医学界新聞

2020.11.23



Medical Library 書評・新刊案内


もやもやした臨床の疑問を研究するための本
緩和ケアではこうする

森田 達也 著

《評者》宮下 光令(東北大大学院教授・緩和ケア看護学)

「なんとかしたい!」臨床疑問を研究にする技術

 本書は「臨床で困っていることを研究でなんとかしたい」「でも,どこからどう手を付けていいかわからない」もしくは「論文を書きたい」「しかし,どこからどう手を付けていいかわからない」という看護師のための本である。

 臨床現場で困っている,なんとかしたい気持ち,それが本書でいう「もやもや」である。それを解決するために研究にチャレンジしようと考えて看護研究に関する書籍を読んでみるのだが,「どうにもピンとこない」。看護研究の書籍にはいろいろな研究の方法論や統計が網羅的に書かれているのだが,どうやったらそれを目の前の疑問の解決につなげられるのか,わからないのである。

 研究には看護と同様に「経験知」という側面が強い。教科書を読んだだけで看護ができる人がいないように,研究も経験を積まないと場面場面での判断は難しい。逆にいえば,経験を積んだ人は,「こういうときにはこう整理して,こう考える」という言語化しにくいパターンが身についているものである。看護であってもなくても,常に正しい判断をしている人に会うと,「この人の頭の中はどうなっているのだろうか?」と思うことがある。

 森田達也氏は臨床研究で500本以上の論文を世に出してきた,緩和ケアの分野のいわば世界的巨匠であり,評者のメンターでもある。森田氏とは20年来のお付き合いになるが,素晴らしいところは,常に「臨床の疑問を解決するために」研究活動を行ってきたところである。そして,本書では森田氏の数多くの経験から,臨床疑問をどのように研究に発展させていったらよいか,壁に当たったらどのように考え,克服するかという「森田氏の頭の中はどうなっているのだろうか?」という森田氏の身につけたノウハウやパターンをわかりやすく整理し,惜しみなく開示してくれている。森田氏はそのパターンを「技術」という。研究に特殊な才能やひらめきは必要ない。事実に基づき頭の中をこのように整理していけば研究として形にできるのである。

 本書は2つのパートから成っている。前半のパートは上記のように研究の進め方に関するもので,後半は論文の書き方である。森田氏は論文の書き方も「技術」として「型」に当てはめて書く方法を指南する。特に論文執筆で一番難しい「はじめに」と「考察」の型は秀逸であり,これを読むためだけにでも買う価値がある。

 さらに私たち看護師に好都合なことに,看護学研究と緩和ケアの研究は似ている。医学研究では薬剤の投与と血糖値や死亡などの客観的な指標に対する効果を見る臨床試験などがメジャーな研究手法である。しかし,看護学研究や緩和ケアの研究はエンドポイントがQOLなど客観的な測定が難しいものが多く,また,介入自体が治療やケアの担い手である医師や看護師,その他の職種と患者・家族の相互作用によってもたらされることが多い。医学研究ではいまだ傍流であろう質的研究も多用される。したがって,本書で紹介されているノウハウは,ほとんど全てが看護研究にも当てはまる。例示されている研究も私たち看護師にとってわかりやすい。買わないわけにはいかない,ライバルには教えたくない本である。

B5・頁284 定価:本体3,600円+税 医学書院
ISBN978-4-260-04085-3


回復期リハビリテーション病棟マニュアル

角田 亘 編
北原 崇真,佐藤 慎,岩戸 健一郎,中嶋 杏子 編集協力

《評者》粟生田 友子(埼玉医大教授・成人看護学)

チーム医療を高めるための「共通言語」がわかる一冊

 マニュアル本に期待することは,基本となる「知識」の修得はもちろんのこと,現場の実践につながる「基準」や実践行動を導く「道標」が示されることである。さらに,ポケッタブルスタイルなら,いつでもどこでも欲しい知識が確認でき,行おうとする実践が「正しい」というお墨付きを得ることも大きな利用目的となるだろう。

 本書では,回復期リハビリテーション病棟で専門性を発揮する多くの職種が,それぞれの専門的な立場で,何をプランニングしようとしているのか,その「基本」を知ることができる。特に目を引いたのは書籍の中で強調されていた「チームで互いの共通言語を理解する」ことと,各職種が専門性を発揮する「おさえどころ」である。共通言語を活用することは重要であると言われているものの十分に活用できない現状が臨床現場にはあるからである。その点,本書では,臨床での多職種との合同カンファレンスの場面を思い浮かべ,あるケースのケア計画やゴールを模索すると,他の職種から発せられる「言語」を理解できるようにまとめられている。本書に書かれているような「共通言語」を通して,正しい患者の様態を理解したり,自職種の役割を認識したり,他の職種の解釈を共有したり,意見交換が活発にできたりするように思う。

 しかし,本書をどう使うかは,使い手次第である。一人ひとりの患者に対する各職種のプランニングの方向性は,マニュアルを用いて,痒いところに手が届くようなケアや,患者の自律したい欲求に応えること,最大限その人らしく生きていける目標を立てることで,実際に患者をよりよい方向に進めることができる。

 試しに,看護職である私が,「共通言語」によって思考が発展するか否か,リハビリテーション病棟のリハビリテーション訓練と栄養管理に着目してみたところ,日ごろから病棟で療法士や栄養士が行っている訓練や栄養管理の手法が浮かび,「そこをおさえていたのか」と理解できた。また,看護師が書いている病棟ケアの章に目を転じると,日ごろ実践している看護ケアについて私たち看護職が大事にしたいポイントがわかりやすくコンパクトに書かれていた。他の職種がこれをどのように理解し,私たちの「言語」を共有してくれるのだろうかと楽しみになった。

 マニュアル本で叶わないのは,専門職が培っている技術やケア提供者の個性を発揮したプランニング自体を現存あるいは再現させることである。つまり,使い手次第でマニュアル本の価値は高めることができる。「共通言語」を共有することで,多職種カンファレンスが今よりさらに質の高いものになるはずである。回復期リハビリテーション病棟に携わる各個人の力量に合わせて本書を上手に活用していただきたい。

B6変型・頁424 定価:本体3,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-04247-5


国際看護学入門 第2版

日本国際看護学会 編

《評者》二見 茜(東京医歯大病院助教・総合診療科)

国際看護を総合的に学べる1冊

 グローバルに活躍する看護職のためのバイブルである,『国際看護学入門』の待望の第2版が初版から21年を経て発刊された。

 著者の先生方は,看護大学の教育カリキュラムで国際看護学が必修化されるずっと前から,国内外で貧困や難民など社会的弱者と呼ばれる人たちの支援に取り組んでこられ,日本の国際看護の発展を担ってきた。

 今回の改訂では内なる国際化にも目を向け,在日外国人,紛争や迫害を受けて日本に逃れてきた難民,災害時の被災者の支援に関する項目が追加された。在日外国人,訪日外国人の増加に伴い,日本全国どの地域の病院であっても,外国人患者が受診し,看護ケアを提供する時代になった。海外での医療支援に関心がないという看護師でも,日本の病院で外国人患者に対応し,言葉の壁,多様な文化や宗教,生活習慣に配慮した看護ケアを提供することになるだろう。

 日本国内でも,海外でも患者に最も近い存在である看護師は,患者の多様な価値観や文化,生活習慣を理解するよう努め,できる限り尊重する姿勢を持つことが重要である。本書では,対象者の生活や文化を大切に尊重し,看護師の視点で生活モデルから国際看護のプロジェクト展開について詳細に説明されている。

 例えば,本書で紹介されている伝統医療・民間療法(アーユルヴェーダや中医学など)では,西洋医学とは異なる人体の理解,病気の説明の理論があり,その活動は社会的に認知されており,医師養成機関も確立しているのだという(本書p.49より)。このような多様な医療の在り方を知ることは,看護師としての視野を広げ,海外での医療活動のみならず,日本の医療機関を受診する外国人患者の生活背景や患者にとっての理想の医療を理解する上でも役立つだろう。

 評者が本書の中で特に好きなところは,海外の医療支援の現場での経験を基に書かれたエピソードの数々だ。「成功体験」だけでなく,文化の違いや教育の違いによって「苦労したこと」や「うまくいかなかったこと」についても実体験が記載されている。これらのストーリーを読みながら,国際看護学の著名な先生方も,試行錯誤し時には悩みながら,キャリアを積み重ねてきたのかと感嘆した。

 本書には,大先輩たちが築いてこられた国際看護の歴史や伝統,経験がぎゅっと詰まっている。国際看護をめざす看護師・看護学生のためのマイルストーンである。バトンを受け取り,次世代の看護教育に活用していきたい。

B5・頁228 定価:本体2,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-04078-5


乳幼児健診マニュアル 第6版

福岡地区小児科医会 乳幼児保健委員会 編

《評者》岡 明(埼玉県立小児医療センター病院長)

乳幼児健診にかかわる多職種にとって必携の書

 乳幼児健診は,小児医療保健活動の中心にあります。子どもに接した経験の乏しい保護者が増えてきており,地域社会でのつながりも希薄化している中で,健常な子どもとその家庭への支援は以前にも増して重要になってきています。健診はまさにその場であるということができます。

 しかし,乳幼児健診は医学教育の中でまとまって勉強する機会は乏しく,実際の健診の手技などを系統的に教わることは通常はありません。健診者によって方法も一定ではありません。また集団健診と個別健診では,健診の構造やかかわる職種も異なってきます。こうした地域による健診の差を減らし,健診精度の管理を行うなどの標準化の取り組みは今後の小児保健の重要な課題であると思います。

 福岡地区の小児科医会である丹々会は,早くから健診票を作成し,健診のための研修を定期的に開催するなど,地域としての乳幼児健診の標準化に取り組んできており,その継続的な活動に心から敬意を表したいと思います。本書はその研修の手引書として1985年に刊行されたマニュアルが前身と伺っております。ですので,35年の歴史があり,その間に多くの先生方の尽力によって改訂が重ねられてきております。すでに本書は医師のみならず保健師や助産師など乳幼児健診にかかわる多職種にとって必携の書となっているかと思います。

 本書の構成の特徴は,乳幼児健診の全てを俯瞰する総論の部分と,月齢年齢別に分けた各論の部分に加えて,育児相談・育児支援の部分が3分の1を占めることにあるかと思います。

 少子化時代の乳幼児健診は,子どもにあまり接した経験がなく子育てに自信のない母親の育児不安を支援する非常に貴重な機会となっています。乳幼児健診の場面での会話は,医療者が母親と子どもの生活について話ができる貴重な時間ですので,生活習慣,栄養,事故防止,スキンケアなど,こうした生活に深く関係する内容についていかに上手に保健指導ができるかが,健診の質を高めることになると思います。特に,育児不安の母親の場合や子ども虐待の可能性が疑われる場合など,配慮を要する対応についても記載されています。

 本書が改訂を続けている理由として,最新の医学的知見に基づいた健診のアップデートの必要性があります。今回の改訂でも,食物アレルギーについての食品除去を最小限にするという変更が記載されており,現場での保健指導にも役立つものと思います。また先天性股関節脱臼の新しい健診方法や,WISC-5が公表され診断基準が変更された発達障害についても,最新の記載となっています。こうした領域は保護者にとっても非常に関心の深いところですので,健診にかかわる多職種の間の最新知識の共有が必要であると思います。

 本書は,それぞれの項目のエッセンスが,わかりやすさを重視してコンパクトにまとめられている実用性と使いやすさが魅力です。多職種によって現場で活用され,本書は健全な次世代の育成に寄与するものと思います。

B5・頁168 定価:本体3,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03935-2

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