医学界新聞

こころが動く医療コミュニケーション

連載 中島 俊

2021.03.15 週刊医学界新聞(通常号):第3412号より

 これまで患者さんの声に耳を傾ける大切さについて述べてきました。本稿では一歩進んで,患者さんの言葉を引き出しやすくする質問について紹介します。医療には,病態や状況確認のアセスメントのための質問は欠かせません。一方,医療者の質問の仕方によっては患者さんを傷つけ,医療者へのネガティブな気持ちを生み出すことを忘れてはいけません。

 質問は,閉じた質問と開かれた質問の二つに分けられます。閉じた質問とは,「はい」か「いいえ」の短い回答を相手に求める質問で,相手の反応の選択肢を制限する特徴があります。そのため,特定の情報を明確に収集したい場合や,決断を促す場合に用いられます。他方,開かれた質問は回答が「はい」「いいえ」で限定されないため自由度が高く,その後の会話が展開しやすい特徴があります。したがって,患者さん自身が話したいと思っている内容から多くの情報を引き出したい場合に用いられます。

 患者さんの会話を中断させる行動の59%は閉じた質問であること1),開かれた質問は閉じた質問と比べて患者さんの気持ちを引き出しやすいこと2)から,面接では閉じた質問より開かれた質問を多く行うことが推奨されています3)。子どもを対象とした司法面接では,デリケートな内容は閉じた質問より開かれた質問で開示されやすいとされています4)。また「赤い帽子の人を見掛けた?」のように,閉じた質問に「赤い帽子」という情報を加えることで暗示や誘導の可能性を高めてしまうため,開かれた質問を用いることが推奨されています5)

 医療者が質問をする際に忘れてならないのが,質問が患者さんに及ぼすインパクトです。「この前話したことを覚えていますか?」などの質問は,医療者は理解度の確認として尋ねているつもりでも,患者さんは「覚えていないの?」と暗に責められていると思うかもしれません。また,「一体,何がご家族と話し合うことを難しくさせているのでしょうか?」のように原因を掘り下げる質問も,「家族と話し合うことは難しくないように感じるが,あなたが主観的困難を抱えているためにそれを難しくさせている」というメタ・メッセージを含む非難的な問い掛けです。このような質問よりも「現時点でご家族と話し合うことは難しく感じますよね」などの聞き返しを行うほうが望ましいと考えられています6)

 また,開かれた質問であっても閉じた質問であっても,質問ばかりすることは取り調べのような印象につながり関係を悪化させかねません(第3回の「アセスメントの罠」参照)。

 患者さんがネガティブなものととらえており,他の人に話すことに抵抗を感じる内容を医療者が質問で引き出すためには,質問のインパクトを最小限にするための温かく問い掛ける技術(the art of gentle inquiry)が必要です6)。患者さんが質問に答えにくいと思う場合,閉じた質問はの「レーザービーム」のように刺さり,患者さんへのインパクトは大きくなります。閉じた質問と比べ,開かれた質問は医療者の意図が伝わりにくくなるデメリットはあるものの,患者さんへのインパクトを減らすことができます。例えば「なぜもっと早く受診しなかったのですか?」などの質問も,「お忙しいとなかなか受診するのは難しいですよね」などの聞き返しにすることでの「懐中電灯」のように温かく伝わり, インパクトを抑えられます。

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 閉じた質問と開かれた質問の患者に与えるインパクト
閉じた質問は,レーザービームのように医療者の意図が伝わる一方,暗黙の非難のように伝わり患者へのインパクトが大きくなりやすい。開かれた質問は,懐中電灯のように医療者の意図が伝わりにくくなるが,質問のインパクトを抑えられる。

 また,質問の前に特定の情報を伝えることは,患者さんが質問の目的を理解することを促し,コミュニケーション・トラブルを防ぎます。例えば,症状や薬の副作用で性欲減退が見られるかもしれない患者さんに対し,その確認のために「最近,性的な関心はどうですか?」と質問する場合を考えてみましょう。患者さんがその質問の意図を把握できていない場合には,とまどいや誤った認識からセクシュアルハラスメントと感じるかもしれません。これを防ぐには,「この薬の副作用として性的な関心の減退が報告されています。最近,その点はいかがですか?」と情報を伝えながら質問をすれば,患者さんは安心して答えられるでしょう。

 質問には治療・教育的な意味合いを持つものがあります。思い込みに対する相手の確信度を弱め,別の考えへの開かれた態度をとることを目的としたものをソクラテス式問答と呼び7),うつ病患者さんの面接においてその後の症状の改善につながることが報告されています8)。ソクラテス式問答は,医療者があらかじめ「答え」を持っており,それにたどりつくように質問をして患者さんがその答えを発見するように導くものと誤解されがちです。しかし実際には医療者が適切な質問をすることで,患者さんとともに答えを探求し,一緒に発見していくものです6)。例えば,朝寝坊して仕事に遅刻してしまう患者さんに対してアドバイスではなく「これまで寝坊しない時は何が違ったのでしょうか?」のように質問することで,患者さんが寝坊しない状況や対処法を引き出します。共同作業の視点や心理的安全性を欠いたソクラテス式問答は,相手から医療者の権力を誇示するためのものと思われることがあるため9),注意しましょう。

 最後に,口頭ではなく文章での質問と,それによって得られる回答の特徴を紹介します。調査用紙に記載された質問と紙ベースの回答では,閉じた質問に比べ開かれた質問で欠損が多いことが示されています10)。さらに,近年主流となりつつあるデジタルテキストでの回答でも,同様に開かれた質問は閉じた質問と比べて回答の欠損が多くなる傾向がみられます11)。これらは,自由形式の回答に手間が掛かるため好まれないこと,回答に使用したデバイスの使いにくさによるものと考えられています12)。質問に対する口頭や自記式での回答と,デバイスを用いたデジタルテキストでの回答では,質的な違いがあることにも留意する必要があるでしょう。

 冒頭でもお伝えしたように,医療では正確な情報を把握する上で質問は不可欠です。それと同時に,質問は患者さんに一歩踏み込む介入でもあることを認識し,質問の意味合いやその侵襲性についても考えなければいけません。

🖉 開かれた質問と閉じた質問それぞれの特徴を押さえる。
🖉 患者さんに及ぼすインパクトをできる限り最小限に抑えるように質問の仕方を工夫する。
🖉 治療や教育的意味合いを持つ質問の際には,協働的な姿勢と回答者の心理的安全性に留意する。
🖉 回答形式の違いで,質問への回答が異なる可能性がある。


1)J Gen Intern Med.2019[PMID:29968051]
2)J Subst Abuse Treat.2016[PMID:26547412]
3)ウイリアム・R・ミラー,他,原井宏明(監訳)動機づけ面接上巻.第3版.星和書店;2019.
4)Child Abuse Negl.2021[PMID:33454643]
5)仲真紀子.司法面接の展開――多機関連携への道程.法と心理.2016;16(1):24-30.
6)ポール・L・ワクテル.杉原保史(翻訳)心理療法家の言葉の技術――治療的コミュニケーションをひらく.第2版.金剛出版;2014.
7)東京駒場CBT研究会.石垣琢磨,他(編).クライエントの言葉をひきだす認知療法の「問う力」――ソクラテス的手法を使いこなす.金剛出版;2019.
8)Behav Res Ther.2015[PMID:25965026]
9)J Gen Intern Med.2016[PMID:27130623]
10)J Clin Epidemiol.1999[PMID:10513763]
11)Reja U,et al.Open-ended vs. Close-ended Questions in Web Questionnaires.Developments in Applied Statistics.2003;19(January):159-77.
12)Behav Res Methods.2019[PMID:29943224]

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