看護のアジェンダ
[第186回] 不要不急について
連載 井部 俊子
2020.06.22
看護のアジェンダ | |
看護・医療界の"いま"を見つめ直し,読み解き, 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。 | |
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井部 俊子 長野保健医療大学教授 聖路加国際大学名誉教授 |
(前回よりつづく)
「東京都の昨日の(新型コロナウイルス)感染者は2人でした」という報道に,そろそろ“夜明け”が近いと胸をなでおろす。緊急事態宣言が出されて「不要不急」の外出を避ける,県境を越えた外出はしないように,というなかで,私は人目をはばかるようにして(?),職場のある長野に通っている。いくつかの会議も,オンライン授業のための収録も,私にとって「必要」であり,それなりに「急ぎ」の仕事であると自分に言い聞かせての出勤である。
人生とウイルスの不要不急論
「不要不急」について養老孟司さんが興味深い論考を寄せている(朝日新聞,2020年5月12日付「オピニオン」)。見出しには,「人生は本来 不要不急」とある。
養老さんは解剖学者として多くの著書を出版されているので,医療界のみならず著名人である。『バカの壁』(新潮新書)を読んだという人も多いかもしれない。私もそのひとりである。
養老さんは,新型コロナウイルスに関連する報道が盛んになって印象に残った言葉が「不要不急」であり,「この不要不急は,じつは若い時から私の悩みの一つだった」というのである。その理由が解き明かされる。開業医の母に医学部への進学を勧められたこと。国家試験に合格し医師免許も取得したが,インターン生活を経て責任を持って患者さんを診ることなど自分にはとうていできないと考えたこと。それなら勉強を続けようと精神科の大学院に進もうとしたが志願者が多く,クジを引くことになりはずれたこと。そこで,医学のいちばんの基礎とされた解剖学を学び直そうと「第一基礎医学」の大学院を受験して,めでたく合格したのである。ところが就職して1年目の終わりに大学紛争が起こった。「ヘルメットにゲバ棒,覆面の学生たちが20人ほど押しかけてきて『この非常時に研究とはなにごとか』と研究室を追い出された。(中略)お前の仕事なんか要するに不要不急だろう,と実力行使された」。そのため養老さんは,不要不急に「敏感」になったのである。
紛争が終わっても養老さんは,学問研究にはどのような意味があるのかを問い続けることになる。「自分の仕事は根本的には不要不急ではないか。ともあれその疑問は,たえず付きまとっていた。(中略)世間がどういう仕事を私に要求し,他方,私はどういう仕事をしたいと思っているのか」。そしてこの両者に一致点があまりないことに気付き,大学を辞したという。
次に,ウイルスにも不要不急はあるのかに話は展開する(ここがハイライトである)。寄生虫にとって宿主の死は自分の死を意味するから,宿主が死なないように配慮している。ウイルスの場合も最終的に似たことになるに違いない。つまりこういうことである(少し長いが引用したい)。「ヒトは適当に感染し,適当に病気になり,適当...
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