医学界新聞

2014.05.12

Medical Library 書評・新刊案内


ジェネラリストのための内科診断リファレンス
エビデンスに基づく究極の診断学をめざして

酒見 英太 監修
上田 剛士 著

《評 者》徳田 安春(地域医療機能推進機構研修センター長)

診断の正確さを高める最強のクイック・レフェレンス

 臨床推論がブームである。診断学関連の学術論文でも臨床推論の心理メカニズムがトピックとなっている。そこで前提となっているのはダニエル・カーネマン(ノーベル経済学賞受賞者)のシステム理論である。システム1は直観的推論であり,システム2は分析的推論である,とされている。カーネマンは,人間はシステム1を多用する傾向があり,システム2を使うほうがより正確な推論が可能となると述べている。カーネマンの理論が正しいかどうかは今後の研究の展開を待つ必要があるが,システム2の中心となる分析的推論の重要性については皆が異論のないところであろう。診断プロセスという不確定な事象を徹底的に分析し尽くそうとすると,究極的には条件付き確率理論を持ち出さざるを得ない。システム2の究極は,疾患の検査前確率と,さまざまな臨床所見の尤度比から検査後確率を求めていく作業ということになる。条件付き確率理論の主役はベイズ定理であり,これを簡便に表したノモグラムも世に広まった。

 しかし,である。ベイズ定理(ノモグラム)を日常診療で常時活用し,臨床判断を行っている医師はこれまではいなかっただろう。なぜなら,臨床現場の最前線でこの定理の変数項に投入すべき具体的な数値情報が診察室やベッドサイドにおける医師の手元にそろっていなかったのである。システム2の致命的な弱点だ。臨床現場の診断で即使えるデータベース(レフェレンス)がないと,この定理は役に立たない。なるほど,JAMAで連載されたThe Rational Clinical ExaminationやMcGeeの『Evidence-Based Physical Diagnosis』などは手元にある。しかし,前者は病歴と診察所見,後者は診察所見にほぼ限定した内容であり,使い勝手がよくない。書かれ方が読みもの調となっており,多忙な臨床医のためのクイック・レフェレンスではなかった。

 そこで,本書が登場した。日本人若手医師が一人で作成したレフェレンスというから驚きだ。膨大な論文の継続的なコレクションと分析・整理がなされ,病歴,身体所見,検査所見に至る全過程のエビデンスが網羅されている。システム2の完全試合をめざすには最強の武器である。本書の内容に匹敵するシステム2のレフェレンスは現時点ではないだろう。診断の正確度を高めるために,多くの内科医師が,本書を手元におき,レフェレンスとして活用されたい。

B5・頁736 定価:本体8,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-00963-8


血液病レジデントマニュアル
第2版

神田 善伸 著

《評 者》岡田 定(聖路加国際病院・血液内科部長)

血液診療現場の最新手引書

 2014年2月,約4年ぶりに内容が一新されて『血液病レジデントマニュアル 第2版』が発行された。神田善伸先生による単著である。

 初版の『血液病レジデントマニュアル』にはお世話になった。新装第2版を手にして,パラパラと読んでみた。「見事にアップデイトされている。これはすごい。使いやすそう」というのが第一印象である。

 さっそく,血液病の患者を担当している病棟レジデントたちに紹介した。「購入するように」と言ったつもりはないが,3-4日後には病棟の机の上に本書が並んでいた。彼らは,「新しいもの,便利なもの,いいもの」にはとても反応が速い。

 本書には,主要な血液疾患の基本事項,検査,診断,治療,マネジメントが凝縮されている。分厚い書籍を開かなくても,ポケットサイズの本書で血液診療全般のエッセンスを学ぶことができる。それ以上に,現場の血液診療に必要不可欠な知識を効率よく得ることができる。入門書としてもいいが,現場の手引書としてこれほどのものはない。

 タイトルが「レジデントマニュアル」だからといって,「レジデントのためのマニュアル」と誤解してはいけない。「血液専門医のためのマニュアル」でもある。

 血液専門医はレジデントよりもずっと血液診療の知識も経験もある。とはいっても,診療に必要な知識を全て記憶しているわけではない。最新の知識を見逃していることも少なくない。目まぐるしく改定される診断基準,病型分類,重症度分類,予後分類,治療メニューなど,全部覚えている医師はいないだろう。

 最終診断をして実際に治療を始めるとき,疾患によってはテキストでの確認作業がどうしても必要になる。そのとき「診断基準はあの本で確認しよう」「治療プロトコールはあそこで検索しよう」では,大変である。そこで本書の出番である。確認したい事項のほとんどが,本書一冊に詰まっている。今,ここの実臨床で必要な情報がそこにある。

 それにしても血液診療のこれほど広い範囲を神田先生お一人でまとめられたのは,驚嘆すべきことである。日々蓄積されていく新しくて有用なエビデンスやガイドラインを,このようにコンパクトで使いやすい形にまとめていくのは,並大抵の作業ではない。

 本書の序文に「この作業を4-5年ごとに繰り返すことがいつまで可能かは私にもわかりませんが,自分自身への挑戦と考えています」とある。神田先生の「自分自身への挑戦」に大変お世話になっている身としては,ここで先生に大いに感謝したい。

 本書第2版は,ちょうど2014年ソチ冬季オリンピックの開催中に出版された。4年後2018年は平昌(ピョンチャン)である。そのころには,『血液病レジデントマニュアル 第3版』に出合えるのだろうか。それも楽しみである。

B6変型・頁456 定価:本体4,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01903-3


臨床でよく出合う
痛みの診療アトラス

Steven D. Waldman 原著
太田 光泰,川崎 彩子 訳

《評 者》仲田 和正(西伊豆病院院長・整形外科)

Common diseasesの痛みをカラー図解でわかりやすく網羅

 この本は運動器の痛みを網羅的に集大成した大変美しい本です。特に筋筋膜疾患や絞扼性神経障害に重点が置かれています。ほぼ全ページにカラー図解があり大変わかりやすい本です。私自身,今まで知らなかった病気がたくさんあるのに大変驚き,愛用のポケット解剖書にせっせと書き写した次第です。他にこのような類書を私は知りません。

 舌骨症候群とか,ゴーグルの眼窩上神経圧迫で起こる前頭部痛(Swimmer’s headache),スーパーでもらうビニール袋に商品を詰め込んで2,3本の指で提げることによる指の麻痺(plastic bag palsy)など「こんな疾患があるのか!」と大変驚きました。その多くは知識として知っているだけで診断できる(snap diagnosis)疾患ですが,知らなければ診断できません。一通り読んで,こんな疾患があるんだと知っているだけでも良いと思います。

 国内の教科書ではテニス肘として一括される上腕骨外側上顆炎も肘筋症候群,回外筋症候群,腕橈骨筋症候群と細分化されています。一般の整形外科書では,ここまでの疾患は到底網羅できていません。

 以前,ある都市の外科開業医の集まりで整形外科救急の講演を依頼されたことがありました。なぜ整形疾患の知識が必要なのかお聞きしたところ,外科で開業しても外来に来る疾患のほとんどは整形疾患であり,腹部疾患はたいてい病院に行ってしまいほとんど診ることがないとのことでした。整形疾患は診療所レベルでは大変多いcommon diseasesであり総合診療には必須の科目です。私のへき地の経験では,内科,小児科,整形外科を研修しておけばへき地で遭遇する疾患の8,9割くらいに対応できると思っています。

 Common diseasesを広く深く知って知識を網羅しておくことは重要です。この『臨床でよく出合う痛みの診療アトラス』は,日本の臨床レベルの底上げに大変役立つ本だと思いました。ぜひ,ご購読をお薦めします。

B5・頁464 定価:本体9,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01765-7


マネジメントの質を高める!
ナースマネジャーのための問題解決術

小林 美亜,鐘江 康一郎 著

《評 者》鈴木 裕介(高知医療再生機構企画戦略担当特任医師/仁生会細木病院内科・臨床研修担当)

よりよい現場づくりに燃える若手医師にも薦めたい

 研修医時代に,超デキル外科のレジデントの先生から「看護師さん向けの本に名著あり」と教えられた。本書はまさにその言葉に該当す...

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