血管拡張薬の使いかた(大野博司)
連載
2011.02.07
クリティカルケア入門セミナー
大野博司
(洛和会音羽病院ICU/CCU,感染症科,腎臓内科,総合診療科)
[第11回]
■血管拡張薬の使いかた
(2911号よりつづく)
今回は代表的な血管拡張薬の病態生理に応じた使い分けについて取り上げます。
CASECase1 三枝病変による虚血性心疾患,慢性心不全のある85歳男性。5日前からの労作性呼吸苦あり。ここ3日で夜間発作性起座呼吸,下肢の浮腫が強くなりERに搬送。O2 8 L/分でSpO2 93%,血圧150/40 mmHg,心拍数90/分,呼吸数25/分,体温36.5℃,両肺野喘鳴著明,両下肢浮腫,体重+2 kg。うっ血性心不全急性増悪でICU入室。ニトログリセリン0.05%製剤原液5 mL/時およびフロセミド20 mg 2Aを静注し,徐々に呼吸苦改善し酸素化良好となった。 Case2 三枝病変による虚血性心疾患,慢性心不全のある80歳女性。3日前からの労作性呼吸苦あり。ここ2日で夜間発作性起座呼吸,下肢の浮腫が強くなりERに搬送。O215 L/分でSpO2 90%,血圧130/40 mmHg,心拍数90/分,呼吸数25/分,体温36.5℃。両肺野喘鳴著明,両下肢浮腫。体重+3.5 kg。うっ血性心不全急性増悪でICU入室。ニトログリセリン0.05%製剤原液5 mL/時およびドブタミンシリンジ5 mL/時,フロセミド20 mg 2A静注,その後,反応がいまひとつのため,カルペリチド2 V/ブドウ糖40 mLで3 mL/時追加となった。 Case3 高血圧の既往のある80歳男性。右片麻痺でERに搬送。ER来院時,血圧230/120 mmHg,心拍数120/分,呼吸数25/分,体温36.5℃,呂律難と右上下肢の麻痺だった。頭部CTにて左被殻出血,脳室穿破。酸素3 L/分投与し,ニカルジピン原液3 mL/時でスタート。収縮期血圧は180 mmHg台へ低下。 |
心不全や高血圧緊急症など心疾患,脳血管障害のケースを多く扱うクリティカルケアの現場では,血管拡張薬,降圧薬はなくてはならない薬物です。
心機能を規定する因子の復習
血管拡張薬の作用を理解するためには,連載第5回(2890号)で触れた心機能を規定する4つの因子(心拍数,前負荷,後負荷,心収縮力)を知る必要があります(図1)。このうち前負荷,後負荷,心収縮力が特に重要で,心機能を心拍出量で考えると,1回拍出量はこの3つから成り立っています。
図1 心機能を規定する因子 |
心拍数はそれぞれ増加(陽性変時作用),低下(陰性変時作用)で表され,心収縮力はそれぞれ増加(陽性変力作用),低下(陰性変力作用)で表されます。そして心筋の収縮力が強力であるほど1回拍出量は(適切な後負荷のもとで)増加するという原則があります。ですから心収縮力の増強には,強心薬(連載第6回,2894号参照)のほか,冠動脈を拡張する薬剤も有効なことが理解できます。
前負荷は静脈還流量(体液量),つまり心臓に戻ってくる血液量を表し,前負荷が増大すれば1回拍出量も増加,一方前負荷が足りないと1回拍出量は低下します。これはFrank-Starlingの法則と言われます。しかし心不全などの病的な状態では,過剰な前負荷により最大1回拍出量を通り越して心機能が低下しています。その場合,適切な前負荷に戻す必要があります(利尿薬や静脈拡張薬を用いる)。
後負荷は末梢血管抵抗であり,末梢血管の硬さ,末梢血管収縮を表します。後負荷が高いと心臓から血液を押し出せない状態となり,特に心機能が悪いのに血圧が妙に高いケースでは,末梢動脈が締まりすぎていると考えるとよいでしょう。
以上より,血管拡張薬が作用する部位が静脈か,動脈か,冠動脈かを意識することで次のように理解できます。
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代表的な血管拡張薬
代表的な血管拡張薬を示します。
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1.ニトログリセリン(50 mg/100 mL 0.05%製剤)
冠動脈拡張および末梢血管拡張作用(特に静脈系)があり,抗血小板作用があります。また少量投与で静脈を開き(<40μg/分),大量投与で動脈を開きます(>200μg/分)。
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