量的研究の落とし穴(加藤憲司)
連載
2014.10.20
量的研究エッセンシャル
「量的な看護研究ってなんとなく好きになれない」,「必要だとわかっているけれど,どう勉強したらいいの?」という方のために,本連載では量的研究を学ぶためのエッセンス(本質・真髄)をわかりやすく解説します。
■第10回:量的研究の落とし穴
加藤 憲司(神戸市看護大学看護学部 准教授)
(3093号よりつづく)
去る8月23-24日,奈良市で第40回日本看護研究学会(会長=天理医療大・中木高夫氏)が開催され,筆者も一聴衆として参加してきました。学会では,「『看護研究』の落とし穴」というシンポジウムがあり,量的研究についても取り上げられていました。そこで今回は,「量的研究の落とし穴」と題して,筆者が考える落とし穴について紙面の許す限り述べてみたいと思います。
研究上の問いはどこまで反映されているか
まず,図を見てください。これは量的研究のプロセスを3段階で図示したものです。これまでたびたび力説してきたように,量的研究の第一歩は「研究上の問い」を立てることでしたね。それは「あなたが本当に知りたいこと」に相当します。もう少し詳しく言えば,「あなたが本当に知りたい集団」における,「あなたが本当に知りたい現象」についての問いということです。でも第8回(第3089号)で述べたように,「あなたが本当に知りたいこと」はバーチャルな世界に属するものであって,それを知り尽くすことは人間の能力ではできません。そこで研究においては,実施可能な集団を選び,測定可能な現象を決め,研究計画という形にまとめます。そして計画に基づいて,実際の研究を行うわけです。
図 研究のデザインと実施のプロセス(文献1を基に筆者が改変) |
これらの3段階のプロセスを,家を建てる場合に当てはめてみると,「こんな家を建てたいなあ」というあなたの構想が研究上の問い,構想に基づいて設計図を描く(デザインする)ことが研究計画,そして設計図に従って家を建てることが研究の実施にそれぞれ相当します。ここで注意すべきなのは,研究上の問いと研究計画との間,さらに研究計画と実際の研究との間に,微妙だけれども無視できない「ずれ」があるという点です。量的研究の落とし穴は,この「ずれ」から生じるものに特に気を付ける必要があります。
図を見て明らかなように,矢印は左から右へ行ったあと,また右から左へ戻っていきます。第7回(第3085号)で述べたように,研究は循環的なプロセスだからです。左向きの矢印は2つの推論が該当します。一つは,実際の研究で得られた結果から結論を導く際の推論,もう一つは導いた結論をもっと大きな集団に適用する際の推論です。研究上の問いと研究計画との間,研究計画と実際の研究との間のずれが小さければ,左向きの推論が正しく行えるということになります。このようにずれが小さい状態のことを「妥当性が高い」と表現します。
対象者は誰を代表しているか
一つ例を挙げましょう。「冷え症」は日本人女性の2人に1人が悩んでいると言われ2),特に妊婦にとっては,妊娠に伴う症状と冷えが関連していることが指摘されています3)。そこであなたは,妊婦の冷え症と生活習慣との関連について研究してみたい,と思い立ったと仮定しましょう。中でも,東洋医学で言う陰性食品(身体を冷やす食品。葉菜類・果物など)と冷え症との関連に興味を持ったとします。あなたが知りたいこと(研究上の問い)を表すならば,「陰性食品を多く......
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