抄録作成にはテクニックがあった!(新美三由紀)
連載
2012.12.17
なかなか教えてもらえない
看護研究発表の「キホン」と「コツ」!
【第3回】
抄録作成にはテクニックがあった!
世界に通用する「構造化抄録」とは
新美 三由紀(佐久総合病院看護部)
(3003号よりつづく)
この連載では,みなさんに「研究発表してみたいな」とか「もっと研究発表してもいいかな」と少しでも思ってもらえるように,研究発表のキホンとコツをギュッと凝縮してすぐに使えるノウハウを解説します。
タイトルは研究の顔!
今回からいよいよ研究発表の方法に入っていきます。
さて,みなさんは学会・研究会に参加するとき,抄録集の何を見ますか? 全演題の抄録に目を通す方はさすがにいないでしょう。では,私たちは聴衆として,何を見てその発表を聞きに行くという選択をするのでしょうか。
それは,「タイトル」です! もちろん,発表者や施設名で選ぶ方もいるでしょうが,その発表者の業績を知っていたり,その病院に興味がある場合に限られます。結局は,タイトルで聞きたいものかどうかをふるいにかけますよね。
臨床疫学の講義で,有益な論文を効率的に読む方法を学んだことがあります。まずタイトル,次いで抄録。そこまで見て興味がわかない,良い研究と判断できないのであればその先に進む必要はない,と教わり驚きました。でも実は,私たちは自然にそうしていて,大量の情報から必要な情報を選択しています。つまり,タイトルは「読まれる」ことの第一関門なのです。
タイトルの付け方には領域ごとに好みがある?
面白いことに,研究発表や論文のタイトルは,その領域により好みや流行があるようです。基礎の研究では,「AはBのC作用を誘導する」のような結論を端的に示したタイトルが多いようです。また医師の臨床研究では,「D疾患に対するE療法の第2相試験」や「F病に対するG切除術の有用性の検討」のようなタイトルが多いです。
では,看護領域の臨床研究ではどうでしょうか。
医師や他の医療者も参加する学会で発表されている研究タイトルは,医師と似ていますが,看護師のみの研究会では,「Hがんの看護に関する研究 第一報」とか「Iケアにおける取り組み」といったタイトルが散見されます。タイトルから想像される研究は実に壮大ですが,裏を返せば焦点がぼけていて,いったい何のことだろう……,という疑問が残ります。私も看護師3年目のころ,「○○ 第一報」というタイトルを付けたことがありますが,他の研究を真似してなんだか立派に感じてしまったんですね。でも,今考えればまことに自分中心的なタイトルでした。他人には,何が第一報で何が第二報なのか,わかるはずもありません。ましてや,ありがちなタイトルでは印象に残らず,プログラム上でも目にとまりません。
じゃあ,どんなタイトルにしたらいいんだ?!と思われる方もいるかもしれませんが,キャッチフレーズと同じで「これが最高」というルールはありません。抄録を読むお客さん(他の看護師や医師等の聴衆)のことを考えれば,少なくともタイトルから研究のあらまし(対象は誰で,何をしたのか,または何がわかったのか)が予想できると良いと思います。自分の研究を“たった1行”で表現するのです。
抄録作成の「お作法」とは
良い(わかりやすい)抄録を書くポイントは2つあります。(1)お作法に従うこと,そして,(2)簡潔明瞭に絞って書くことです。
抄録のお作法として有名なのが,「構造化抄録(Structured Abstract)」と呼ばれるものです。昔の抄録は特に規定もなく,ダラダラ書かれているのが普通でした。しかし,1987年に構造化抄録ガイドラインが発表され,「CONSORT」(臨床試験報告に対する統合基準)声明や「STROBE」(観察的疫学研究報告の質改善)声明などが出され,現在では構造化抄録が当たり前となりました。みなさんも,知らず知らずのうちにそのエッセンスには触れています。抄録規定に「原則として,目的・方法・結果・結論に分けて」と書かれているものです。「方法」「結果」など項目ごとに記載内容を定めた構造化抄録は,構造化されていない抄録に比べてより質が高く,より迅速に情報が提供できることがわかっています。
なお,一口に構造化抄録といっても,IMRAD(Introductionはじめに,Methods方法,Results結果,And Discussion考察)形式も多く見かけますし,JAMA(米国医師会雑誌)形式もあります。JAMA形式は,背景,目的,研究デザイン,研究のセッティング(病院か地域か,入院か外来かなど),対象者,主なアウトカム(主な評価指標),結果,結論に分けて書きます。必ずしもすべてを別立てにする必要はなく,研究によって削除したりまとめても構いません。ただし,意識的に内容を書き分けてください。特にIMRAD形式の場合,研究デザインとアウトカム(評価項目)を「方法」に明記できると,抄録が引き締まります。
しかし,現実にはうまく構造化できていない例も見かけます。「背景と目的」「方法と結果」「結果と考察」の混在などです。看護研究の場合,発表者の思いが強すぎるのか,「背景」と「考察」が大半を占める抄録も見かけます。特に,症例報告や質的研究では,質的データ(情報)を取り扱うため「結果」と「考察」が混在しやすく,注意が必要です。混在を防ぐための簡単なワンポイントアドバイスを以下に示すので,自分の書いた抄録で確認してみてください。
■
私が共同研究者として数年前に行った研究を題材に,800字設定で構造化抄録の一例を書いてみました。研究の内容は気にせず,形式を参考にしてもらえればと思います(表)。
表 構造化抄録の一例 |
「抄録作成」でのワンポイントアドバイス (1) ☑ 抄録から,以下の情報を読み取ることができない。
チェックが付いたときの対処
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(つづく)
COLUMN「明らかとなった」の重み
対象が数人の症例報告にもかかわらず「○○が明らかとなった」という結論を見て,「本当?」と思った経験はありませんか? 対象者の背景が偏っていたり,たまたま良い結果が出たりすることは実際よくあることです。単純に人数だけ考えても,たった数人程度の研究で他の同じような患者すべてに当てはまる(外挿といいます)結果を得るのは極めて困難です。そもそも症例報告は,特殊な症例や,まれなことが発生した場合に,その情報を共有する目的で発表するものです。普遍的な結論を導くことが目的ではないのですから,その症例に限定した結論としたいものです。 |
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