医学界新聞

連載

2013.09.02

〔連載〕続 アメリカ医療の光と影  第252回

Sitting is the New Smoking

李 啓充 医師/作家(在ボストン)


3039号よりつづく

 米国において,喫煙がもたらす健康被害に対して厳しい公衆衛生的施策が採られてきたことは読者もよくご存じの通りである。タバコに対する高額課税,社会における禁煙施設・エリアの拡大,喫煙者に対する割高な保険料率設定等はその好例である。

長時間の座位継続で運動のご利益が帳消しに

 最近,「その健康被害は喫煙に匹敵する」として大きな関心を集めるようになった生活習慣が「長時間の座位継続」である。職場におけるデスクワーク,家庭におけるテレビ視聴やビデオゲーム,車両による移動等,現代における日常生活の中で,体を動かさないまま椅子に座る時間は昔と比べて格段に長くなっている。しかし,「動物」なる言葉が端的に象徴するように,ヒトの体は,睡眠時間以外は活発に動くことを前提として進化してきた事実を考えたとき,椅子に座ったまま長時間動かずにいることがさまざまな健康被害をもたらしたとしても何の不思議もないのである。

 では,なぜ,長時間座位継続の健康被害が最近になるまで注目されてこなかったのかというと,それは,身体活動度を正確かつ簡便に計測することが技術的に難しかったからにほかならない。しかし,最近は,いわゆる万歩計等による加速度計測が格段に進歩し,活動度と諸種の健康指標との関連について信頼性の高いデータを収集することが容易になった。

 以下,Dunstan らの総説(註1)に基づいて,長時間座位継続の健康被害に関する知見をまとめる。

*座位の時間が長い人ほど耐糖能異常の程度が強い。
*座位の時間が長い人ほどpremature death の割合が高く,死亡率上昇の害は「(余暇に行う)中等度-強度の身体活動」によって防止されない。
*座位の時間が長い人ほど腹囲・血糖・トリグリセリドが高値を示すが,座位を中断する頻度が高い人ではこれらの値が軽減する。
*健常な人に長時間の座位を強制すると,わずか1日後に耐糖能が悪化する。座位継続を頻繁に中断することで耐糖能悪化は軽減するものの,座位中断時の身体活動の強度の違いは耐糖能悪化防止効果に大きな影響を与えない(=ごく軽度の身体活動でも耐糖能悪化は軽減される)(註2)。

座業の患者に対する健康指導の内容とは

 これまで私たちは,患者に対し,健康に与える「運...

この記事はログインすると全文を読むことができます。
医学書院IDをお持ちでない方は医学書院IDを取得(無料)ください。