看護のアジェンダ
[第198回] 「役に立たない」ことが役に立つ
連載 井部 俊子
2021.06.28 週刊医学界新聞(看護号):第3426号より
新型コロナ緊急事態宣言発令中により“人流”(これをジンリュウと呼ぶことに私は違和感がある)を減らすことに貢献するため,巣ごもりをしている5月です。
いくつか届く雑誌のひとつに『学術の動向』があります。頁をめくると,「日本学術会議を知る」という連載企画で黒川清先生が執筆されていました(『学術の動向』第26巻5号,68-72頁)。タイトルは「日本学術会議,世界の科学者のネットワーク」です。その論文の最後に「最近,世界の若い科学者の間で読まれている小さな本」の紹介がありました。“The Usefulness of Useless Knowledge”と題したこの本は,プリンストン高等研究所を設立したエイブラハム・フレクスナーが1939年に書いたエッセイに,2012年から同研究所の所長を務めるロベルト・ダイクラーフが解説を付けた本です。
インターネットで検索すると,2020年7月27日に東京大学出版会から日本語訳(『「役に立たない」科学が役に立つ』)が出版されていました。(私はAmazon派ではないので)いつもの本屋に“入荷”を頼み,すぐに入手できました。
好奇心の育成に努め,有用性の追求から解放せよ
フレクスナーは,「フレクスナー 専門職の基準」(手島恵監修『看護職の基本的責務』日本看護協会出版会,2021年,61頁)で看護職にはおなじみ(?)の名前です。フレクスナーは,専門職の要件として以下6つを挙げています(『看護職の基本的責務』は1979年の千野静香,他訳で英文併記されています。日本語訳はナラティブに行われていて理解しやすいかもしれないと思いました)。
1)基本的に個人の大きな責任を伴う知的活動を含む。
2)常に学ぶべきである。専門職に従事する者は常に研究会やゼミに出入りして新しい事実を見いだし,それを学習する。
3)単に学問的,理論的であるばかりでなく,その目的においてはきわめて実務的である。
4)高度に専門化された教育訓練を通じて,はじめて伝達可能になる技術をもっている。
5)自分とともに業務に従事する者の注意を引きつけ,グループ意識を育てるような活動,職務,責任によって,自らを形成していく。
6)組織化されない独立している個人よりも,公衆の利益に敏感である。したがって社会的な目標の達成により深い関心を抱いている。
では,「役に立たない」知識の有用性の話に戻ります。
1865年に電磁波の分野で,深遠で難解な計算を行い抽象的な方程式を論文発表したクラーク・マクスウェルと,無線信号を運ぶ電磁波の検出と実証を行ったハインリッヒ・ヘルツが紹介されます。「ヘルツとマクスウェルは何も発明できなかったが,彼らの理論的研...
この記事はログインすると全文を読むことができます。
医学書院IDをお持ちでない方は医学書院IDを取得(無料)ください。
いま話題の記事
-
医学界新聞プラス
[第1回]心エコーレポートの見方をざっくり教えてください
『循環器病棟の業務が全然わからないので、うし先生に聞いてみた。』より連載 2024.04.26
-
医学界新聞プラス
[第3回]冠動脈造影でLADとLCX の区別がつきません……
『医学界新聞プラス 循環器病棟の業務が全然わからないので、うし先生に聞いてみた。』より連載 2024.05.10
-
医学界新聞プラス
[第1回]ビタミンB1は救急外来でいつ,誰に,どれだけ投与するのか?
『救急外来,ここだけの話』より連載 2021.06.25
-
医学界新聞プラス
[第2回]アセトアミノフェン経口製剤(カロナールⓇ)は 空腹時に服薬することが可能か?
『医薬品情報のひきだし』より連載 2022.08.05
-
対談・座談会 2025.03.11
最新の記事
-
対談・座談会 2025.04.08
-
対談・座談会 2025.04.08
-
腹痛診療アップデート
「急性腹症診療ガイドライン2025」をひもとく対談・座談会 2025.04.08
-
野木真将氏に聞く
国際水準の医師育成をめざす認証評価
ACGME-I認証を取得した亀田総合病院の歩みインタビュー 2025.04.08
-
能登半島地震による被災者の口腔への影響と,地域で連携した「食べる」支援の継続
寄稿 2025.04.08
開く
医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。