医学界新聞

連載

2014.06.09

モヤモヤよさらば!
臨床倫理4分割カンファレンス

生活背景も考え方も異なる,さまざまな人の意向が交錯する臨床現場。患者・家族・医療者が足並みをそろえて治療を進められず“なんとなくモヤモヤする”こともしばしばです。そんなとき役立つのが,「臨床倫理」の考え方。この連載では初期研修1年目の「モヤ先生」,総合診療科の指導医「大徳先生」とともに「臨床倫理4分割法」というツールを活用し,モヤモヤ解消のヒントを学びます。

■第6回 カンファレンスはどう進めたらいいの?

川口 篤也(勤医協中央病院 総合診療センター副センター長)


前回からつづく

モヤ 実はこの前,大徳先生がいないときに初めて4分割カンファレンスの司会を任されたんです。でも,うまくいかなくて……。意見が活発に出なかったのに,時間はオーバーしてしまったんです。患者や病気のことをよく知らなかったから,うまくまとめられなかったと反省しています。

大徳 ノウハウを知らず,いきなり司会をするのは確かに難しいだろうね。ただ,進め方で気をつけるべきことがある程度わかっていれば,それほど高度なテクニックは必要ないんだ。それに必ずしも,患者や病気のことを知っていなくてもいいんだよ。

モヤ そうなんですか? ぜひ,コツを教えてください!

***

事前の情報収集の徹底を

 まずはカンファレンスのテーマ設定です。施設で初めて4分割カンファレンスを行うようなときには「〇〇さんの今後について」という漠然としたものよりも,「胃瘻を造設すべきか」「DNAR(Do Not Attempt Resuscitation)の是非」あるいは「退院先はどこが適切か」など,具体的なテーマにしたほうが話しやすいでしょう。

 そのうえで,カンファレンスの参加者を選びます。当院では患者に直接かかわる人以外にも,積極的に参加したい人(例えば学生などの見学者)には加わってもらっています。医師は複数人いたほうが,一人の意見に流されないのでよいかもしれません。また,例えばリハビリがポイントになる症例では,直接の担当者がいないときでも,事情を知っている別のセラピストが参加する場合もあります。人数は,10人くらいまでが話しやすいですが,当院では,司会以外に見学の学生1-2人,研修医3-4人,医師3-4人,看護師4-5人,ソーシャルワーカー,リハビリ担当者などで計15人以上になるときもあります。

 カンファレンスにかける時間は30-40分ほどみておきましょう。この限られた時間を有効に使うには,事前準備が欠かせません。事例は数日前に決定し,関係者がなるべく多く参加できる日程を調整し,当日までに各職種ができるだけ情報を集めるように努力します。情報が集まっていないと有意義な話し合いができませんから,事前の情報収集はぜひしっかり行ってください。また,カンファレンスが始まる前の時間を使い,ホワイトボードに手持ちの情報(例えば「周囲の状況」の家族図など)をあらかじめ書き込んでおくと時間の節約になります。

モヤ この前のカンファレンスは急に事例が決まって,あまり情報が集まらないままに始めてしまったのが,意見の出なかった原因かもしれないです。

大徳 何事も準備が大事だからね。ただし,完璧を求めすぎると気軽にカンファレンスができなくなるから,持続可能な範囲の負担にとどめることも重要だよ。毎回日程を調整するのも大変だから,軌道に乗れば週1回,決まった時間に行うなど,定期的なカンファレンス枠を確保しておくのも一つの手だね。

司会は「話しやすい場」を作る

 4分割法を日本に導入した故・白浜雅司先生は,この方法をよく理解している看護師が司会を担うのが一番よいと話されていました。ただ,中にはファシリテートが苦手な人もいますので,職種にはそれほどこだわらずともよいかもしれません。当院では後期研修医にカンファレンスの司会をする能力も求めていますので,司会をしたい人にはどんどん挑戦してもらうようにしています。

 司会に求められるのは,とにかく話しやすい雰囲気を作ること。出された意見を適宜要約したり,意見を言いたそうにしている人を見逃さないことも大事です。意見をホワイトボートに書く「書記」役を司会とは別に設定すると,進行に専念しやすくなります。

 ほかに司会が気にすべきは,時間です。決められた時間で終わるよう最大限努力することが求められます。ただ,それだけを目標にすると表面的な意見交換のみで終始する可能性もあるので,活発な発言があるときは少し延長するなど臨機応変に対応しましょう。

モヤ じゃ,司会は自分の意見をあまり言わなくていいんですか。この前は何かいいこと言わなくちゃと焦りながらも,結局何も言えなかったんです。

大徳 そう,司会にとっては,話し合いが円滑に進むようにするのが最も重視すべき役割なんだ。その病気のことを必ずしも知らなくてもよいと最初に言ったのは,そういう意味だよ。もちろん患者や病気についての知識があれば,参加者にない視点から問いを立てやすくなるから,知っていて損はないけどね。

「グラウンドルール」の確認と,柔軟な進行を心掛けて

 カンファレンス開始時には,司会が「グラウンドルール」の確認をすることをお薦めします。

 一つ目のルールは「No blame !」,お互いを非難しないこと。これが徹底されないと活発な意見交換は期待できません。職種問わずフラットな関係で自由にものを言い合う場であることを,あらかじめ確認しておくことが大事です。時おり患者のことを思うあまり,意見が異なる人に対して攻撃的になってしまう人がいます。信念対立に陥らずに,価値観の違いや多様性に興味を示し,許容することはとても大切です。

 もう一つは「参加者それぞれに役割があると認識すること」です。貴重な30分を有意義に使えるか否かは,参加者一人ひとりの心掛け次第です。司会は,積極的な発言・参加を最初にお願いしましょう。ただし一人の発言が長くなりすぎるのは禁物。例えば「発言は1分以内で」といったルールを設け,言いたいことをコンパクトにまとめてもらう工夫をするのも有効です。

 話を進める順番については,最後を「QOLを上げるにはどうすればよいか」にすれば,こだわりすぎなくてよいでしょう。ただ「医学的適応」⇒「患者の意向」⇒「周囲の状況」と進めたほうが話がまとまりやすいですし,参加者が慣れてくれば自然にその順番で進むと思います()。それまでは,話の枠を飛び越えた情報や意見が出てきても目くじらを立てず,妥当な枠内に書きこんだ上で「それは『周囲の状況』の大事な点ですので,後で話しましょう。他に『医学的適応』で質問などはないですか?」と,穏やかに対応しましょう。逆に「周囲の状況」のところで「患者の意向」についての情報が出れば,いったん戻っても問題ありません。

 臨床倫理4分割カンファレンスの4段階+Next Step

モヤ QOL向上のためにどうするか,最終的にまとまらない場合はどうしたらいいですか?

大徳 情報不足が原因なら,「Next Step」で誰がいつまでに情報を集めるかを決めるのも立派な方針だよ。時間をおいて再度カンファレンスをすると,新たな視点が生まれることもあるから。逆に情報が十分なのにまとまらない場合は,誰が考えても難しい問題だということ。一度で解決できなくても“みんなで話し合って方針を共有した”という経験を持つことが,状況を改善し,また次回話し合おうとする原動力になると考えよう。

***

 今回は,症例検討にも慣れてきたところで,カンファレンスをスムーズに進めるコツをまとめてみました。

 筆者自身,治療法選択に迷いがあった際に4分割カンファレンスを行い,話していくうちに自分の考えが言語化されていくのがわかり,最終的には方針の後押しをしてもらったという経験をしました。それ以来,受け持ち症例以外のカンファレンスにも参加して,医師が知らない情報を看護師が持っていることを実感したり,初めは全く同じ方向を向けていなかった医師と看護師が,カンファレンスを通して方針を共有していく様子を見てきました。

 一方で,後期研修医の方針に,看護師が強く異議を申し立て,一方的に責めるような状況も経験しました。このときは,カンファレンスは患者のために行うこと,言い争いには意味がないことを医師と師長・主任で再確認し,教育・育成の場としても大切にしたいという認識を徹底して乗り切りました。

 当院では約10年にわたりこのカンファレンスを続けており,今ではカンファレンスを開こうと言い出すのは,医師と看護師が半々くらいの割合です。やはり,時間を取ってでも行う意義があるという実感があるからこそ続いているのだと思います。

 最後に,白浜先生が引用されていた詩を紹介します。

神よ
変えることのできるものについて,
それを変えるだけの勇気をわれらに与えたまえ。
変えることのできないものについては,
それを受けいれるだけの冷静さを与えたまえ。
そして,
変えることのできるものと,変えることのできないものとを,
識別する知恵を与えたまえ。
(ラインホールド・ニーバー「祈り」,大木英夫訳)

モヤ先生のつぶやき

 自分たちができること,できないことを見極めるのも,カンファレンスの重要な目的ってことか。今度から司会的な視点も持って,カンファレンス運営のコツを学ぶぞ!

つづく

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