事例で学ぶくすりの落とし穴
[第8回] がん疼痛コントロール時の肝障害
連載 畑中 真理,池田 龍二,柳田 俊彦 (監修)
2021.02.22 週刊医学界新聞(看護号):第3409号より
今回は,がん疼痛で使用する薬剤と肝障害について事例を通して具体的にみてみましょう。
子宮頸がんIVA期に同時化学放射線療法(Concurrent Chemoradiotherapy:CCRT)を終了した30歳代のAさん。ロキソプロフェン(ロキソニン®)錠に過敏症の既往があるため,下腹部の痛みに対し処方されていたアセトアミノフェン(カロナール®)錠500 mgを1回2錠1日4回(朝昼夕食後就寝前)内服していた。
1か月後の再診時,外来にてAさんから看護師へ次のような訴えがあった。「自宅では体が怠く,市販の風邪薬を飲んでいました。食事はほとんどとれず,夜は眠れないので毎日お酒を飲んで寝ています」。
軽度のがん疼痛のある患者に対して,ロキソプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬(Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs:NSAIDs)が過敏症の既往や消化管・腎機能などの障害で使用しにくい場合,アセトアミノフェンは比較的安全に使用できる薬剤であることが一般的に知られています。しかしながら,アセトアミノフェンは肝臓への影響,市販薬やアルコールとの飲み合わせに注意が必要な薬剤であることをご存じでしたでしょうか。今回はそんなピットフォールに焦点を当てて説明をしていきます。
押さえておきたい基礎知識
がんの痛みがあると,眠れなくなったり食欲不振による低栄養から体力を消耗したりします。そこで鎮痛薬を使用して痛みをコントロールすることが大切です。この場合,軽度の痛みには非オピオイド鎮痛薬,中等度から高度の痛みには医療用麻薬を加えるなど,痛みに合わせて鎮痛薬を選択して使用することになります。ただし,医療用麻薬の副作用には,便秘,吐き気,眠気など注意すべきことがある上,「麻薬」という言葉が影響して,医療者も患者さんも慎重になる場合がほとんどです。他方,過敏症の既往などによりNSAIDsが使用できない場合に用いられるアセトアミノフェンは,安全な薬剤だと誤解されやすく,過量投与や肝障害を招きやすいのが落とし穴の一つです。
本事例で注目されるアセトアミノフェンによる鎮痛の作用機序は,視床と大脳皮質の痛覚閾値の上昇によるものです。その他,解熱作用はありますが抗炎症作用はほとんどありません。国内において用量は,「成人には1回300~500 mg,1日900~1500 mg」とされていましたが,国際的な用量と比較して著しく低い値であったことから,2011年にがんなどによる疼痛の場合は,「成人には1回300~1000 mg,1日総量として4000 mgを限度」と用量が拡大されました1)。がん疼痛では,1日2400~4000 mg程度が妥当な鎮痛量とされています2)。一方で低用量を内服し鎮痛量として十分でない場合も散見されます。投与量が少ないと鎮痛の有効域まで血中濃度が上昇しないために注意が必要です。
アセトアミノフェンの代謝は,肝臓で約60%がグルクロン酸抱合,約35%が硫酸抱合を受け,腎臓から排泄されます(註1)。数%が薬物代謝酵素CYP2E1によって中間代謝物のN-アセチル-P-ベンゾキノンイミン(NAPQI)になります。NAPQIには肝毒性がありますが,通常は肝臓でグルタチオン抱合により無毒化されます。
こんなところに落とし穴
アセトアミノフェンは,常用量では大半がグルクロン酸抱合や硫酸抱合により代謝され,排泄されますが,過剰量を摂取し処理能力を超えると,主としてCYP2E1を介して代謝されるようになります。さらに,NAPQIの解毒にかかわるグルタチオン抱合による処理能力も限界に達すると,肝内にNAPQIが増加し肝細胞壊死を引き起こします。一般的な使用量で重篤な肝細胞壊死まで進行することはほとんどありませんが(註2),アルコール多量常飲者や低栄養状態,代謝酵素を誘導する薬剤(例:カルバマゼピン,フェノバルビタール)との併用では中毒性肝障害のリスクが高まるために注意が必要です3)。
今回の事例では,もともと鎮痛目的でアセトアミノフェンの上限量4000 mgを内服しており,その上で市販の風邪薬を服用していたことが判明しました。アセトアミノフェンは市販の総合感冒薬や解熱薬などにも含まれていることが多く,意図しない過剰摂取となっていた可能性が考えられます。また,毎日の飲酒の影...
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