「終末期」と見なす適切な時期とは?(関口健二)
連載
2017.02.06
ここが知りたい!
高齢者診療のエビデンス
高齢者は複数の疾患,加齢に伴うさまざまな身体的・精神的症状を有するため,治療ガイドラインをそのまま適応することは患者の不利益になりかねません。併存疾患や余命,ADL,価値観などを考慮した治療ゴールを設定し,治療方針を決めていくことが重要です。本連載では,より良い治療を提供するために“高齢者診療のエビデンス”を検証し,各疾患へのアプローチを紹介します(老年医学のエキスパートたちによる,リレー連載の形でお届けします)。
[第11回]「終末期」と見なす適切な時期とは?
関口 健二(信州大学医学部附属病院/市立大町総合病院 総合診療科)
(前回よりつづく)
症例
COPDで6年前から在宅酸素療法を行っている86歳女性。昨年1年間で3回の入院歴があり,退院後も体調が優れず,トイレの行き来でさえ息切れを覚えるようになった。体重はこの4 ヶ月間で3 kg減り,SpO2は酸素2 Lで90%。この患者の予後はどうか,また終末期と見なすべきであろうか。
ディスカッション◎終末期の定義とは?
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終末期の判断は現場に委ねられている
厚労省は2007年に「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン 解説編」1)を作成し,その中に「終末期には,がんの末期のように,予後が数日から長くとも2~3ヶ月と予測が出来る場合,慢性疾患の急性増悪を繰り返し予後不良に陥る場合,脳血管疾患の後遺症や老衰など数ヶ月から数年にかけ死を迎える場合」があると定義しているものの,「どのような状態が終末期かは,患者の状態を踏まえて,医療・ケアチームの適切かつ妥当な判断によるべき事柄」としている。つまり,現場の判断に委ねられているのだ。同ガイドラインは2015年に,従来の「終末期」の表記を「人生の最終段階」に変更したが,内容は2007年のままだ2)。
この曖昧で重要な問題について,断定的に論じることは不可能だが,ここでは「治癒不可能な重篤な病気が進行し,Cureをめざすことができなくなり,近い将来に死に至るかもしれない」状態と定義したい。
死に至るパターンは4つに大別される
がんは比較的経過の推定が容易であり,予後予測ツールも複数存在する一方,非がん患者の予後予測は困難であることが知られている3)。そしてがん死の割合は50~60代をピークに年齢とともに減少していき4),それ以外の非がん死が増えていくのだ。それら非がん(心疾患,COPD,脳血管障害,フレイルなど)の終末期については,まずそれぞれの死に至るパターンを知ることが重要である。
Lunneyは高齢患者が死に至るパターンについて,同じ疾患であればそのプロセスは類似しており,4つに大別されると報告した5)。このパターンに当てはまらない死はまれであるとし,現在もこの考え方が広く用いられている(図)。このうち,「いつが終末期であるか」私たちを特に悩ませるのが,臓器不全である。
図 死の過程のイメージ(参考文献5より改変引用) |
臓器不全群(主に心不全とCOPD)の機能は,図示されている通り,増悪寛解を繰り返しながら数ヶ月から数年かけて低下していく。最後まで治療法が残っていることも多い上に,疾患に対しての標準治療がCareとなり得ることもあり,積極的医療介入が終末期にも行われる傾向がある。
臓器不全群は終末期の判断が難しい
Huijbertsらのコホート研究6)によれば,臓器不全群では死亡前3ヶ月間に72.5%が入院しているにもかかわらず,終末期...
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