医学界新聞

こころが動く医療コミュニケーション

連載 中島 俊

2021.04.19 週刊医学界新聞(通常号):第3417号より

 医療者の善意やよかれと思って行う振る舞いが,かえって患者さんのやる気を削ぎ,行動変容への抵抗となることは珍しくありません。本稿では,医療者が患者さんと衝突せずに面接を進めるコツについて,以下のCASEを通して考えます。

36歳女性のAさん。妊娠が発覚したため,パートナーとともに禁煙外来を受診。18歳から喫煙を開始し,当時から1日15~20本程度を吸っている。禁煙補助薬であるニコチンガムを試したものの口に合わず,2日間使用して自己判断で使用を中止。現在は紙巻きタバコから加熱式タバコに変更しようと考えている。

 患者さんのやる気を失わせるかかわりの1つに「間違い指摘反射」があります。これは医療者が患者さんを健康に導きたいという思いから,患者さんが間違った道を進んでいると,それを指摘して正しい方向に向けようとするかかわりです1)。間違い指摘反射自体は医療者として自然な反応であるものの,これに加えて第3回で扱った「医療者が陥りがちな6つの罠」にはまったり,第4回で扱った「面接の4つのプロセス」を無視したかかわり方をしたりすると,患者さんは医療者が自分の理解者ではないと感じ,防衛的になる可能性があります。例えばCASEで,「加熱式タバコでも胎児に影響が出るリスクがある」と医療者が患者さんの取り組みを頭ごなしに否定することは,間違い指摘反射に該当します。このような場合には,加熱式タバコに変更しようとする患者さんの「現状を変えたいという思い」を認めた上で,加熱式タバコのリスクに関する情報提供をするのがよいでしょう。

 間違い指摘反射をはじめとする医療者の「余計なひと言」が,患者さんの進む道に置かれた邪魔な石として機能し,患者さんの変化を妨げてしまいます。このようなかかわりを「ロードブロック」と呼びます2)。CASEでは,に記載するかかわりが代表的なロードブロックとして挙げられます。このようなかかわりは,患者さんの行動変容を妨げるものと考えられています3)

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 医療者が避けるべきロードブロック

 医療者がロードブロッカーにならないためには,患者さん中心のかかわりである「OARS(オールズ)」を用いることが重要です。OARSは,開かれた質問(Open questions),是認(Affirmation),聞き返し(Reflection),要約(Summary)の頭文字をとったものです。

 回答が「はい」「いいえ」で可能な質問を閉じた質問と呼びます。一方,「はい」「いいえ」に限定されない質問を開かれた質問と呼びます。詳細は第5回「コツを押さえた質問を心掛けよう」で説明した通りですが,患者さんとの面接の中では,閉じた質問でなく開かれた質問を多く行うことが推奨されています1)

 「すごいですね」「頑張っていますね」などの漠然とした褒め言葉ではなく,患者さんの強みや本人のスキル,前向きに行動しようとする心掛けといったポジティブな面を強調するかかわりを是認と呼びます1)。是認には患者さんとの関係性を育む作用もあります。行動変容を抑制するネガティブな発言(維持トーク)を減らして,行動変容につながるポジティブな発言(チェンジ・トーク)を引き出しやすくなります4)

 また,もし面接の中で患者さんにポジティブな面がないと感じる場合は,変化への期待が高過ぎるのかもしれません。例えばCASEではニコチンガムが2日間しか続かなかったというネガティブな面に注目するのではなく,「ニコチンガムが口に合わないとおっしゃる中でも1日でやめず翌日も試されたのは,お子さんのことを本当に大切に感じているのですね」など行動変容の源に注目することがポイントです。

 医療者の発言のうち,患者さんが発言した内容を返すものを聞き返しと呼びます1)。聞き返しは,医療者が患者さんの発言の裏にある意味を推論した上で,①患者さんを理解していると伝えること,②医療者の推論が正しいか確認することを目的としています。②だけであれば,閉じた質問であれ開かれた質問であれ,「質問」で十分です。しかし①の意図を含む聞き返しは,質問よりも受け手の発言が促されやすいと考えられており1),聞き返しのほうが推奨されています。

 聞き返しには,オウム返しで患者さんの発言についての明白な意味を反映させる「単純な聞き返し」と,これまで語られていない患者さんの思いや価値についての暗黙の意味を反映させる「複雑な聞き返し」の2種類があります。複雑な聞き返しには,患者さんの話したことに意味を加えたり,強調したりするといったバリエーションが必要です。例えばCASEでは,のような聞き返しのバリエーションが考えられます。聞き返しが患者さんの気持ちにどの程度寄り添えているかは文脈に大きく依存します。図の「C:増幅した聞き返し」の場合,文脈を間違えると患者さんの気持ちを害することが容易に予想できます。

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 聞き返しのバリエーション
A:患者さんの発言をそのまま繰り返す。B:患者さんの変わろうとする思いと,今のままでいようとする思いの両方の価値を含むように聞き返す。C:患者さんの発言をより強調して聞き返す。D:患者さんが自身の発言から異なる解釈を導けるように聞き返す。

 OARSでは聞き返しを最も多く使用することや,質問と聞き返しの割合を1:2にすること,聞き返しにおける複雑な聞き返しの割合を半分以上にすることが推奨されています5)

 聞き返しのうち,先行する2つ以上の患者さんの発言をまとめるものを要約と呼びます1)。患者さんの視点を理解して意思決定を支援できるよう,患者さんの言葉をできる限りそのまま用いて共感的に返すことがポイントです。要約された患者さんの発言は,意味がストレートに伝わる傾向があります。そのため行動変容を促す場合には変化の動機づけにつながるポジティブな話題を要約することも大切です。

 患者さんとのかかわり方は,今回ご紹介したOARS以外にも,「中立的な発言(例:今日もいい天気ですね)」など,多くのレパートリーがあります。とはいえ動機づけ面接の実践においてOARSは定評のあるかかわりとされています3)。このことからも,OARSに則って自分の面接を振り返ることは,よりよい患者さんとのかかわりをめざす上で役立つと言えるでしょう。

🖉 医療者のロードブロックは,患者さんのやる気を削いでしまうので極力避ける。
🖉 医療者はOARSを用いて患者さんの行動変容を妨げないよう心掛ける。


1)ウイリアム・R・ミラー,他,原井宏明(監訳)動機づけ面接上巻.第3版.星和書店;2019.
2)J Clin Psychol. 1991[PMID:2066417]
3)Patient Educ Couns. 2019[PMID:31514978]
4)J Subst Abuse Treat. 2016[PMID:26547412]
5)原井宏明.方法としての動機づけ面接――面接によって人と関わるすべての人のために.岩崎学術出版社;2012.p252.

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