医学界新聞

連載

2012.11.19

なかなか教えてもらえない
看護研究発表の「キホン」と「コツ」!

【第2回】
面白い研究発表は研究計画書から
研究計画書はどう書いたらよいの?

新美 三由紀(佐久総合病院看護部)


2999号よりつづく

 この連載では,みなさんが少しでも「研究発表してみたいな」とか「もっと研究発表してもいいかな」と思ってもらえるように,研究発表のキホンとコツをギュッと凝縮してすぐに使えるノウハウを解説します。


 今回は「研究計画書」の書き方について説明しましょう。

 「研究をしたことはあるけど,計画書なんて書いたことない……」という方,多いのではないでしょうか。本来,看護研究でも「臨床研究に関する倫理指針」「疫学研究に関する倫理指針」1,2)に則って,倫理審査委員会で研究計画書の審査を受ける必要があります。もしかしたら,現在も計画書を書かず,倫理審査も受けずに研究をしている方がいるかもしれませんが,それは「私の研究は,倫理指針やヘルシンキ宣言3)で謳う『被験者の人間の尊厳および人権を守る』という倫理規範に従っています」とは言えないわけですから,まずいですよね。

 病院で行われる研究の倫理的配慮を周知する責任は病院長にありますが,一人ひとりのナースが意識的に改革することも重要です。ぜひ自分から率先して研究計画書を倫理審査委員会に提出してみてください。

 "倫理審査が必要"という以外に,もう一つ,研究計画書を作成したほうがよい理由があります。それは,研究計画書はみなさんが行う研究の質を保証するものとなるからです。研究結果を発表する際,事前に決めた方法で研究を行った結果なので,「自分に都合の良い(恣意的な)結果を出しているわけではない」ということを証明してくれるわけです。その研究が画期的で重要であるほど,こうした研究の質を保証することは大切になってきます。

倫理審査委員が理解できる研究計画書を書こう

 さて,倫理審査委員会に研究計画書を提出したら,「身も心もボロボロになるほどたたきのめされた」というナースの話を聞くことがあります。反対に,審査する立場の委員(多くは医師)から,「看護研究の計画書を何とかしてくれ!」と相談を受けることもあります。これは,両者にとって不幸です。

 では何が倫理審査で問題となるのでしょうか。最も多い指摘は,「必要な情報が計画書に書かれていない」「何が言いたいのかわからない」というものです。これらの問題を解決するには,倫理審査委員が理解できる研究計画書を書くしかありません。ここでの「理解できる」とは,研究背景や研究方法といったその領域の専門的なことではなく,「研究計画書(プロトコル)」という公式文書を読めば,この研究は必要なものであることが他人にも納得できるということです。

 研究計画書は「大学一般教養」レベルの知識で理解できるように書くことが求められます。最先端の複雑な治療開発の臨床試験も例外ではありません。研究計画書は当事者以外にも多くの人が読むので,たとえその領域の専門用語でも,説明がなされていればある程度理解することができるわけです。

 「教わったことがないので書けません」と言うナースもいますが,医師でも研究計画書の書き方をきちんと学んだことがある人はごくわずかです。経験がないというだけで,研究計画書の作成をあきらめないでください。

研究計画書には何を書けばよいの?

 観察・調査研究の場合を例に,研究計画書に書いたほうがよいことをに挙げてみました。章立ては各病院の規定に合わせてください。

表 研究計画書(観察・調査研究)の章立て例と記載内容のポイント

 「えっ! 計画書ってこんなに書くの?」と思われた方も多いでしょう。ですが,専門家になるわけではないので出来栄えは気にせず,とにかく,まずはこの項目に従って,たとえ1行ずつでも良いので書いてみてください。

 計画書の役割の半分は「なぜ,この研究をするのか」を他人に理解してもらうことであり,もう半分は実際に研究を行う際の手順書です。したがって,計画書をしっかり作っておけば,実は学会発表や研究論文の作成も楽になります。

 介入研究(臨床試験)の場合,研究計画書の作成は一般に数か月はかかるものなので,観察研究でも1か月はかかると思って間違いありません。しかし,これを書いておけば研究は半分以上終わったも同然。まずは頑張って書いてみてください。

 研究計画書を初めて書く際には,自分が行おうとする研究と同じようなテーマの研究計画書をいくつか参考にするとよいでしょう。科学研究費補助金で採択された研究計画書はインターネットで入手できますし,緩和ケアやQOL調査などは看護研究に近い内容が多いので,参考にしやすいと思います(「QOL」「研究」「計画書」等の複数キーワードで検索するとよいでしょう)。

 すべての計画書が必ずしも参考になるとは限りませんが,どんなことでもまずは「倣う(前例を手本にして真似る)」ことからです。そして,倫理審査委員会に提出する前に,医師など多くの人に見てもらうことが重要です。

 自分の研究計画書がボロボロになることをためらってはいけません。そして,その経験を基に計画書作成のノウハウを病院内・病棟内で共有しましょう。2つ,3つと計画書を書き研究を重ねるうちに,より良いものが書けるようになります。勇気をもって「言葉で表現すること」にチャレンジしてください。

「研究計画書作成」でのワンポイントアドバイス

(1) ☑ 研究計画書を書いたことがないので,何から手をつけてよいかわからない。
(2) ☑ とにかく自信がない。
(3) ☑ 計画書を書き始めたら,自分でも何がしたいかわからなくなってきた。
(4) ☑ 研究グループメンバーで,どうやって分担して書いてよいかわからない。
(5) ☑ 計画書を一人で書いていたら,自分だけが苦しんでいる気がしてきた。


チェックが付いたときの対処法
(1)まずは,自分がやってみたい研究について,A4用紙1-2枚に自由に記載してみましょう。次にワープロで上の表のとおりに章を起こし,A4用紙に記載した内容を,該当すると思われる章に埋め込んでみましょう。それだけで,計画書作成のスタートがきれました!
(2)「知らない」「やったことがない」ことは,自信がなくて当然です。まずは手を動かすことから始めてみてください。
(3)それは「研究」の本質を見つめ始めたステップアップの証です。一度,計画書作成から離れて,「私は何が知りたかったんだろう」という問いへ戻ってみましょう。客観的な意見を聞くため,周りの人と話してみるのもよいでしょう。
(4)背景と目的は,グループ全員で骨子を練りましょう。それ以外の記述については分担して構いませんが,案を書く人,レビューして修正・加筆する人,全体の整合性をとる人,いろいろな役割があるので,上手に分担してください。
(5)一人で書いたほうが,計画書全体の整合性がとれるのも確かです。しかし,案ができてからもレビューして修正・加筆することは重要ですから,レビューを分担してもらうとよいでしょう。

つづく


1)「臨床研究に関する倫理指針」
2)「疫学研究に関する倫理指針」
3)http://dl.med.or.jp/dl-med/wma/helsinki2008j.pdf

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