看護のアジェンダ
[第199回] 真夜中のハプニング
連載 井部 俊子
2021.07.26 週刊医学界新聞(看護号):第3430号より
新型コロナウイルスワクチン接種の「高齢者枠」に該当する年齢になると,たいていのことに驚かなくなります。とりわけ医療現場での経験が,人の生き死にについて冷静に考え対処することの底力をつけてくれたように思います。つまり,身の回りで起こることで「お手上げ」になる“案件”はほとんどなく,合理的な意思決定をしてきたと思っていました。後輩には「遠慮と貧乏はしないように」などと言って生きてきました。
それなのに,私にとって久々の「お手上げ」状況が起きたのです。
噴水広場での土手づくり,ひとりバケツリレー
それは,2021年6月の水曜日の夜でした。毎週,必ず見ることにしているBSテレビ『刑事コロンボ』の「死者のギャンブル」を見終わったのが午後10時33分でした。
途中,台所で「コトン」と小さな音がしました。冷蔵庫で氷がつくられた音だろうと思って気にしませんでした。午後11時からの「おかえりモネ」の再放送を見て寝ようと思い,台所に向かった時です。足もとの床に水がたまっていました。「なに,これ」と最初は落ち着いていました。
ところが,台所のシンク下の扉の隙間から水が静かにひたひたとあふれ出てきたのです。扉を開けると,見たこともない光景がありました。ちょっとした“噴水広場”でした。勢いよく水が吹き上がり,シンクの底にぶつかり流れおちています。そして台所の床を占拠し,水浸しの範囲を拡大していきます。
ひとまず水を拭きとろうと考えて,古いシーツやバスタオルを動員して“土手”をつくりました。しかしまたたく間に土手はぐしょぐしょになりました。次に,なりゆきに抵抗するよりは,あふれ出る水を容器で受け止めて排水しようと考え,鍋をいくつか並べて,“ひとりバケツリレー”をしました。
夜勤専門の忍者に助けられる
対症療法だけでは根本治療にはならないと考え,近所の方に「ピンポン」して,「水があふれて困っている」ことを伝えました。その方が,この集合住宅の管理会社に通報してくれました。管理会社の「24時間365日対応」コールセンターより,管理会社とビルメンテナンス会社から人員を派遣するという返答がありました。
待つこと30分くらいだったでしょうか。ずいぶん長く感じました。その間,私はひたすら「ひとりバケツリレー(正確には鍋リレーですが)」を続けていました。この洪水は下の階に被害をもたらすのではないかという大きな気掛かりを背負いながら。
夜の12時半をまわった頃,まず警備会社の社員が到着しました。りりしい制服姿の彼は,玄関脇にあるパイプスペースをあけて,水道の元栓をぐいっと閉めました。それであの噴水は止...
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