Vital sign(3) 体温・意識(川島篤志)
連載
2011.01.24
小テストで学ぶ "フィジカルアセスメント" for Nurses
【第4回】Vital sign(3)体温・意識
川島篤志(市立福知山市民病院総合内科医長)
(前回よりつづく)
患者さんの身体は,情報の宝庫。"身体を診る能力=フィジカルアセスメント"を身に付けることで,日常の看護はさらに楽しく,充実したものになるはずです。
そこで本連載では,福知山市民病院でナース向けに実施されている"フィジカルアセスメントの小テスト"を紙上再録しました。テストと言っても,決まった答えはありません。一人で,友達と,同僚と,ぜひ繰り返し小テストに挑戦し,自分なりのフィジカルアセスメントのコツ,見つけてみてください。
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■解説
今回は「Vital sign」の最終回です。項目の区切りの関係上設問は少ないですが,気を引き締めてラストまで乗り切りましょう。
■体温
(19)
発熱があれば,悪寒と戦慄があるかどうか,両者の違いを意識して問診します。悪寒(寒気)だけならばよいのですが,戦慄があれば菌血症を疑います。しかし患者さんに「戦慄がありますか?」と聞いてもわかりません。判断基準は「布団をかけてもまだ寒くて震える」とされることもありますし,筆者らは「歯がガチガチ,手がガタガタすることはなかったですか?」と聞いて確認しています。
医師や救急外来の看護師は,外来診療の場で戦慄の有無を聞き出すことになりますが,病棟では実際に震えている人に遭遇するかもしれません。先輩ナースに聞いてみると,実演してくれるかもしれませんよ。
「患者が震えていれば,医師も震えろ!」と言われますが,これは菌血症という重症疾患に相対している可能性を意識しましょうという意味です。いわゆる大リーガー医(外国から教育のため来日した指導医)も,この"格言"を口すっぱく教えています。
菌血症を疑った場合の対応は施設により異なると思いますし,平日日勤帯と夜間・休日帯などで対応が異なる場合もあるかもしれません。ただ可能であれば,「血液培養2セット採取+他の検体培養,感染源を想定した加療(ドレナージの要否・経静脈的な抗菌薬投与など)」がスムーズに行えるとよいですね。
最近は感染症診療における血液培養の正しい知識がどんどん広まっていて,うれしく思っています。採取に関しても推奨される方法が一般的なテキストに記載されていますし,各施設で感染症診療に強い医師やICTから指導されていると思います。
しかし,問題は忙しいなかでそれを遵守できるかどうかだと思います。また血液培養は,汚染(コンタミネーション)なく採取できることも重要です。これらを可能にするには,血液培養の重要性を認識していること,指示をする医師と施行する医療従事者(研修医や当直医・看護師)が互いを尊重し協力し合っていること,トップダウンの指示体制が組織内に浸透していること,などが条件だと思います。
菌血症を起こしやすい病態には,尿路感染症・胆道系感染症・肺炎・カテーテル関連血流感染症などがあります。新たに出現した症状に加えて,患者さんの背景とすでに留置されている管関係をチェックすることで,感染源が明確になる可能性があるため,検索してみるのも有効な手でしょう。
感染症診療に対する医師の考え方は,まだまだ千差万別だと思います。しかし,看護師側の積極的に取り組む姿勢が明確になれば,医師も変わらざるを得なくなるかもしれません。一般的に異動が多く,治療方針にも個人差のある勤務医に比べ,同じ病院でより長く働く看護師こそ,病院の文化の創り手を担えるのかもしれない,と筆者は考えています。
(20)
戦慄を伴う高熱の症例では,菌血症を疑って血液培養を採ることは理解していただけたと思います。では,高熱・戦慄を伴わず,かつ菌血症を疑う状態・疾患にはどういったものがあるでしょうか?
これには,救急室で遭遇する可能性が高い,低体温症,ショックや細菌性髄膜炎,糖尿病性ケトアシドーシスなどがあります。これらは救急室ですぐに活かされる情報というわけではありませんが,臨床上,とても重要であることには違いありません。また病棟では不明熱などの精査(感染性心内膜炎などの感染症や,他の炎症性疾患で感染性疾患の否定)のため,血液培養が採られることがあります。
ちなみに「戦慄を来すが,菌血症ではない」ことで有名な疾患には,インフルエンザによるウイルス血症があります。実際に経験のある方もおられるのではないでしょうか? 冬場の救急では,鑑別に悩むかもしれませんね。
■意識
(21)
意識レベルが低下している場合,Vital signが不安定なことがあり得ます(原因は多岐にわたりますが)。ですから,とにもかくにもVital signが安定しているかチェックすることが最初の重要ポイントです。
加えて,意識してもらえるとありがたいのは瞳孔の観察です。意識低下の症例で瞳孔の左右差があれば,頭蓋内疾患の可能性が高いことを示唆するデータ(註)もありますので,報告を受けた医師が次の一手を考えながら,ベッドサイドに向かえるかもしれません。
また,皆さんご存じかと思いますが,意識レベルの評価方法にはJapan Coma Scale(JCS)とGlasgow Coma Scale(GCS)があります。それぞれに利点・欠点がありますが,評価方法とその記載形式は,施設内で統一したほうがよいでしょう。とは言え,ある部署(例えば救急部/科やICUなど)の一部の医師間での統一は比較的容易かもしれませんが,施設内の全医師間でというのは,正直なところ難しい印象があります。ただ,看護師間で統一することは,それほど困難を伴わないのではないかと考えています。すでに院内で統一している施設もあると思いますので,コツがあればぜひ教えてください。この件については次回以降に話題提供したいと思っていますので,そのヒントにさせていただきます。
(22)
意識障害に対する救急でのアプローチの一つに,「低血糖の除外」があります。低血糖では意識障害に加え,神経巣症状(=麻痺症状)を呈することもあり,あたかも脳卒中かと思わされることがあります。実は最近,筆者も10数年ぶりに,低血糖を除外する前に頭部の画像評価をするという誤診をしてしまいました……。糖尿病の罹患や血糖降下薬,インスリンの使用がある場合には,まず低血糖の除外が必要になります。となると,簡易血糖測定器の準備やブドウ糖の投与が必要になる可能性を考えておけば,次の行動に早く移れます。
救急では患者背景を考えて,ビタミンの投与を行うこともあるかと思いますが,入院患者さんであれば,ビタミンの投与は不要だと思います。
*
3回にわたりお送りした「Vital sign」の小テスト,いかがでしたか? 実際に小テストを受講した,当院看護師の感想を掲載します。
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次回からは,「循環・呼吸」編に移ります。お楽しみに!
(つづく)
註)Tokuda Y, et al. Pupillary evaluation for differential diagnosis of coma. Postgrad Med J. 2003; 79: 49-51.
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