日々診療内容のupdateを行う必要があると考えている」(立石,p168)とあるが,臨床研究に精通している小宮先生と,統計の専門家である三角先生からCOVID-19の論文をどのように理解すべきかを解説していただいている.小宮先生は,COVID-19の軽症・中等症に対するステロイドのmeta analysisの論文を報告している(https://doi.org/10.1038/s41598-020-78054-2).
⑪ワクチンの基本を理解すること.
2020年11月末現在でも,3種類のワクチン(ファイザー社,モデルナ社,アストラゼネカ社)接種が現実的な形になっている.ワクチンの専門家である中神先生からはワクチンの基本を解説していただいた.
⑫この疾患の研究,臨床ともに多職種的なアプローチが重要である.またあふれる情報をどのように理解するかは大事である.
11月には,WHOからレムデシビルの非推奨が提唱された後に,米国感染症学会から継続投与の推奨が出された.現場としてはどの情報源を信用してフォローしていくかが大事である.COVID-19の情報は非常に早いスピードで更新されるので,本書の記載についても注意が必要である.巻末に大事な情報リンクURLを載せているので参考にしていただきたい.この疾患は多職種の専門家の知恵が必要であるが,東大の南学先生のリーダーシップのもとに出された日本医学会連合expert opinionについては,各学会の指針をまとめたもので有用な情報源となるので一度訪れていただきたい(https://www.jmsf.or.jp/news/index.html).
⑬COVID-19の発生については地域差があり,医療資源も異なるのでその地域ごとに医療対策は異なる.
河野先生には,現状の問題点や今後の課題を解説していただいた.またCOVID-19への対応と,一般診療とをいかに共存させるかを常に考えることが大事である.また,今回はクリニックの対応については,積極的に発熱外来をされている倉持先生に解説していただいている.「外来診療においてもクラスターの発生が散見されている.COVID-19感染者と接する機会が多い外来診療では,感染者が来院しても院内感染を起こさない病院づくりが必要である」(倉持,p202).ただ,すべてのクリニックが同様なことはできないと考える.COVID-19は,発症前と発症早期が一番ウイルスの排泄が多く感染の危険が高いので,まず最初に診察する実地医家の先生は感染被曝に特に注意が必要である.インフルエンザの流行に当たり,その鑑別の重要性は指摘されているが,私はその医療機関の状況に合わせた診断方法や治療の選択をすべきであるとも考える.すなわち,インフルエンザの蔓延状況によっては抗原などの積極的診断はせずに治療に入り,そのあとの症状の遷延化をフォローしてCOVID-19の鑑別をしていくことが大事かと考える.われわれの施設がある神奈川県は,ダイヤモンド・プリンセス号の時からCOVID-19にかかわってきており,黒岩知事,阿南先生のリーダーシップのもと神奈川モデルとして早期から病院の役割分担を確立してきた.2020年12月現在の第3波においても,全国に先駆けて重症化の予測スコアを導入して医療崩壊に対する対策をしており,その努力に深謝したい.
⑭いままでの臨床や研究のネットワークが有用であった.
今回のCOVID-19の治療については当初から情報が少なく,他の病院でどのように治療しているかがわからなかった.世界の研究者から報告される多数の論文も有用であったが,日本感染症学会が募集してホームページに掲載していただいた症例報告が大変役に立ったと言われる臨床家は多い.私は,いままで臨床や研究でお世話になった施設の先生に電話やメールで連絡して,それぞれの施設の治療を参考にさせていただきステロイドを初期から使用していた.また,当院の池田に事務局をしてもらい,全国32施設においてのCOVID-19に対するステロイド治療のレトロスペクティブ研究を行った(preprintとして,https://www.researchsquare.com/article/rs-112443/latest に公開).そのなかで,本書で解説していただいたVI章の企画が生まれた.紙面の関係上,すべての施設を紹介できなかった.
ここでお忙しい中たくさんの情報をいただいた以下の施設の先生に深謝したい.公立陶生病院 近藤康博 先生,さいたま赤十字病院 松島秀和 先生,西沢知剛 先生,東京医科大学病院 阿部信二 先生,名古屋大学 進藤有一郎 先生,東京医療センター 小山田吉孝 先生,杏林大学 皿谷健 先生,石井晴之 先生,倉井大輔 先生,船橋中央病院 石川哲 先生,横須賀市立市民病院 山口展弘 先生,けいゆう病院 塩見哲也 先生,八木一馬 先生,長野県立信州医療センター 山㟢善隆 先生,聖マリアンナ医科大学 藤谷茂樹 先生,藤沢市民病院 西川正憲 先生,増田誠 先生,九州医療センター 岡元昌樹 先生,国際医療福祉大学 津島健司 先生,寺田二郎 先生,田島寛之 先生,湘南藤沢徳洲会病院 日比野真 先生,東京臨海病院 山口朋禎 先生,臼杵二郎 先生,岐阜県総合医療センター 都竹晃文 先生,聖路加国際病院 西村直樹 先生,県立広島病院 石川暢久 先生,東京ベイ・浦安市川医療センター 永井達也 先生,織田錬太郎 先生,済生会横浜市東部病院 後町杏子 先生,神奈川県立足柄上病院 岩渕敬介 先生,慶應義塾大学医学部 福永興壱 先生,岡森慧 先生.
COVID-19の後遺症についてはまだ不明点が多く,今後も実態調査,研究が必要である.日本呼吸器学会が横山理事長のリーダーシップのもと研究に取り組んでいるが,いままでわかっていることを記載していただいた(III章,高松・他).
最後に,全国で現在も戦っているすべての医療者の方,関連職種の方に深謝したい.また,COVID-19患者が差別を受けることのない社会を願っている.本書がすべての方にお役に立てることができれば幸いである.
2020年12月
小倉高志
目次
開く
序
I章 COVID-19総論
COVID-19総論
COVID-19の2020年前半の経過
COVID-19の疫学
COVID-19の地域・時期・年齢別の死亡率の比較
COVID-19に対する感染対策
病態に関して
II章 COVID-19を理解するために必要な基礎知識
臨床医が知っておきたいSARS-CoV-2の基礎
コロナウイルスについて
コロナウイルスの分類
コロナウイルスの病態
コロナウイルスの感染様式
新興コロナウイルス
COVID-19以外のウイルス肺炎 COVID-19との違いも含めて
臨床的な分類
頻度
市中肺炎における,ウイルス感染の診断方法
混合感染,2次感染について
鑑別診断
症状
身体所見
検査結果
CT画像
合併症
治療
ウイルス肺炎に関する課題と展望
COVID-19を理解するうえで必要な血管障害 微小血栓と肺循環障害を中心に
血管内皮細胞障害
肺血管障害
換気血流不均衡
COVID-19と肺微小血栓
重症化予測因子としてのDダイマー
実臨床における抗凝固療法
肺実質障害と肺高血圧症
COVID-19の病態を理解するための免疫学最新知見
SARS-CoV-2の感染様式と感染細胞
SARS-CoV-2感染においてインターフェロン反応はどう働くのか?
重症化最大の要因,サイトカインストーム
SARS-CoV-2感染制御における自然免疫の役割
血清/血漿プロテオーム解析によるCOVID-19の重症化関連因子の探索
質量分析装置を用いた血清プロテオーム解析技術
質量分析血清プロテオーム解析によるCOVID-19重症化関連因子の探索
その他のプロテオーム解析技術によるCOVID-19重症化予測因子の探索
COVID-19重症化の宿主因子
RarevariantとCommonvariantについて
感染症における宿主因子:Rare variant vs Common variant
Rare variantに関する報告
Common variantに関する報告
ネアンデルタール人由来の領域:3p21.31の遺伝子座
I型IFNに対する中和自己抗体
日本におけるCOVID-19の宿主因子の検討:「コロナ制圧タスクフォース」の現況
III章 各論:疫学・診断・治療
COVID-19の疫学
SARS-CoV-2伝播の特徴
無症状・軽症者の疫学
クルーズ船のアウトブレーク
重症化と死亡のリスク
クラスター対策
COVID-19の診断方法 基礎の立場から
遺伝子検査法
抗原検査法
抗体検査法
中和試験
COVID-19の診断方法 臨床の立場から
遺伝子診断
抗原検査
抗体検査
実際の現場での運用は?
COVID-19肺炎の画像診断
発症から回復までの画像変化
NCIPで頻度が低い所見
NCIPにおける血管異常
COVID-19の画像診断 人工知能(AI)を用いた自動診断やコンピュータによる定量評価
人工知能(AI)を用いた自動診断
COVID-19肺炎の単純写真の定量評価
COVID-19肺炎のCTの定量評価
CTで肺容積を評価する意義
COVID-19の病態病理 剖検所見からの考察
剖検所見
考察と展望
COVID-19の治療 薬剤
病態に応じた治療の考え方
国内で使われている治療薬の概要
治療薬各論
海外のガイドライン
COVID-19による重症ARDS患者の管理 人工呼吸器とECMO
COVID-19によるARDS患者の人工呼吸管理
COVID-19におけるECMO管理
COVID-19の後遺症
自覚症状
呼吸機能障害
心血管系
味覚・嗅覚
その他の「後遺症」
「後遺症」の発症機序
「後遺症」に対するリハビリテーション
COVID-19の診療と感染対策
COVID-19に対する感染対策のポイント
SARS-CoV-2のワクチン
SARS-CoV-2のワクチン標的抗原
ワクチンデザインからの分類
ワクチンの安全性
IV章 COVID-19に対する治療薬剤の臨床試験の論文を極める
COVID-19関連の臨床研究結果をどのように解釈するか 内科医の立場から
エビデンスの質を評価する
統計学的関連と因果関係
COVID-19関連例
COVID-19の臨床試験をどのように解釈するか 統計家の立場から
WHO順序尺度
その他のエンドポイントについて
V章 COVID-19時代に疾患管理はどのように変わるのか
肺癌とCOVID-19
肺癌とCOVID-19
早期発見:COVID-19時代の検診
早期肺癌:COVID-19時代の外科的治療
切除不能局所進行肺癌:COVID-19時代の放射線化学療法
進行肺癌:COVID-19時代の薬物療法
その他:COVID-19時代の緩和治療
喘息・COPDとCOVID-19
喘息とCOVID-19
COPDとCOVID-19
COVID-19蔓延下での喘息・COPD診療の工夫と実践
リウマチ・膠原病とCOVID-19
COVID-19のパンデミック下におけるリウマチ・膠原病診療
COVID-19とリウマチ性疾患・膠原病の類似性:臨床免疫学的な視点から
間質性肺炎とCOVID-19
COVID-19の罹患リスク,重症化リスクとしてのILD
COVID-19とILD急性増悪
COVID-19パンデミック下におけるILD診療の実際
COVID-19流行下におけるILD診療
COVID-19によるILD診療の新しい流れ
日本呼吸器学会びまん性肺疾患学術部会の取り組み
VI章 各施設はどのようにCOVID-19を診断・治療していたのか
各施設の対応:聖マリアンナ医科大学病院
COVID-19疑似症スクリーニング
中等症COVID-19患者の診療
症例
各施設の対応:埼玉県立循環器・呼吸器病センター
当院,埼玉県での対応
教訓的な症例:抗体との関連を中心に
今取り組んでいる研究
各施設の対応:北海道大学病院
北海道のCOVID-19患者発生状況
当院のCOVID-19患者受け入れの経緯
当院のCOVID-19診療実績
印象深い症例
当院におけるCOVID-19疑似症例診療への取り組み
各施設の対応:東京医科歯科大学医学部附属病院
当院のCOVID-19症例受け入れまでの経過
確定者病棟における管理
医療従事者のタスク割り振り
確定患者に対する治療方針
退院後のフォローアップ
各施設の対応:神戸市立医療センター中央市民病院
代表的症例の診療経過
中等症・重症に対する治療成績
院内感染の経過
今後の展望
各施設の対応:国立国際医療研究センター病院
当施設におけるCOVID-19診療の経緯
抗炎症療法の重要性
当施設における治療状況と成績
各施設の対応:日本大学医学部附属板橋病院
発熱外来
新型コロナ診療チーム
症例提示
各施設の対応:東京品川病院
診療実績
外来診療
入院診療
地域との連携
症例提示
研究
各施設の対応:日本赤十字社医療センター
診断
治療
当院での実際
各施設の対応:インターパーク倉持呼吸器内科
実際の診療体制
院内感染防止の取り組み
診療実績
米国の状況
医療供給を増加させる対策
症例増加速度を鈍化させる対策とその社会的影響
現場の葛藤と工夫
米国の現在と今後の展望
VII章 新規に出現した疾患に対して,どのように考えどのように対応すべきか
コロナ禍への対応,世界は一つ,されど,それは己の棲める処で行え!
日本と世界の国々における検査体制ならびに患者数・致死率
日本における都道府県別COVID-19解析
COVID-19対策に関する基礎知識
PCR検査,抗原検査,抗体検査について
血清マーカー“KL-6”について
新しいワクチンの候補について
国家の経済的損失を最小にして,国民の死者数を最小にする方法は,死者数の詳細な公表を続けることである
参照URL
索引
書評
開く
病態の解釈と臨床的対応のあり方を知る
書評者:二木 芳人(昭和大客員教授・臨床感染症学)
新型コロナウイルス感染症がパンデミックを生じて早1年になろうとしている今日,世界の診断確定感染者数は1億人を超え,死者も220万人を上回り,まだまだ感染収束には程遠い感がある。本書が上梓された2021年1月中旬,わが国でも第3波の真っ只中であり,これからもこの感染症とは長い戦いを余儀なくされるであろうと考えられる。
われわれは,この感染症とはすでに1年以上の戦いを繰り広げてきたが,当初全く未知のウイルス感染症であった本症も,多くの基礎的研究・臨床的経験が積み重ねられた結果,かなりの情報がすでに得られ,病態の理解も進んだと考えられる。その結果として,かなり効率的な予防や診断・治療が実施可能となっており,ワクチン接種も昨年末から急速に世界に普及し,わが国での実施もまさに目前である。
ただ反面,この新しいウイルス感染症では現在も未知の部分,あるいは将来への課題も少なからず残されており,今後の基礎的あるいは臨床的研究のさらなる継続は極めて重要であろう。
本書は,基礎・臨床のさまざまな領域で,この感染症と正面から向き合って戦いを繰り広げている研究者と臨床医の知見を結集したもので,現状での本症の病態の解釈と臨床的対応のあり方を知る上では有益な資料であろう。また,それぞれの領域における現状の理解は,同時に将来に向けての課題をも示唆するものであり,さらに今後,この感染症にとどまらず,近い将来に襲来するであろう新たなる感染症パンデミックに立ち向かわんとする研究者,臨床医にとっては必読の1冊であろう。
ユニークな視点の企画も含めた充実のCOVID-19の書
書評者:藤田 次郎(琉球大大学院教授・感染症・呼吸器・消化器内科学(第一内科))
医学書院から別冊『呼吸器ジャーナル』として『COVID-19の病態・診断・治療――現場の知恵とこれからの羅針盤』という本が出版された。多くの臨床医の興味を引きつけるテーマである。私自身,『呼吸器ジャーナル』の編集,および執筆に携わったことがあるものの,これまでの企画とは異なるスタイルの本であると感じた。
まず,I章ではCOVID-19に関する総論を,II章ではCOVID-19を理解するために必要な基礎知識を示している。III章では,各論として疫学・診断・治療を示している。これらの章からCOVID-19に関する基礎知識を学ぶことができる。なかなか見ることができない病理像まで紹介されている点に感心した。また臨床医の関心の高いワクチンの開発状況も参考になった。
ユニークなのはIV章以降である。まずIV章では「COVID-19に対する治療薬剤の臨床試験の論文を極める」をテーマとし,治療に関する最新の知見を紹介している。内科医の立場と統計家の立場から解説されている点が興味深い。V章では「COVID-19時代に疾患管理はどのように変わるのか」をテーマに,さまざまな基礎疾患の視点から疾患管理を具体的に示している。さらに実践的な知識として,VI章では「各施設はどのようにCOVID-19を診断・治療していたのか」というテーマで国内10施設の治療経験を紹介すると共に,米国の状況も紹介している。特にVI章はこれまでにない斬新な企画であり,多彩な症例提示に加えて,各施設における院内感染対策についても紹介されている。異なる医療体制を有する施設ごとの感染対策の工夫は大変参考になった。VII章を担当している河野修興先生の格調高い文章にも感銘した。「新規に出現した疾患に対して,どのように考えどのように対応すべきか」というテーマで展開し,最後に「コロナ禍への対応,世界は一つ,されど,それは己の棲める処で行え!」という言葉で締めくくっている。厚生労働省から発刊されている診療の手引きにおける重症度分類に加えて,COVID-19診療におけるKL-6の意義についてもKL-6の開発者の立場で紹介している。
本特集は,ユニークな視点での企画も含めて,極めて充実した内容になっている。これは編集を担当された小倉高志先生の高い臨床能力と,幅広い人脈をお持ちであることによると感じた。呼吸器内科医のみならず,全ての臨床医にお薦めできる良書である。
正誤表
開く
本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。