医学界新聞

連載

2017.04.17



目からウロコ!
4つのカテゴリーで考えるがんと感染症

がんそのものや治療の過程で,がん患者はあらゆる感染症のリスクにさらされる。がん患者特有の感染症の問題も多い――。そんな難しいと思われがちな「がんと感染症」。その関係性をすっきりと理解するための思考法を,わかりやすく解説します。

[第11回]細胞性免疫低下と感染症① どの微生物を考慮すべきか

森 信好(聖路加国際病院内科・感染症科医幹)


前回からつづく

 今回からは数回にわたり「細胞性免疫低下と感染症」について解説していきます。好中球減少や液性免疫低下における感染症はその進行スピードが早いため迅速な対応が必要でしたね。ただし,感染症を引き起こす原因微生物の種類はさほど多いわけでもなく,経験的治療で抗菌薬を選択する際にあまり苦労することはありませんでした。一方,今回お話しする細胞性免疫低下の感染症はそこまでのスピード感はありませんが,原因微生物が非常に多岐にわたるため,広範かつ緻密な鑑別を要します。がんの感染症における「主役の一人」と言われるゆえんです。

細胞性免疫低下の感染症は難しい?

症例
 末梢性T細胞性リンパ腫に対してゲムシタビンおよびオキサリプラチン投与中の56歳男性。1週間持続する38℃台の発熱と徐々に増悪する呼吸困難。皮膚に散在する5 mm程度の結節を認め,胸部CTで両側肺野に結節影および右下葉にair bronchogramを伴うconsolidationあり。

 本連載にお付き合いいただいている読者の方は,既に4つのカテゴリーに分けて考えるクセが付いているので,この症例もお手上げ状態ではありませんね。つまり,第2回(3183号)で少し述べたように,末梢性T細胞性リンパ腫は「がんそのもの」によって「細胞性免疫が低下」しています。そこに,ゲムシタビンによる「バリアの破綻」と「好中球減少」が加わっている状況です。

 さあ,ここからが問題です。細胞性免疫低下の感染症に苦手意識を持つ読者は,おそらく多いのではないでしょうか。事実,実臨床でも症例検討会でも悩まれている方をよく目にします。鑑別があまりにも多岐にわたり,診断もしばしば困難に陥るからです。

 でも決して難しいことではありません。確かに原因微生物は多岐にわたりますが,漏れがないようしっかりと鑑別を挙げることで解決できるからです。また,一般細菌培養検査(血液や痰培養)で診断できないことが多いからこそ,“Tissue is the issue”,つまり積極的に生検を行い,一般細菌に加えて抗酸菌,真菌培養検査,病理学的検査を行うことで診断に近づくことができるのです。

「細胞性免疫」の概要を理解しよう

 まずは細胞性免疫の概要を復習しましょう1)。少しややこしい話もありますが,ここをしっかりと理解しておくと後が楽になります。

 さて,細胞性免疫における主役はT細胞ですね。さらにT細胞に抗原提示する樹状細胞や,T細胞による司令を実行する単球・マクロファージなどが脇役として活躍することになります。

 ご存じのようにT細胞には,CD8陽性の細胞傷害性T細胞(cytotoxic T lymphocytes;CTLs)とCD4陽性のヘルパーT細胞(helper T cell;...

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