看護のアジェンダ
[第193回] 当番のあいさつ
連載 井部 俊子
2021.01.25 週刊医学界新聞(看護号):第3405号より
その日,私が担当した看護管理者研修の一日が終わろうとしていた。最後の10分を残して,私は受講生からの質問や意見を求めた。教室はしんとしていた。
しかし何か発言が出そうな空気が充満していた。そこで私は,その日の「当番」と聞いていた,前列に座っていたAに発言を促した。Aは手を振って,発言はないと意志表示した。そうこうしているうちに授業の終了時間になったので,私は「ではこれで」と講義の終了を告げた。すると,Aはすくっと立ち上がって“口上”を述べ始めたのである。
私は内心,これは当番としての儀礼的なあいさつだなと直感した。これまでこうした経験を多くしてきたからである。そこで私はAに「当番として述べるのか」と聞いた。「そうだ」とAは答えた。私は,「役割としてあいさつをしてもらう必要はない」と言って授業を終えた。
講師控え室に戻るとプログラムの責任者が,「自分が指示したことだ」と言った。しかし文言はAが考えたものだという。確かに,Aの机の上に発表原稿が見えた。私は内心,Aには発言を求めたのであるから,Aの考えや意見を述べてほしかったと強く思った。
当番のあいさつをさえぎった講義の終わり方について,その後しばらく私の中で尾を引いた。自分の思いを曲げて数分の時間を当番のあいさつに費やせばよかったのではないか,ケチくさいと思う半面,看護管理者サードレベルであるから儀礼的に指示されて発言するということにもっと批判的であってほしいという思いがせめぎ合っていた。
政治的方言と来賓のあいさつ
三島由紀夫は『文章読本』(新装版,中公文庫,2020年)の中で,大蔵省に勤務していたころに大臣の演説原稿を書いた経験を述べている。「私はごく文学的な講演の原稿を書いたのでありますが,それははなはだしく大臣の威信を傷つけるものでありました。課長は私の文章を下手だと言い,私の上役の事務官が...
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