図書館情報学の窓から
[第6回] Plan Sがやって来る ヤァ! ヤァ! ヤァ!(後)
Plan Sに乗るか否か?
連載 佐藤 翔
2019.11.04
図書館情報学の窓から
「図書館情報学」というあまり聞き慣れない学問。実は,情報流通の観点から医学の発展に寄与したり,医学が直面する問題の解決に取り組んだりしています。医学情報の流通や研究評価などの最新のトピックを,図書館情報学の窓からのぞいてみましょう。
[第6回]Plan Sがやって来る ヤァ! ヤァ! ヤァ!(後) Plan Sに乗るか否か?
佐藤 翔(同志社大学免許資格課程センター准教授)
(中編よりつづく)
◆前回(第3341号)のあらすじ
「今,図書館が雑誌の購読料として支払っている金額を全てAPCに振り替えれば,全ての論文はすぐにでもオープンアクセス(以下,OA)にできる」。この理想論を,実際に推し進めていこうとしているのがPlan Sです。
*
Plan Sを発表したcOAliton Sは,英仏はじめ欧州11公的助成機関が立ち上げたコンソーシアムで,助成総額は年間約76億ユーロと目されています。その目的は自分たちが助成した研究成果のOA化を進めることで,現在のPlan Sでは「2021年までに,公的助成を受けた研究の成果は全て,Plan Sの要求に準拠したOA雑誌またはOAプラットフォームで公開されること」を要求しています。
2019年9月現在ではcOAlition S加盟機関は22団体に拡大しています。欧州の研究者の大多数が影響を受けるのはもちろん,ビル&メリンダ・ゲイツ財団やWHOも加盟しており,直接の助成対象者だけでも,影響範囲はかなり広いことになります。
Plan Sのウェブページではコンソーシアム立ち上げの理由として,独,仏等で,大学・図書館らを中心に国単位でのOA化推進契約に対する出版社との交渉が難航している状況を挙げています。OA化推進の圧力をかけるためにも,国レベルではなく国際的に,しかも研究者の意思決定に多大な影響力を持つ(なにせ財布を握られているわけで)研究助成機関が動くことに意義があると考えたわけです。
*
研究成果OA化に向け,Plan Sでは以下の10の原則が掲げられています(一部割愛・要約,補足しています)1)。
1)出版物の著作権は著者(または所属機関)が保持する。全ての成果はオープンライセンスの下で公開されねばならない(CC-BYが望ましい)。
2)(Plan S遵守と見なす)OA雑誌,OAプラットフォーム,OAリポジトリの基準と要件は参加助成機関が定める。
3)適切なOA雑誌等が存在しない場合には設立・運営を支援する。
4)OA出版にかかる料金(APC)は助成機関または所属機関が負担し,研究者個人には課さない。全研究者が自身の成果をOAにできるようにすべきである。
5)OA出版にかかる料金はサービスに見合った金額でなくてはならず,価格の根拠は市場・助成機関にとって透明性のあるものでなければならない。その情報に基づいて,OA料金の標準化・上限設定の可能性がある。
6)透明性担保のために,政府・研究機関・図書館・学会等のポリシーなどの(Plan Sへの)整合を推奨する。
7)本原則はあらゆる学術出版物に適用されるものの,単行書や本の章のOA化はより時間がかかること,異なるプロセスが必要となることは理解している。
8)(追加料金を払って購読型雑誌掲載論文の一部をOAにする)ハイブリッドOAは認めない。ただし,期限を定めて完全なOAに移行する過程でOA移行型契約の一部として支払われる場合は,期間限定で助成対象とする。
9)参加機関は助成対象者らの原則の遵守・違反状況を監視する。
10)参加機関が研究成果を評価する場合には,出版の手段やインパクトファクター(等の雑誌単位の評価指標),出版社名を考慮せず,業績の本質を評価する。
10の原則を見て目につくのは,OA実現手段のうち機関リポジトリ等での論文公開(いわゆるセルフ・アーカイブ)への言及が少ないこ...
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