医学界新聞

こころが動く医療コミュニケーション

連載 中島 俊

2021.07.19 週刊医学界新聞(通常号):第3429号より

 医療者と患者さんとのかかわりでは,会話の内容に目が行きがちです。しかし医療者と患者さんは声色や表情・視線・ジェスチャーなど,さまざまな非言語的表現を組み合わせてコミュニケーションを行っています。例えばインフォームド・コンセントのプロセスでは,発話内容に加えて医療者のジェスチャーや表情,視線の動きなども重要な要素の一つであることが示されています1)

 本稿では,ジェスチャーや視線,声色や沈黙などの医療者と患者さんの非言語コミュニケーションを紹介します。余談ですが,非言語コミュニケーション領域の最も引用された論文1000本のうち日本は世界第8位であり2),日本における関心の高さがうかがえます。

 ジェスチャーは,伝えたいメッセージを補完し,コミュニケーションを円滑にする役割があるとされています3)。一方で,「髪を整える」などの発言と関係のないジェスチャー(グルーミング動作)は,本来のジェスチャーの意味を弱めます4)。医療面接などの重要な場面では,医療者はグルーミング動作を避けることが望ましいでしょう。

 また通訳者を介した患者さんと医療者のコミュニケーションでは,三者がジェスチャーをするほど意思疎通が円滑になることが示されています5)。言語化が難しいメッセージをジェスチャーで伝えることは,時間・金銭的コストをかけずに意思疎通を円滑にする最良の方法かもしれません。

◆視線の取り方をコミュニケーションに活用する

 視線は,会話を円滑に進行することや打ち切ることに大きな役割を果たします6)。例えば会話中に相手の目を見ることは,関係構築に役立つとみなされます7)。また視線の動きは,パーソナリティや不安など複数の要因の影響を受けることが知られています8)。例えば外交的な人は積極的にアイコンタクトを取る傾向がある9)一方,対人不安の強い人は,そうでない人と比べて視線が合うまでのスピードは変わらないものの目が合ってから視線をそらすまでの時間が長いこと10)が明らかにされています。

 また,アイコンタクトの特徴は年齢によって異なります11)。具体的には,話を聞いたり顔の表情を判別したりする時には,高齢者のアイコンタクトは減少しますが,自分から話すときには年齢による影響はみられません。

 視線に関するユニークな研究をご紹介します。模擬患者さんが部屋から退出する際に医学生が視線を向けて見届けると,より強く共感されたと感じると報告されています12)。面接が終わった患者さんが診察室や面接室から退出する際には,医療者は部屋を出るまで見届けるとよいでしょう。

◆面接においては有用な沈黙もある

 医療者の声色やトーン,沈黙,声掛けのタイミングなどの研究は,臨床的に極めて重要であるもののこれまでほとんど研究されてきませんでした13)。その中で興味深い研究として,うつ病の患者さんが別の医療者に会った後に心理士の心理療法を受ける場合,医療者の声の周波数の揺らぎや沈黙の割合が心理士との関係性に影響を与えると示されています14)

 Bartelsらは,医療者と患者さんの実際の面接から沈黙を4種類に分類しています(15)。多くの医療者は沈黙を会話が続かない気まずい瞬間ととらえるかもしれませんが,表中の①や②のように面接において有用な沈黙もあります。医療者は時に沈黙を効果的に活用することが求められると言えるでしょう。

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 沈黙の種類とその内容(文献15をもとに作成)

◆非言語コミュニケーション研究における倫理的な懸念

 非言語コミュニケーション研究では,さまざまな「俗説」が流布しています。これらはしばしば倫理的な懸念点を生じさせます。

 この代表的な内容として,「嘘を見破るための指標が存在する」が挙げられます。現在のところ嘘と行動的特徴には,ほとんど意味のある関連はみられないことが示されています16)。一方,興味深いことに多くの人が「嘘つきは視線を合わせない」など嘘を見破る俗説を持っています17)

 これらの事実に基づかない「嘘を見破る指標に関する研究」が注目を集め,司法制度などさまざまな領域の中で「嘘を見破る方法」として取り入れられることが倫理的に懸念されます18, 19)。医療の文脈でも同様のことが言え,私たち医療者はそのような「俗説」を見極める科学リテラシーの高さが求められます。

◆「行動の同期」は何をもたらすのか

 相手と同じような非言語コミュニケーションを取る「行動の同期」は,関係構築に有用であると知られています20)。患者さんと長期間接する心理療法においては,患者さんの声の高さや表情,全身の動きなどの非言語コミュニケーションが医療者と似てくる傾向があり21),そのプロセスとしての対人的同期モデル(In-Sync)21)が提唱されています。

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 対人的同期(In-Sync)モデルにおける各レベルの特徴(文献21より作成)
3つのレベルの階層は一方向ではなく,双方向に行ったり来たりすると考えられる。

 このモデルは,行動の同期を考える上で包括的なものですが,モデル自体の妥当性が担保されているわけではないため,慎重に解釈する必要があります。

 従来のモノモーダル(1つの感覚)な研究に比べて,近年では視覚や聴覚などの複数の感覚を組み合わせるマルチモーダルなコミュニケーションに注目が集まっています。この背景には,言語・非言語表現を複合的に計測した解析がテクノロジーの活用で進みつつある22)ことがあります。例えばジェスチャー付きの音声となしの音声では,識別にかかわる脳の領域が異なるという研究23)や,うつ病患者の表情と眼球運動を追跡することで抑うつ症状を予測するという研究24)が報告されています。

 これらを考えると,視線や音声などの情報の組み合わせには大きな可能性があると言えるでしょう。例えば視線+音声+表情で得られる効果は1+1+1=3ではなく,4や5にもなり得ます。モノモーダルな視点からマルチモーダルな視点への転換は,研究のゲームチェンジャーになるかもしれず,今後の発展が望まれます。

🖉 非言語コミュニケーションは重要な役割を担っている。
🖉 ジェスチャーや視線,沈黙などを面接で活用する。
🖉 マルチモーダルな研究は新しい発見への扉になる可能性がある。


1)Appl Clin Inform. 2011[PMID:23616873]
2)P Plusquellec, et al. The 1000 most cited papers on visible nonverbal behavior:a bibliometric analysis. Journal of Nonverbal Behav. 2018;42:347-77.
3)Psychol Bull. 2011[PMID:21355631]
4)Soc Cogn Affect Neurosci. 2015[PMID:25688095]
5)Soc Sci Med. 2019[PMID:31203145]
6)Front Psychol. 2021[PMID:33897526]
7)AP Duggan, et al. Physicians' Nonverbal Rapport Building and Patients' Talk About the Subjective Component of Illness. 2001;Human Communication Research, 27(2):299-311. 
8)JF Rauthmann, et al. Eyes as windows to the soul: Gazing behavior is related to personality. Journal of Research in Personality. 2012;46(2):147-56. 
9)PLoS One. 2019[PMID:31344061]
10)J Affect Disord. 2021[PMID:32977266]
11)Q J Exp Psychol (Hove). 2021[PMID:33283649]
12)J Patient Exp. 2020[PMID:33457574]
13)ポール・L・ワクテル.杉原保史(翻訳).心理療法家の言葉の技術――治療的コミュニケーションをひらく 第2版.金剛出版;2014.
14)Clin Psychol Psychother. 2020[PMID:33270316]
15)Patient Educ Couns. 2016[PMID:27156659]
16)Psychol Bull. 2003[PMID:12555795]
17)J Cross Cult Psychol. 2006[PMID:20976033]
18)Front Psychol. 2020[PMID:33224068]
19)D Vincent. Justice at risk! An evaluation of a pseudoscientific analysis of a witness' nonverbal behavior in the courtroom. The Journal of Forensic Psychiatry. 2018;29(2):221-42. 
20)J Exp Soc Psychol. 2012[PMID:22389521]
21)Front Psychol. 2016[PMID:27378968]
22)宮澤幸希.コミュニケーション研究におけるELANの活用――音声・映像データへのアノテーション.日音響会誌.2019;75(6):344-50.
23)Philos Trans R Soc Lond B Biol Sci. 2014[PMID:25092664]
24)Psychol Med. 2020[PMID:33161920]