MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
書評
2021.08.09 週刊医学界新聞(レジデント号):第3432号より
《評者》 平松 祐司 岡山市立総合医療センター顧問/岡山大名誉教授
かなりハイレベルの必須知識を一冊で習得できる教科書
このたび『標準産科婦人科学』が10年ぶりに改訂され発刊された。まず目次を見ると,産婦人科診察法,症状の説明の後,婦人科編では性分化・女性性器の発生とその多様性から始まり,思春期,……,加齢と疾患,と続き,女性の一生にわたる各種疾患が網羅されている。症状の項では,産婦人科受診患者が訴える症状が網羅され,その好発年齢,診断のポイント,関連疾患の解説ページが記載され,医学生の臨床実習時,初期研修医の産婦人科研修時にも使用できるよう工夫されている。また,思春期の項を独立させ取り扱ったこと,乳房・乳腺疾患の充実も大きな改訂点である。さらにoncofertility,ロボット支援下手術など最新の話題も取り上げられている。
産科編では,まず産科編の構成マップが示され,読者がどのページをめくれば得たい情報にたどり着けるかわかりやすく示されている。記載内容は,妊娠の生理,妊娠の異常,合併症妊娠・偶発合併症,……,産褥期と続くが,他の産婦人科教科書との大きな違いとして,新生児の章,母子保健と医療制度の章が含まれている点がある。医学生の時から公衆衛生学の知識を学ぶことは重要であり母子保健と医療制度の章は役立つものと思う。また,日本産科婦人科学会,関連学会から発刊されている最新のガイドラインとの整合性をとるよう細かい配慮がなされているように思う。さらに,産科救急などでは執筆者の豊富な経験から得た内容も各所に記載され,後期研修以降も参考になる内容になっている。
全体を通じて,①現在活躍されている各分野のリーダー的な医師により基礎から最新の知識までが要領よくまとめられていること,②カラー図表,写真がふんだんに使用されわかりやすく解説されていること,③もう少し深く勉強したい読者に対し,各項目の最後に重要参考文献が紹介されていることなどがあり,医学生,初期研修医が産婦人科領域のかなりハイレベルまでの必須知識を一冊で習得できるコンパクトにまとまった教科書に仕上がっているように思う。
実際の診療に当たっては,本書で得た知識をベースにして,その後,日本産科婦人科学会より出版されている産婦人科研修の必修知識,各種ガイドライン,そして産婦人科のサブスペシャリティー学会発刊のガイドライン,取扱い規約などを参照するのが良いと考える。また,本書も日本産科婦人科学会,関連学会などのガイドライン,取扱い規約の改訂に合わせてマイナーチェンジを行い,常に医学生,初期研修医が最新の産婦人科領域知識を得るために最初に手に取る教科書であり続けるように努力してほしいと念願する。
《評者》 宮﨑 長一郎 有限会社宮﨑薬局代表取締役・長崎市
薬学管理の指針として便利。備えておきたい一冊
薬学教育6年制を経た薬剤師が誕生して10年が過ぎた。その数は約9万2000人を超える。この数字は現在医療に従事している薬剤師の約40%に当たる。この間に医薬分業の指標である処方箋発行率は75%を超え,街の薬剤師は処方箋を扱うのが主たる業務になった。また病院では薬剤師が病棟にいるのは特別なことではなくなった。評者が薬剤師になったばかりの1985年頃,薬局薬剤師は医薬分業を,病院薬剤師はクリニカルファーマシーをめざして病棟業務を,それぞれ目標に頑張っていた。それがある程度達成され,教育制度も臨床を重視する6年制へと移行したわけである。
薬剤師を取り巻く状況の中で免許を取得した新人は保険薬局でも病院でも患者に向き合いながら薬物治療にかかわることが日常になっている。しかしながら,保険薬局や病院は薬学生の実務実習を受け入れていくことに精いっぱいで,卒後の研修には手が回らなかったのが実情である。卒後研修は制度的には確立されておらず,オンザジョブトレーニングに頼っているのが現状である。
その中にあって,本書の編者代表である橋田亨先生は,レジデントプログラムを自らが薬剤部長を務める病院にて制度化し,実践されてきた。その経験から「コモンディジーズに関する薬物治療は頭に叩き込んでおくべきである」という信念の下に編まれた本書は実践的な構成がされており,新人薬剤師にとって必読ともいえる要素が並んでいる。
ともすれば,こういった薬物治療のマニュアル的な書物は単に疾病の解説と医薬品の説明を詰め込んでいるだけのものが多いが,本書の第1章は「調剤」である。薬剤師の本筋をまず確認した上でDI,TDM,スペシャルポピュレーションに関する注意点へと進み,フィジカルアセスメントまで簡単な解説を掲載した後に疾病の薬学管理へと移っていく。最初の疾患は感染症であり,全ての診療科で等しく薬剤師がアドバイスすべき疾患から導入されているという点が現場を知り尽くした編者の配慮と感じた。
疾病に関する項目も,単に疾患の解説と薬物療法を記述するだけでなく,病態,標準処方例の後には,「薬剤師による薬学的ケア」や「処方提案のポイント」を設け,薬剤師の視点から薬物療法を的確に遂行するための行動指針を示している。
本書の記載は簡潔でかつ丁寧であり,新人薬剤師にとってみれば現場の手の届くところに携えておくと便利な書物といえる。また保険薬局の薬剤師にとっても薬学管理の指針として便利であることには違いなく,備えておきたい一冊である。
《評者》 志水 太郎 獨協医大教授・総合診療医学
コンパクト,濃度抜群。国際標準+アートに満ちたマニュアル
亀田総合病院の“あの”マニュアルの第2版が10年を経て出版されました。第一印象は「本当に手のひらサイズ」。500ページと聞くと厚い(熱い)印象ながら,院内PHSの厚さとほぼ同じコンパクトさを保っています。値段も3080円と読者フレンドリー,その上,八重樫牧人品質,亀田品質というプロファイル。ここまでで,これはもうどう見ても買いのロジックとなります。そのほか,数ある中からダイジェストで個人的なお薦めポイントを記載します。
このような病院発のマニュアルを見るとき,そこで訓練を受けた医師たちが思い出されます。個人的な印象ですが,一緒に職場で仕事をさせていただいたことのある亀田卒の医師たちのカルテは,とても整理されたものだった記憶があります。特に等しく皆同じであったと感じるのは,ヘルスメンテナンスと題されたカルテ末尾の記載でした。本書では第32章の16ページ(pp.468-83)が,この予防医療トピックに充てられていますが,これは病棟でも外来でも重要で,“総合内科・総合診療”的な長期的・包括的ケアを達成する上での中心軸を構成する考え方です。...
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