医学界新聞

図書館情報学の窓から

連載 佐藤 翔

2019.12.02



図書館情報学の窓から

「図書館情報学」というあまり聞き慣れない学問。実は,情報流通の観点から医学の発展に寄与したり,医学が直面する問題の解決に取り組んだりしています。医学情報の流通や研究評価などの最新のトピックを,図書館情報学の窓からのぞいてみましょう。

[第7回]フェイク情報と図書館の闘い

佐藤 翔(同志社大学免許資格課程センター准教授)


前回よりつづく

 2016年の米大統領選挙以来,広く認識されるようになったフェイクニュースの問題。日本でもソーシャルメディアを介した誤情報・デマの拡散はすっかり社会問題として定着してしまいました。悪質なあおり運転車の同乗者として名指しされた無関係の女性が弁護士を介し声明を発表した事件などは記憶に新しいかと思います。

 こうした「フェイク」の性質を検証し,どう立ち向かうかは,さまざまな領域で熱心に研究・議論されているところです。その中で主に米国を中心に注目を集めているのが,実は図書館の役割であったりします。これは米国の図書館員たち自身の中に「フェイク情報に立ち向かうことは図書館の役割である」という認識があることに加え,米国において図書館が「信頼できる情報源」であると認知されているからです。

 米国の調査機関Pew Research Centerによれば,米国の成人に情報源に対する信頼性を尋ねたところ,地域のニュースを「非常に信頼できる」と評価したのは18%,政府も同じく18%,全国ニュースは17%にとどまったのに対し,医療従事者は39%,そして地域の公共図書館・図書館員は最も高い40%でした1)。ジャーナリズムや政府に対する信頼が低下する中,公共図書館が信頼を保ち続けていることは,米国の図書館界が公平・中立を保ち,正しい情報を提供しようと努力し続けてきた成果の表れと言えそうです。

 もっとも,件の調査によればソーシャルメディアを「非常に信頼できる」と評価したのはわずか3%で,人々がその通りに思って行動しているなら,フェイク情報が何でこんなに問題になっているのか,という気もします。

 そもそも図書館が実際どのようにフェイクに立ち向かおうというのでしょうか。

 一つには,人々が情報を評価・活用する能力,いわゆる情報リテラシー能力の向上に貢献する,というアプローチがあり得ます。ただ,大学図書館や学校図書館はともかく,公共図書館が人々に教育プログラムを提供する……というのは,参加者も限られ,さほど効果は望めないでしょう。大学・学校図書館での教育成果の浸透には時間がかかるので,即効性にも欠けています。

 そんな中,「もっと直接的に,すぐに効果が出るアプローチはないか。そうだ,公共図書館がそんなに信頼されているというなら,その信頼されている図書館,あるいは図書館界が,フェイク情報に直接『間違ってるよ!』と言ってみてはどうだろうか……」という研究が今年,発表されました2)

 「Leveraging library trust to combat misinformation on social media(図書館の信頼を活用してソーシャルメディア上の誤情報と闘う)」という勇ましいタイトルのその論文は,『Library & Information Science Research』誌の2019年1月号トップを飾りました。著者は米ハーバード大の図書館員のM. Connor Sullivan氏です。

 この研究の対象はインフルエンザワクチンに関する誤情報です。図書館情報学者にすぎない自分が本紙で述べるのも釈迦に説法ですが,米国ではインフルエンザワクチンの接種率が例年低いことが問題視されています。その一因として,「インフルエンザワクチンを打つとインフルエンザにかかる」という誤情報が広く認知されてしまっていることがあると言われています。

 そこでSullivan氏は,まさにこの誤情報を拡散しようという記事がソーシャルメディア上に...

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