図書館情報学の窓から
[第5回] Plan Sがやって来る ヤァ! ヤァ! ヤァ!(中)
オープンアクセスの限界と,打破する方法の模索
連載 佐藤 翔
2019.10.07
図書館情報学の窓から
「図書館情報学」というあまり聞き慣れない学問。実は,情報流通の観点から医学の発展に寄与したり,医学が直面する問題の解決に取り組んだりしています。医学情報の流通や研究評価などの最新のトピックを,図書館情報学の窓からのぞいてみましょう。
[第5回]Plan Sがやって来る ヤァ! ヤァ! ヤァ!(中) オープンアクセスの限界と,打破する方法の模索
佐藤 翔(同志社大学免許資格課程センター准教授)
(前編よりつづく)
◆前回(第3336号)のあらすじ
主に査読済み論文を「インターネットへのアクセス自体を除く経済的,法的,技術的な障壁なく利用できるようにすること」をめざすオープンアクセス(以下,OA)。夢想にも思われましたが,研究助成機関によるOA義務化方針等の後押しを受け,今や世界の論文の3分の1もがOAとなるに至っています。
しかしどれだけOAが進んでも,従来の購読型(読者=所属機関の図書館等が購読料を支払う)雑誌の値上がりは続き,むしろOA雑誌に支払う掲載料が増えた分,出版社に支払う総額は増えたとの指摘すらあります。どうしてそんなことになったのでしょう?
*
学術雑誌の値上げが続くのは,値上げしても買う人(大学・図書館)がいるからです。価格と需要が連動しない理由は複雑なのですが,一つには論文は他で替えがきかない(「この論文が載っている雑誌は高いので,安い雑誌の別の論文にする」わけにはいかない)ので,必要な人は高かろうが買うしかない,ことがあります。
裏を返せば,読みたい論文が購読型雑誌以外の場所で入手できれば,高い雑誌を買う必要性は下がるはずです。OA運動にかかわる図書館関係者はそう期待したものの,現実は異なりました。いろいろ原因はありますが,根本的な理由は,確かにOA論文は増えたものの,購読型雑誌に載る論文も特に減っていない,どころか増えたためです。
図は文献データベースScopusを用いて,2000~16年にかけての収録文献数を集計したものです。2014年以降はペースが落ちたものの,それまで前年比4%以上収録文献が増え続け,2016年には2000年の2倍以上になっています。この中には会議録論文等も含まれますが,原著論文に限定しても,2000年には100万本程度だったものが2016年には約200万本と,やはり2倍近くに増加しました。同じ期間におけるOA論文の割合の推移を追うと,2000年に19.2%であったものが,2016年には34.7%でした1)。データソースが異なるものの,仮にこの割合とScopusのデータを照合すれば,非OA論文数は,2000年に100万本程度だったものが,2016年には約200万本になったと考えられます。Scopus収録雑誌数の拡大を考慮しても,OAの割合が高まったと言っても,購読型雑誌に掲載される非OA論文は増える一方なのです。
図 2000~16年のScopus収録文献数の推移 |
これはなぜでしょうか。ほとんどの国で研究はますます盛んになり,発表論文数も増えています。既存の雑誌ではそれら増えた論文に対処しきれず,新創刊の必要が高まります。とはいえさすがにどの施設も雑誌購読費増にあえぐ昨今,購読型雑誌を創刊してもよほど魅力的でなくては買ってもらえません。必然,新創刊するならOA雑誌が狙い目になり,OA雑誌専門の出版社が複数立ち上がったのみならず,購読型雑誌出版社もOA雑誌を創刊しました。OA論文の割合増加の大部は,これら増加する論文の発表需要を満たす新創刊にあり,購読型雑誌の論文がOAに乗り換えたわけではないのです。
*
さらに事態をややこしくしたのは,購読型雑誌の中で追加料金を払った論文のみOAにできる,いわゆるハイブリッド型OAの存在です。既存の有名誌で論文は発表したい,さりとてOAにもしたい,という需要を満たすものとして,OAが知られるようになって比較的早期に多くの雑誌で導入されたモデルですが,当初は追加料金を払ってまでOAにする人はほとんどいませんでした。
しかし近年ハイブリッド型OA論文が増加......
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