医学界新聞

連載

2017.06.19



目からウロコ!
4つのカテゴリーで考えるがんと感染症

がんそのものや治療の過程で,がん患者はあらゆる感染症のリスクにさらされる。がん患者特有の感染症の問題も多い――。そんな難しいと思われがちな「がんと感染症」。その関係性をすっきりと理解するための思考法を,わかりやすく解説します。

[第13回]細胞性免疫低下と感染症③ 鑑別を絞り込む

森 信好(聖路加国際病院内科・感染症科副医長)


前回からつづく

 前回は細胞性免疫を低下させるがんの種類や治療について具体的にお話ししました。がん種では悪性リンパ腫が有名ですが,なかでもT細胞リンパ腫,特に血管免疫芽球性T細胞リンパ腫(AITL)や成人T細胞白血病・リンパ腫(ATLL)は細胞性免疫低下を引き起こす最たるものでした。がんの治療では同種造血幹細胞移植やステロイドの使用は当然ですが,プリンアナログのフルダラビンと抗CD52モノクローナル抗体のアレムツズマブに要注意であることを強調しました。

 鑑別すべき微生物が非常に多岐にわたる「細胞性免疫低下の感染症」。実臨床でどのように鑑別を広げていけば良いのか,今回は症例を見ながら解説していくことにしましょう。

微生物の鑑別が多すぎる?

症例
 末梢性T細胞リンパ腫に対して入院のうえゲムシタビンおよびオキサリプラチン投与中の56歳日本人男性。7日間持続する好中球減少あり。好中球減少者の発熱に対してセフェピムが開始されているが,徐々に増悪する咳嗽と呼吸困難が出現。意識清明,血圧 143/87 mmHg,脈拍数 100/分,呼吸数 20/分,体温 37.6℃,SpO2 94%(RA)。身体所見では頭頸部,腹部,背部に異常なし。胸部では右下肺野にcoarse crackleを聴取。また,上下肢に散在する5 mm程度の結節性病変を認める。PICCが挿入されているが明らかな炎症所見なし。胸部CTで両側肺野に結節影および右下葉にair bronchogramを伴うconsolidationあり。

 これは第11回(3220号)で提示した症例です。末梢性T細胞リンパ腫がありますので,がんそのもので「細胞性免疫低下」,さらにゲムシタビンによる「バリアの破綻」と「好中球減少」を起こしています。

 ゲムシタビンでは中等度の好中球減少が見られますが,高度の好中球減少が起きることはまれです。つまり,緑膿菌をはじめとする細菌感染症は念頭に置くべきですが,糸状菌感染症まで鑑別に挙げる必要はなさそうです。

 ですので,ここは「細胞性免疫低下」を軸に鑑別を広げていきましょう。

 細胞性免疫低下では微生物を4つのグループに分けて考えることをオススメしましたね。そう,「細菌」「ウイルス」「真菌」「寄生虫」です(第11回)。

 さて,問題はここからです。漏れなく鑑別を挙げるのは良いことですが,ただ羅列するだけでは実臨床に生かすことはできません。「鑑別した微生物に重み付けをして絞り込んでいく」。この作業こそが最も重要なのです。

 なお,感染している微生物は必ずしも単一とは限らない,というのが「がんと感染症」の特徴ですので注意しましょう。

こうやって鑑別を絞り込もう

 「細胞性免疫低下の感染症」の鑑別では,微生物がどの臓器に感染を起こすかを熟知している必要があります。臓器は肺,皮膚軟部組織,中枢神経,その他の4つに分けて考えるとスッキリします(表1)。

表1 4つのグループの微生物を臓器別に見た特徴(文献1~5より作成)(クリックで拡大)

 その上で,地域流行性のある微生物(ロドコッカス,ブルセラ,コクシエラ,ヒストプラズマ,コクシジオイデスなど)や明らかな環境暴露が必要な微生物(ロドコッカス,ブルセラ,リケッチアなど)を加味して考慮しましょう。実際に日本で医療をする分には,一部を除いてこれらの特殊な微生物を考慮する必要はないので,鑑別はぐっと狭くなりますね。

 肺病変を見たときには,浸潤影(consolidation),結節影(nodules),空洞影(cavitary

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