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もやもやした臨床の疑問を研究するための本
緩和ケアではこうする

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質問紙調査や前後比較研究、新しいプロジェクトの評価…どんな研究にも、論文を効率的にまとめるための「型」があった! 抄録や対象・方法、考察を書くためのフォーマット、英文のお決まりの表現方法、査読への対応の仕方まで、この1冊でわかります。 緩和ケア研究第一人者の著者による、臨床をしながらできる、臨床を変えるための、臨床研究のまとめ方の本。
森田 達也
発行 2020年04月判型:B5頁:284
ISBN 978-4-260-04085-3
定価 3,960円 (本体3,600円+税)

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  • 目次
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はじめに

 そもそも筆者が緩和ケアをやっている理由は別に研究をしたいからではないのですが,なんだか最近,「研究する人」として紹介されます。まあいいや,そのノリで書いてしまおうということで,2011年に青海社より発刊した『臨床をしながらできる国際水準の研究のまとめ方─がん緩和ケアではこうする』*を刷新して,研究の仕方を緩和ケア領域に限って一から書く本にしてみました。 * 後継書は『ウラを知って先が読める! 緩和ケアの研究論文27』(青海社)として出版予定です。
 最近,かなり幅の広い層からいろいろな「研究に関すること」を聞かれます。緩和ケアのすそ野が広がってきていて嬉しいことです。どの領域でも,おおむね自分の通ってきた道の質問が多く,まとめておくのも悪くないかなと思いました。

 本書の特徴はいくつかあります。
 まず,本書のカバーする範囲は下のイラストの通りです。横幅としての領域は緩和ケアだけに絞ってあります。緩和ケアのように「どうやって研究したらいいか方法が定まっていない領域」の方が読んでも通じるところは多いかなと思います。一方,臨床研究一般や論文の書き方一般についてはすでに多くの本があるようなので,そちらとあわせて読んでください。
 内容の水準というか深さは,プロ・プロ級の人「以外」に役に立つように書いたつもりです(プロ級の人は対象外なのであしからず)。研究といっても幅があります。病院内でまとめる時にも,国内学会(の地方会)でも,もし国際誌に発表するとしてもまあまあ通用するようにしたつもりです。「本当の研究者」からみたら,「おいおい,ほんとかよ~」というところはありますが,そこは大人の対応で目をつぶってもらえればと思います。もう1つは,臨床家が臨床をしながらでもできる,ということを念頭に置きました。もともと筆者は「全人的医療を実現する臨床医」になるべく,大学を卒業後,臨床にいることを望んできました。学生時代,「研究」は全人的医療とは相容れないのではないかなぁと思っていました。しかし,現実に,「苦痛が取れない」患者さんを目の前にするにつれて,「もっと新しい(novelな)方法は」,少なくとも「もっとましな(betterな)方法は」ないのだろうかと思うようになり,研究をすることは緩和ケアの臨床家の責務なのではないだろうかと思うようになりました。それ以来,「臨床家として研究をする」というところにはちょっとこだわりがあり,そんなに厳密でなくてもいいから,少し先に進められる研究,臨床のテーマがそのまま課題になった研究,が好きです。臨床家の視点を失わないようにしました。
 正直さ,も気をつけたことです。執筆時点でわかっていないところがいっぱいありますが,わかっていないことはわかっていない,たぶんこうなるんじゃないかと思う,違っているかも,のような書き方をしています。裏事情的なやばそうなことでも,書いてもそう支障がないだろうということはわりと書きました。本書で「まだ定まっていない」と書いたところが10年経ってあの頃はまだまだだったなぁといえるようになることそのものが,人生の目標です。
 最近の筆者の書籍に見られるように,お行儀のいいことは他書を見てもらうこととして,筆者の考え方を前面に出しました。具体的に扱った研究も,「裏事情」もわかる筆者の研究チームで行ってきたことから選びました。研究パラダイムは異なる人もいると思いますので,これが絶対的に正しいという視点ではなく,あいつ適当なこと言ってんなぁという視点でも見てもらえればと思います。
本書のカバーする範囲
 本書が,1人でも多くの方に研究をすることに関心をもっていただき,できれば国際的なレベルでも通用する方法を“技術”として身につけることに役立てば幸いです。世の中のたいていのことは習うより慣れるものであり,案ずるより産むが易しです。ぜひ,1人でも多くの方がこの機会に,研究するという作業を面白いと感じ,患者さんから教えていただいたことをきちんと次の世代へ,他の人へ伝えていくことができるようになればと思っています。
 最後に,お名前をお1人ずつ挙げることはできませんが,これまでご指導いただいた先生方,それにも増して,一緒に苦労してきた臨床フィールドの先生方と,最近では後輩たちに感謝いたします。本書の作成にあたっては,20年来の盟友でもある『ターミナルケア』誌から『緩和ケア』誌をともに作ってきた青海社の工藤良治さん(仕事は違っていても同じ時代を支え合いながら駆けてきました),筆者の最近の書籍に一編集者を超えて大きく力を貸してくれている医学書院の品田暁子さん,そして図表をいくつにもわたって整理・修正・作成・仕上げしてくれた内藤明美先生(宮崎市郡医師会病院)に感謝します。

 2020年2月
 森田達也

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はじめに

Part 1 やりたいこと別! 研究の進め方
 総論 技術的なことから研究観まで
  1 具体的な研究を考える段階でしておくべき技術的なこと
  2 何のために研究をするのか?──研究している時に思いをめぐらしてほしいこと
  3 みんなに当てはまるかわからないけれど,筆者が大事にしている研究観
 各論 このタイプの研究はこう進める
  1 アンケートを1回やって対象者の体験を明らかにしたい
  2 アンケートで比較をしたい/○○な人は××な傾向があることを示したい
  3 治療を受けた前後を観察して,効果があった(らしい)ことを示したい
  4 対象を前向きに一定期間観察して,○○は××に関係することを示したい
  5 新しいプロジェクトをした結果を伝えたい!
  6 何かのイベントが起こることを予測するツールを作って,
      予想が当たることを示したい
  7 ○○を測る尺度を作りたい
  8 定義のはっきりしていないことをみんなで話し合って,統一した定義を提案したい
  9 どちらの治療がより効果があるのかをちゃんと示したい

Part 2 「型」で書く! 研究論文の書き方
 総論 論文を書く時に役立つちょっとした知恵
  研究論文を書く時に知っているといいこと
 各論 「型」を頼りに論文を書く
  1 査読の仕組みを知る:投稿から掲載されるまで
  2 抄録:抄録だけを読んでわかるように
  3 はじめに:何がわかっていて何がわかっていないのか>目的の順に
  4 対象・方法:概要>対象>方法>評価方法>介入>統計解析の順に
  5 結果:対象の背景>主要評価項目>副次評価項目の順に
  6 考察:他の研究との比較と限界を書く
  7 査読に対応する

Appendix
  1 遺族調査の調査票の例
  2 後づけで説明変数の因子分析をなんとかする方法
  3 受理された論文の返信例

索引

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「なんとかしたい!」臨床疑問を研究にする技術
書評者: 宮下 光令 (東北大大学院教授・緩和ケア看護学)
 本書は「臨床で困っていることを研究でなんとかしたい」「でも,どこからどう手を付けていいかわからない」もしくは「論文を書きたい」「しかし,どこからどう手を付けていいかわからない」という看護師のための本である。

 臨床現場で困っている,なんとかしたい気持ち,それが本書でいう「もやもや」である。それを解決するために研究にチャレンジしようと考えて看護研究に関する書籍を読んでみるのだが,「どうにもピンとこない」。看護研究の書籍にはいろいろな研究の方法論や統計が網羅的に書かれているのだが,どうやったらそれを目の前の疑問の解決につなげられるのか,わからないのである。

 研究には看護と同様に「経験知」という側面が強い。教科書を読んだだけで看護ができる人がいないように,研究も経験を積まないと場面場面での判断は難しい。逆にいえば,経験を積んだ人は,「こういうときにはこう整理して,こう考える」という言語化しにくいパターンが身についているものである。看護であってもなくても,常に正しい判断をしている人に会うと,「この人の頭の中はどうなっているのだろうか?」と思うことがある。

 森田達也氏は臨床研究で500本以上の論文を世に出してきた,緩和ケアの分野のいわば世界的巨匠であり,評者のメンターでもある。森田氏とは20年来のお付き合いになるが,素晴らしいところは,常に「臨床の疑問を解決するために」研究活動を行ってきたところである。そして,本書では森田氏の数多くの経験から,臨床疑問をどのように研究に発展させていったらよいか,壁に当たったらどのように考え,克服するかという「森田氏の頭の中はどうなっているのだろうか?」という森田氏の身につけたノウハウやパターンをわかりやすく整理し,惜しみなく開示してくれている。森田氏はそのパターンを「技術」という。研究に特殊な才能やひらめきは必要ない。事実に基づき頭の中をこのように整理していけば研究として形にできるのである。

 本書は2つのパートから成っている。前半のパートは上記のように研究の進め方に関するもので,後半は論文の書き方である。森田氏は論文の書き方も「技術」として「型」に当てはめて書く方法を指南する。特に論文執筆で一番難しい「はじめに」と「考察」の型は秀逸であり,これを読むためだけにでも買う価値がある。

 さらに私たち看護師に好都合なことに,看護学研究と緩和ケアの研究は似ている。医学研究では薬剤の投与と血糖値や死亡などの客観的な指標に対する効果を見る臨床試験などがメジャーな研究手法である。しかし,看護学研究や緩和ケアの研究はエンドポイントがQOLなど客観的な測定が難しいものが多く,また,介入自体が治療やケアの担い手である医師や看護師,その他の職種と患者・家族の相互作用によってもたらされることが多い。医学研究ではいまだ傍流であろう質的研究も多用される。したがって,本書で紹介されているノウハウは,ほとんど全てが看護研究にも当てはまる。例示されている研究も私たち看護師にとってわかりやすい。買わないわけにはいかない,ライバルには教えたくない本である。

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