循環・呼吸(1)(川島篤志)
連載
2011.02.21
小テストで学ぶ "フィジカルアセスメント" for Nurses
【第5回】循環・呼吸(1)
川島篤志(市立福知山市民病院総合内科医長)
(前回よりつづく)
患者さんの身体は,情報の宝庫。"身体を診る能力=フィジカルアセスメント"を身に付けることで,日常の看護はさらに楽しく,充実したものになるはずです。
そこで本連載では,福知山市民病院でナース向けに実施されている"フィジカルアセスメントの小テスト"を紙上再録しました。テストと言っても,決まった答えはありません。一人で,友達と,同僚と,ぜひ繰り返し小テストに挑戦し,自分なりのフィジカルアセスメントのコツ,見つけてみてください。
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■解説
今回から「循環・呼吸」の小テストに入ります。設問は全部で20問。まずは「循環」からです。
■循環
(1)
血液の「循環」においては,血圧および脈拍が重要です。収縮期血圧(または脈圧)と脈拍が1回心拍出量の目安になります。また四肢末梢の温かさもOutputの目安になり,下肢をチェックします。布団が掛かっているのに冷たければ,末梢循環が滞っている可能性を示唆します。重要なのは各臓器に血液が循環しているか否かであり,定量化しやすい指標として,尿量(=腎臓への循環)があります。
(2)
重症疾患の管理では,循環・呼吸の安定化を図ることが重要です。「1時間あたり,体重(kg)の2分の1(mL)の尿量の維持」を,循環の最低限の目安としている医師が多いです。
集中治療室などにおける厳密な管理時以外にも,医師の判断で2時間ごと,3時間ごとなど尿量測定の指示が出ることもあると思います。例えば「患者の体重が54 kgなので,少なくとも27 mL/時間の尿量を維持したい。それほど重症ではないため4時間ごと=各勤務帯に2回ずつ測定してもらおう」と医師が考えれば,「(27×4≒)100 mL/4時間以下なら○○○」という指示となります。キリがよく,かつ勤務帯を考慮した測定間隔・尿量を指示されると思いますので,その意図するところを意識すると興味深いかもしれません。
尿量が足りない→利尿薬投与(例えばラシックス®など),だけではありません。原因を検索し,それに合わせた治療が選択されます。この場合,原因が腎前性・腎性・腎後性に分類されます。腎前性=腎臓に供給される血液量が低下して尿が作れない場合は,体液喪失,もしくはショック状態で循環動態が不安定である可能性があります。この場合,尿量が少なければ,生理食塩水などの細胞外液を付加することになります。また,体内ボリュームが多くても,低アルブミン血症による血管内脱水ということもあり得ます。"3rdスペースに逃げる"という表現を聞かれたことはありますか? この際,膠質浸透圧の高いアルブミン製剤などが選択される場合もあり得ますが,重症疾患における使用の是非は検討すべきではないかと筆者は考えています。
腎血流が少ないと判断した場合には,"ドパミンの低用量投与"という治療法を選択する医師もいますが,それにも異論があります。臨床では必ずしも,こうしなければならない,という縛りはありません。医師の指示に対し,看護師が何か提案をすることは難しいかもしれませんが,病態を把握し,理論を意識して指示を受けるほうがより面白いと思います。
腎後性とは,腎臓は尿を作っているが排泄されない,ということです。医師の診断過程では,まず「腎後性の否定」から始めます。膀胱内に尿が多量にあれば下腹部が膨らんでいることもあるので,観察の上,尿道バルーン留置の要否の判断やバルーン閉塞のチェックをすることになります。
(3)
知らず知らずのうちのNa負荷が,肺水腫による低酸素血症を引き起こすことがあります。輸液本体以外に抗菌薬などの点滴が加わる場合や,食事が再開されているのに点滴がそのまま継続される場合がその例です。多量の点滴を必要とする緊急の内科疾患には,ショックを来す種々の疾患や,急性膵炎,高カルシウム血症,糖尿病性ケトアシドーシスなどがあります。しかし,特に明確な理由もなく,点滴の内容が細胞外液主体だったり,もともと心不全を起こす可能性のある方に,生理食塩水(100 mL当たり塩分約1 g)主体の点滴が多数付加されたり,塩分制限食が出ていなかったりすると余計に危ないため,いつも以上に気を配っておくべきでしょう。
(4)
成書にはI-IV音まで難しそうなことが書かれていますが,日常診療でどれだけ活かせるでしょうか?
I音の亢進では僧房弁狭窄症が有名ですが,これは遭遇する頻度が激減しています。またそれ以外の雑音も聴かれるので,I音にこだわる必要はありません。Hyperdynamic state=1回拍出量が多い状態(発熱・貧血など:連載第2回,2905号参照)でもI音が亢進しますが,こちらもそれ以外の症状で推測可能ですし,明確な亢進の基準も定かではありません。
II音の亢進で問題になるのは,主として肺高血圧症によるII p音(肺動脈弁由来)亢進ですが,これも看護師はあまり気にすることはないでしょう。頻度が多いのは慢性閉塞性肺疾患(COPD)によるものですが,呼吸状態などから推測できるものです。
以上のことから,I音・II音を聴いた看護師の報告で臨床判断が変わるということはほとんどないため,あまり気にしなくていいことになります。
(5)
聴診器には,膜型とベル型があり,III音・IV音はベル型で聴く必要性があります。ところが看護師用の聴診器には,膜型しかないタイプもあります。そのタイプの聴診器しか持っていなければ,そもそもIII音・IV音の聴取は不可能です。
また,III音はII音の後に出現する"音"ですが,経験的には明確な音というより"低い何か"が耳に届く感覚で,非常に認識しにくいです。
聴取の際には,患者さんを左側臥位にして,胸壁と心臓の距離を短くとり,聴診器のベル分ぐらいの幅をずらしつつ慎重に聴きます。III音の発生機序は,左心室に容量負荷がかかることであり,患者さんでは左心不全徴候があるかもしれません。ですからほかに左心不全徴候(起座呼吸など)がみられれば聴取は必須ではありませんし,左心不全を来している可能性のある患者を臥位にすることで,呼吸困難が増強する可能性もあります。
IV音はI音の前に付随するような音です。通常,ベル型聴診器をそっと当てると聴こえ,押し付けると消えます。押し付けてもしっかりとI音+αの2つの音が聴こえるときは,IV音ではない可能性が高いです。
文字での解説では,III音の聞こえ方や,IV音がI音の前にあることがわかりにくいので,III音・IV音を聴取できるようになりたい! と思ったら,聴診トレーニングのCD/DVDで勉強するか,現場で教えてもらいましょう。
看護師にとって,III音・IV音は不要である,というと反発を受けそうですが,ここで知ってほしいのは,医師の中でも,自信を持ってIII音・IV音を聴取できる人は多くないということです。筆者も,研修医や若手スタッフが「III音がある」と報告しても,基本的に自分が聴くまで信じません。一緒に聴取に行きようやく有無を確認できるくらい,聴取しにくいのです。III音の所見を臨床に活かせている人はもっと少ないかもしれません。
IV音にしても,内科医(もしくは病院や診療所で外来を担当する医師)ならば聴取してほしい所見だと筆者は考えていますが,それでも聴取できない人・臨床に活かせていない人が多いと思います。医師にこっそり聞いてみると,打ち明けてくれるかもしれません。
*
今回の解説では「○○は不要」という記載が多かったですね。読んでモチベーションが下がってしまう方がいる一方,逆にホッとする方もいると思います。教育担当の方,身体診察の向学心の強い方,またこうした所見の記載が必要な部署におられる方々のなかには,納得いかない,というご意見もあるかもしれません。しかし,臨床現場の"ボトムアップ"につなげるためには,ある程度強弱をつけた習得が必要だと思いますので,何卒ご了解ください。
興味深い所見がありそうなとき,もしくは医師の記載したカルテに興味を持ったときには,担当医にベッドサイドで教わることがベストだと思います。ぜひ教えてくれる先生を見つけてみてください。
(つづく)
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