医学界新聞

連載

2017.05.22



目からウロコ!
4つのカテゴリーで考えるがんと感染症

がんそのものや治療の過程で,がん患者はあらゆる感染症のリスクにさらされる。がん患者特有の感染症の問題も多い――。そんな難しいと思われがちな「がんと感染症」。その関係性をすっきりと理解するための思考法を,わかりやすく解説します。

[第12回]細胞性免疫低下と感染症② 細胞性免疫低下を引き起こすがんと治療

森 信好(聖路加国際病院内科・感染症科副医長)


前回からつづく

 前回から,「がんの感染症」における主役の一人である「細胞性免疫低下と感染症」についてお話ししています。非常に幅広い微生物の鑑別を要することを強調したために,やや圧倒された読者もいらっしゃるのではないでしょうか。今回は細胞性免疫を低下させるがんやがんの治療について具体的に説明していきたいと思います。

細胞性免疫不全を引き起こすがんは何か?

 液性免疫不全同様,固形腫瘍そのものではまず問題となりませんが,血液腫瘍では悪性リンパ腫,特にT細胞リンパ腫が細胞性免疫を著しく低下させます。今回は,その中でも特に重要な2つのT細胞リンパ腫をご紹介します。末梢性T細胞リンパ腫(Peripheral T-cell lymphoma;PTCL)と成人T細胞白血病・リンパ腫(Adult T-cell leukemia/lymphoma;ATLL)です(図1)。

図1 細胞性免疫を低下させる疾患

 PTCLはさらに細かく分類されます1)が,最も警戒すべきは,血管免疫芽球性T細胞リンパ腫(Angioimmunoblastic T-cell lymphoma;AITL)です。CD4陽性T細胞から発生する2)ため,CD4の機能が著しく障害されます。「AITLはまるでAIDSのようだ」とMDアンダーソンがんセンターの医師が言っていたのが強く印象に残っています。

 もう一つのATLLは,ご存じのようにヒトTリンパ球向性ウイルス1型(Human T-lymphotropic virus type-1;HTLV-1)の感染が原因ですね。日本の西南部(九州や沖縄)やカリブ海沿岸は好発地域になっています。HTLV-1はHIVと同様にCD4陽性T細胞に感染を起こしますが,HIVではCD4数が減少するのに対して,HTLV-1はCD4数を腫瘍性に増殖させます。

 ATLLの診断時,26%が何らかの感染症にすでに罹患しているという興味深い報告3)が日本から出ており,とりわけ糞線虫(Strongyloides stercoralis)の感染症が多いことが知られています。特に沖縄で医療をされている読者の方はなじみの深い感染症でしょう。しかし,それ以外の方はあまりピンとこないかもしれませんね。詳細についてはここでは割愛しますが,細胞性免疫不全においては,腸管にいる糞線虫が腸内細菌を引き連れて全身に播種します。その結果,敗血症性ショックや重症肺炎,髄膜炎などを来す過剰感染症候群(hyperinfection syndrome;HIS)という非常に重大な感染症を引き起こします。これについては今後別の機会に実際の症例をもとに詳述することにしましょう。

少し気を引き締めるべき治療とは

 では次に,細胞性免疫を低下させるがん治療にはどのようなものがあるか見ていきましょう。

 さまざまな化学療法の中でも特に注意が必要なのは,プリンアナログであるフルダラビンと抗CD52モノクローナル抗体であるアレムツズマブです。普段から「がんの感染症」をよくみる感染症科医としては,これらが投与されている患者さんを診察するときには,普段よりも「少し気を引き締める」ことになります。

 まず,フルダラビンは慢性リンパ性白血病(CLL)や濾胞性リンパ腫,また造血幹細胞移植の前処置などとして使用されることがあります。リンパ球の中でも,CD4陽性T細胞を減少させる作用があります4)。特にステロイドと併用することで相乗的に細胞性免疫低下が起こり,治療を中止しても数か月間はCD4数が減少し続けることがよく知られています5)

 アレムツズマブは主にフルダラビンに不応性のCLLに対して使用するもので,フルダラビンよりもさらに脅威と...

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